ねこばんばんせんせん

MILLIONS OF CATS

ワンダ・ガアグ Wanda Gag

おおくぼゆう やく




表紙
扉絵

挿絵1
 むかしむかし あるところに ずいぶんな おじいさんと ずいぶんな おばあさんが おりました。 そのすまいは、 こぎれいな おうちで、 とぐちを のぞいて ぐるりと かだんが ございます。 ところが わびしい くらしなので、 しあわせな きもちには なれなかったのでした。
挿絵2
「ねこさえ いてくれりゃあねえ。」と おばあさんは ためいき。
「ねこ?」と おじいさんが たずねます。
「そう、 かわいらしい もふもふの こねこ 1ぴき。」と おばあさん。
「そんなら、 ちょっくら つかまえて こようかね。」と おじいさん。
挿絵3
挿絵4
 こうして でかけた おじいさん、 おかを いくつも のぼって ねこを さがしました。 ぎらぎらした おかから おかへ えいさ こらさ、 ひえびえした たにから たにへ えっちら おっちら。 えんえん ながなが あるきつづけて、 とうとう たどりついた おかには なんと いちめん ねこばかり。
挿絵5
ここも ねこ、 そこにも ねこ、
ねこ こねこ いたるところ、
ぞろぞろと ねこ、
わらわらと ねこ、
ねこ ばんばんせんせん、 おくせんまん、 おくちょうまん。
挿絵6
「おお。」と うれしい こえを はりあげる おじいさん。「これなら いちばん めんこい ねこを えらんで、 うちに つれて かえれるなあ!」そこで 1ぴき えらびました。 しろねこです。
挿絵7
 ところが かえりかけたところで、 またべつの しろくろのが めのまえに いて、 はじめのと おなじくらい かわいかったのです。 なので、 そのこも ひろいました。
挿絵8
 なのに そのあと めに とびこんできたのが さきに いた はいいろの ふわふわ こねこ。 どこもかしこも まえと まけないくらい かわいいものですから、 また そのこも ひろいました。
挿絵9
 そして ふと めにはいる かえりみちの かどのところの 1ぴき。 かわいすぎたので ほうっておけず、 そのこも またまた ひろいました。
挿絵10
 そのすぐあと むこうに おじいさんが みつけたのは たいへん うつくしい くろの こねこ。
「こいつを すておくなんて なが すたるってもんだ。」と おじいさん。 そこで やはり ひろいます。
挿絵11
 ふと そのさらにおく、 めのまえに あかちゃん とらのような ちゃいろと くろの しましま ねこ。
「まったく ひろうしか ないわい!」と こえを はりあげる おじいさん、 そのとおりに いたします。
挿絵12
 そうして なりゆきに まかせて、 おじいさんは みつけるたびに めのまえの ねこが かわいくて ほうっておけないと、 じぶんでも わからないまま ねこを みんな つれていくことに いたしました。
挿絵13
 こうして ぎらぎらした おかから おかへ ひきかえし、 ひえびえした たにから たにへ ぬけていき、 おばあさんに かわいい ねこ みんなを みせに かえるのです。
挿絵14
 おじいさんの うしろから ぞろぞろと わらわらと、 ばんばんせんせん、 おくせんまん おくちょうまんと、 ねこが ついてくるのは ゆかいな みもので ありました。
挿絵15
 みんなして いきあたったのは いけのところ。
「みゃあ、 みゃあ! みんな のどが かわいたよ!」と こえを あげていく ねこ、 ぞろぞろ わらわら ばんばんせんせんの ねこ、 おくせんまん おくちょうまんの ねこ。
挿絵16
「ふむ、 ここに おおきな いけが あるぞ。」と おじいさん。
 どんどん ねこが みずを ひとなめずつ していくと、 なんと いけが ひあがりました!
挿絵17
「みゃあ、 みゃあ! みんな おなか すいたよ!」と いいだす ねこ、 ぞろぞろ わらわら ばんばんせんせんの ねこ、 おくせんまん おくちょうまんの ねこ。
挿絵18
「おかには くさが ふんだんに あるぞ。」と おじいさん。
 ずんずん ねこが くさを ひとくちずつ たべていくと、 なんと 1ぽんも のこりません!
挿絵19
 ほどなくして おばあさんの めのまえに みんなが やってきました。
「おやまあ!」と びっくり。「なにごとだい? ねだったのは こねこ 1ぴきなのに、 このありさまは? ――
