古賀春江




沢山な窓のある家、
一つ一つの窓から顔が出てゐる。
顔には地図が描いてある。
みんなの地図が読める、
鳥籠も描いてある、花もあり、コップも、望遠鏡も、並ぶ顔、水筒、
霧、黎明とパイプも確実につながつてお互の陰翳を持つてゐる。
痙攣する避雷針の窓からまた一つの顔を見ないか、
揺れる、揺れる、椅子が、星が、
黒い夜の絵具は沈黙して語らない――その後の顔等に就いては。
今はただ明るく揺れる顔がある。





底本:「画家の詩、詩人の絵 絵は詩のごとく、詩は絵のごとく」青幻舎
   2015(平成27)年10月10日
底本の親本:「写実と空想」中央公論美術出版
   1984(昭和59)年
初出:「古賀春江画集」第一書房
   1931(昭和6)年
入力:かな とよみ
校正:村並秀昭
2019年8月30日作成
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