由緒ある英国庭園にて 咲ける花のふしぎな夢

A FLORAL FANTASY IN AN OLD ENGLISH GARDEN

ウォルター・クレイン Walter Crane

大久保ゆう訳




表紙

扉絵1
扉絵2
詩とカラー画デザイン ウォルター・クレイン
印刷 エドマンド・エヴァンズ

挿絵1
なつかしき世の園の夢を見る
かつて草花は人のごとき名を持ち
どうにも姿もふしぎで
紳士淑女よろしく振る舞ったという

挿絵2
その昔ロザリンドの閨房近くでは
孔雀色したイチイの垣根のそばに
何も草花が見つからなかったそうだが
実は見つけ方にこつがあるのだ
さあ木戸の鍵を手に取るがよい
見るも麗しく 整えられた木の節や
刈り込まれた茂み なめらかな芝生に
沿って 気ままに夢をたどるのだ

挿絵3
草の葉からとうに雫も落ちきって かたわらで
時爺タイムがその大鎌を研いでいるうちに

挿絵4
四季の乙女らが飛ぶのも忘れて
日時計の柱をぐるりと踊るあいだに

挿絵5
英語の古書から一葉つまめば
糸葉キズイセンがひとり文筆を持ち来てくれよう

挿絵6
みどりの国の片隅から知らせておくれ
女と男よろしく装う草花たちのことを

挿絵7
まずは美神之鏡ヒナキキョウソウ
その向こうには流血之愛神ヒモゲイトウが見える

挿絵8
かたわら麗乙女群チドリソウが連れだって
さして心に気にもとめずに通り過ぎてゆく

挿絵9
つづいて 輝く円盾を手にしたひとりの騎士
かなりの厚さの獅子之群牙タンポポが見えるか
羽に覆われた盾頂は申し分なく
黄金の布地が広がっている

挿絵10
純朴な正直者ゴウダソウがいたずらに
布地を見せるが誰もまとおうとしない
そのそば つまれてしまう羊飼之袋ナズナ
ずるがしこい襤褸男センノウが下手人だ

挿絵11
ほかに 仔馬之足フキタンポポ
告天子距ヒエンソウ早駆クワガタソウ

挿絵12
草花のさなか まっすぐに向かう

挿絵13
みちみち 泉のところであえぐ鹿舌コタニワタリ

挿絵14
陽雫モウセンゴケをなめる犬舌オオルリソウなどもいる

挿絵15
こちらは乙女之髪クジャクシダに仕える美神之櫛ナガミノセリモドキ
あちらには 美女オオカミナスビに捧ぐ王杯リュウキンカたち

挿絵16
お召し物は紫と黄金でご満悦
とはいえ肩にかかるは死之夜布オオハシリドコロ

挿絵17
見よ 衣と冠まとう都之華ヒカゲユキノシタ
黄金杖アキノキリンソウにかしづかれている
かたわら 草花の一群がまわりに押し合いへし合い
貴婦人のこうべから会釈をいただこうと争う

挿絵18
待ちかまえる狐之手袋キツネノテブクロたち
ふたりひと組どころか大勢一党
この愉しみ見逃すまいと繰り出して
姉妹・伯母叔母・従姉妹まで

挿絵19
針草ハコベがため息つきつつ顔を上げ
いまだ縫われぬ独身男之釦ヤグルマギクを見やる

挿絵20
とはいえ未婚の軟弱者ヒナギクらの顔は眼中になし
なぜならまだ刈られたばかりのひよっこだから

挿絵21
馬尾スギナ狼爪ヒカゲノカズラから逃げおおせ
淑女之縁飾リボンガヤとともに走り去る

挿絵22
修道士之頭巾マルシアルムが法学士をつつみ
そして司祭草イワミツバが閣下自身を覆う

挿絵23
咬竜キンギョソウはその顎門を開くも
蘇格之国章アザミを目にするや青ざめる

挿絵24
あまりに勝ち目がなさすぎる
鱗のない竜であっては

挿絵25
匍匐娘コバンコナスビがだらん横になっていると
とうとう楽しい気持ちが盛り上がってきて
この世での舞い上がり方も知っているから
雅各之梯子ハナシノブを登ってゆくのだ

挿絵26
色男維廉ビジョナデシコ黄金瑪麗キンセンカとともに
近くの花壇で心之平安サンシキスミレをさがす
そこでは しっかり糊付けした襞襟を重ねて
すまし顔の和蘭博士花テンジクボタンが整列している

挿絵27
自己愛男スイセンが小川をのぞきこむ
不凋花ラッパズイセンに気を取られて

挿絵28
その向こうずみからながめる目明草コゴメグサ
なんてばかなひとなのかしらとそぞろ思う

挿絵29
童槍ガマと 対するは王之槍ツルボラン
喇叭キランソウの音が試合開始を告げる

挿絵30
その場で我が物顔の淑女之肩掛ハゴロモグサ
この女こそ決闘のきっかけたる旗印

挿絵31
騎士之拍車ルリヒエンソウの向かう先は淑女之私室センニンソウ
淑女之履物アツモリソウを探して捜索中

挿絵32
女のほうは夏の小雨で迷子になって
そこへ足をひっかけようとする道化草チョロギ

挿絵33
牛酪色卵色ホソバウンランにつむがれる蛙亜麻セイヨウウンラン

挿絵34
淑女之座布ハマカンザシに腰を下ろす千葉アルメリア
何も棄てず盗まずねだらずともよいのに
哀れな襤褸草ボロギクに手を差し伸べてもやらない

挿絵35
草原女王セイヨウナツユキソウ甘美草地シモツケソウ
広々とした草の領地におわします

挿絵36
ところがその宮廷で出会えないのが
包み頭巾の堂々とした土耳古人頭マルタゴン

挿絵37
きらきら八芒星オオアマナが照り輝く
昔話のように地に近きところで

挿絵38
そして緑の陰をぬけて明るくなるのが
聖約翰草オトギリソウの光――黄金の光輪

挿絵39
ところが陽の時間はたちまち過ぎ去る
やがてそれとともに草花もしおれゆく

挿絵40
霧中之愛クロタネソウは身を隠すも
庭の時爺は次々と抜き取ってゆく

挿絵41
おいでなさるは旅人之悦ボタンヅル
からみ抱きしめ 旅の終わりにご挨拶

挿絵42
われらも葡萄酒漬クンイソウで話し込み
また次もほがらかに会おうと乾杯できよう

奥付





翻訳の底本:Walter Crane (1899) "A Floral Fantasy in an Old English Garden"
   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
   2018(平成30)年12月25日翻訳
   2019(令和元)年10月31日青空文庫版公開
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翻訳者:大久保ゆう
2019年11月5日作成
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