夜間教育の振興

嘉納治五郎




 最近わが國の教育は、之れを一般的に言へば、その形式の方面にも、その内容の方面にも、著しい進歩が認められるけれども、ひとり夜間教育に於ては、その學校數及生徒數の上から見ても、その設備内容の上から見ても、未だ歐米大國に比して遜色を見る實状に在ると言はねばならない。
 然るに夜間學校に通學する子弟の多くは、晝間業務に服して獨立自營能く乏しきに堪へながらも、猶研學の念に燃えて、夜間校門をくゞる健氣な青年達である。彼を思ひ、此を思ふ時に、わが國の朝野の識者が夜間教育のために助力を致され、その向上に資せられたいと願はざるを得ないのである。
 殊に世の富豪が夜間教育の重大性と現實の状態とを認識されて、夜間教育に對し、夜學生に對して援助されることは、たゞに夜間教育の進展のためのみならず、社會政策の一として極めて有意義なものがあらうと思ふ。
 今回文部省編纂に成る夜間實業教育史が、全國夜間甲種實業學校聯合會によつて上梓されるに當り、求めに應じて茲に一言した次第である。





底本:「夜間實業教育」全國夜間實業學校聯合會
   1935(昭和10)年10月15日発行
※国立国会図書館デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。
入力:かな とよみ
校正:植松健伍
2020年9月28日作成
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