ここも ねこ、 そこにも ねこ、
ねこ こねこ いたるところ、
ぞろぞろと ねこ、
わらわらと ねこ、
ねこ ばんばんせんせん、 おくせんまん、 おくちょうまん。」
挿絵20
「いやいや、 これじゃあ えさが まにあわん。」と おばあさん。「こっちが くいつぶされて、 いえが かたむくよ。」
「これは うっかり。」と おじいさん。「どうしたもんか。」
 おばあさんは しばらく かんがえてから こう いいました。「よし! そんなら どのねこが のこるかは、 ねこのうちで きめてもらえば ええ。」
「そうだな。」と おじいさんは ねこ みんなに よびかけます。「いちばん めんこいのは どのねこだ?」
「はい!」
「おう!」
「いや ぼくだ!」
「わたしが いちばん!」
「うちだ!」
「いや われだ! わしだ! わらわだ!」と あがっていく こえ、 ぞろぞろ わらわら ばんばんせんせんの、 おくせんまん おくちょうまんの こえ。 どのねこも じぶんが いちばん かわいいと おもっていたものですから。
 かくして おおげんかの はじまり。
挿絵21
 どのねこも おたがいに ひっかき ぐっさり、 ものすごい ものおとで、 おじいさんと おばあさんは おおいそぎで うちのなかに かけこみました。 ふたりとも こういう あらそいごとは にがてなのです。 ところが しばらくすると ものおとも やんだので、 おじいさんと おばあさんが まどの そとを のぞきますと、 ことの しだいが わかりました。 めのまえには 1ぴきも ねこが いなかったのです!
挿絵22
「どうやら ともぐい しちまったみたいだね。」と おばあさん。「こまったねえ!」
「でも ほれ!」と おじいさんは くさむらを ゆびさします。 そのなかで しゃがんでいたのは、 ぶるぶる ふるえた こねこ 1ぴき。 そとへ でた ふたりは そのこを ひろいあげました。 がりがり ぼさぼさの ねこです。
挿絵23
「かわいそうな こねこ。」と おばあさん。
「けなげな こねこだ。」と おじいさん。「どういうわけだか くわれずに すんだのか、 ぞろぞろ わらわら ばんばんせんせんの、 おくせんまん おくちょうまんの ねこどもに?」
「その、 わたくし とても じみな こねこですので。」と こねこ。「あなたさまが いちばん かわいいのは どいつだと よびかけましたときにも、 なんとも もうしませんで。 それで だれからも ちょっかい だされずじまいで。」
挿絵24
 ふたりは そのこねこを いえへと つれていき、 なかで おばあさんに ぬくい おふろに いれてもらい、 けなみに くしを かけてもらうと、 こねこは ふわふわ つやつやに なりました。
挿絵25
 まいにち ふたりは たっぷりの ぎゅうにゅうを やり ――
挿絵26
―― すぐに こねこは こぎれいで ふくよかに なりまして。
挿絵27
「やっぱり かわいいのは このねこだね。」と おばあさん。
「よのなかで いちばん うつくしい ねこだとも。」と おじいさん。「そりゃあ わかるとも。 なにせ わしは ――
 ぞろぞろと ねこ、
 わらわらと ねこ、
 ばんばんせんせん おくせんまん おくちょうまんの ねこを ――
 みてきたが こいつほど めんこいのは おらなんだよ。」
挿絵28
挿絵29





翻訳の底本:Wanda G※(アキュートアクセント付きA小文字)g (1928) "Millions of Cats"
   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
   2024(令和6)年12月25日翻訳公開(aozorablog)
   2025(令和7)年12月24日青空文庫公開
※挿絵も、著者当人によるものです。
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンス」(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja)の下で公開されています。
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翻訳者:大久保ゆう
2025年12月22日作成
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