X68000 電脳倶楽部


X68000 ちょっと前(今考えれば古き良き時代)の日本のコンピュータと言えば、NECとシャープと富士通のマシン(MSXを外してごめんなさい)でした。もちろんNECのシェアがだんとつで、それを嫌う人がシャープ、富士通へと流れて行きました。私もその流れに乗った人で、シャープのX68000というマシン(左の写真参照)を買ったのです。当時としては、NECのマシンよりも優れた点が多く、CPUもモトローラの68000を使っていました。

 そのX68000のユーザーに向けて、満開製作所というところが、5inchフロッピーのディスクマガジン「電脳倶楽部」というものを発行していました。第1号が出たのは1988年6月で、もう今から10年近くも前のことです。  このマガジンの中の一つのコーナーにPDD(パブリック・ドメイン・データ)というものがありました。これは、いろいろなテキストをパブリック・ドメイン化して、みんなで共有しようという運動です。この青空文庫を始めたころ、私はこのディスクマガジン「電脳倶楽部」を自分が所有していることをすっかり忘れ、PDDという運動があったことさえも忘れていました。ところがインターネットの中を電子テキストを求めてさまよっていると、あちこちでディスクマガジン「電脳倶楽部」のPDDを元に作成しているテキストデータがあるのです。あれ?待てよ、この「電脳倶楽部」というものは俺も持っているな、と思って家へ帰ってX68000のフロッピーディスクをひっくりかえすと、出てくるわ出てくるわ31号まで出てきました。

「電脳倶楽部」の中でPDDの運動が始まったのは第3号からです。その次の号の「PDDのすすめ」には以下のように記述されています。

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 PDD ノ ススメ


 PDDとは、パブリック・ドメイン・データ、つまりはPDSのデータ版なわけだな。
 で、ど−してこのようなことを言いだしたかというと、

  本当は誰だってパソコン文化の発展に参加できるはずだ

という考えがもとである。そしてその第一がPDDではないだろうかと思うのである。

 たとえば、この世にPDDは数限りなくある。

 クラシックの曲(譜面)
 小倉百人一首(これは今月発表できた。ありがたや)
 源氏物語
 奥の細道
 いろはがるた

などはPDDである(注釈や現代語訳は別である)。だから、

 古池や 蛙とび込む 水の音

と書いても、だれにも著作権使用料を払わなくてもいいのである。

 さらには新しいところでは、

 夏目漱石の「吾輩は猫である」
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」

などもPDDだったりする。これはど−ゆ−ことかというと、基本的には「著作権は死後50年まで」という世界的(だったと思う)な取り決めによるものなのである(ただし版組などはその限りではないようである)。
 まだまだある。たとえば法律の条文、今月号でバージョン0.9が発表できた日本国憲法の条文もPDDである。
 で、自分はどの部分を打ち込むべきかという問題がある訳だな。その決め方は、

   自宅の電話番号の下4桁
 +)自分の誕生日を4桁の数字にしたもの
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   nnnn

 これで得られる数字は0000〜9999になるはずである。
 たとえば電話番号が「???−4126」で、誕生日が2月29日ならば、

   4126
 +)0229
 −−−−−−
   4355

となる。
 この数字を元に自分の打ち込むべき部分を決めるわけだ。私の場合はこれが9259である。
 たとえば日本国憲法だったら103条あるから、私が打ち込むべき条文は次のように求められたわけである。

 INT(103×9259/10000)+1
 =96

 一般式でいうならば、
 INT(アイテム数×nnnn/10000)+1である。
 そこで、

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

憲法改正の手続き、その公布

第96条

 この憲法の改正は、各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
 憲法改正において前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

打込人 祝一平
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
となったわけである。

 このようにして103条が集まったので、バ−ジョン0.9として発表されたわけだ。で、次に大事なのバグ取りだな。これはそれぞれが「nnnn+5000」の人のを校正(チエック)する。そして誤字脱字を訂正してバ−ジョン1.0となり、数十人の打込人の名前を「しっかり」とくっつけたまま(取り外しは反モラルであろう)全国津々浦々に流布して、人類の文化に(たぶん)貢献するのである。

 送り先は

である。郵送の際には当社の研究によって開発された「片面くり抜きダンボ−ルファイル」をご使用になると(他に紙などを多く入れないかぎり)120円の料金ですむはずである。
 六法全書を持ってない人や、「ど−も法律はすかん」という人もおられるだろう。そのよ−な場合は地図を打ち込む人がいてもいいし、年表(著作権に気を付けて)を打ち込む人がいてもいいだろう。大事なのは、自分が興味を持った分野ということであろうか。
 ただ、一番ロクでもないのが「ど−せ自分と同じnnnnを持った奴がどこかにいるんだろうから、そいつにまかせた」のノリである。そう思うんだったら、他のもの(英文で米合衆国憲法を打ち込むとか、旧日本国憲法を打ち込むとか)のnnnnに取りかかって欲しいのである(ただし旧日本国憲法は現在前文以外が揃ってしまった。だれか前文打ち込んどくれ。さもないと私が打ち込まねばならん)。
 忘れてはならないのは、パソコン文化に参加するのに、別にプログラミング能力は必要ないということである。要はやる気だけなのだ。
 できれはバブリックドメインの英和辞典(無理だったら単語帳クラスでも)や、世界地図、ベクトルフォント(点々ではなく線分で構成された文字デ−タだから拡大縮小に比較的強い)、星座、歴代の天皇、年号(旧暦)と西暦の対応表(これは来た)も狙いたいものである。
 であるから、これから「作ってね」には「じゃ、打ち込んでね」で対抗する予定である。これで、誰でも確実にパソコン文化に参加できるはずである。
 ご意見と投稿をお待ちします。

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電脳倶楽部  このようにして始まったPDDの運動は、私の確認できる範囲では93号まで続いたようです。それから月日は流れ、日本のコンピュータはすべてMS−DOS、そしてWindowsマシンとなってしまい、それを嫌った私もMacintoshのマシンを使うようになり(いつも主流からはずれようとしている!)、X68000を振り返ることはあまりなくなっていました。

「電脳倶楽部」のフロッピーを見つけた私は、満開製作所に連絡をとろうと考えました。でも、満開製作所はもうないだろうな、と半分思いつつ、この「PDDノススメ」の中に出てくる名前、祝一平さんを手がかりに、青空文庫の一員である富田さんにこの件を話したのです。祝一平さんは、シャープ系のマシンの雑誌「Oh!X」によく見かけたお名前でした。富田さんはその雑誌の編集者をご存じということで、祝一平さんの連絡先をその編集者の方から聞いてくれたのです。驚いたことに祝一平さんは、満開製作所の社長でした。そして、すぐさま電話をしたのですが、祝一平さんはご病気とのことで直接お話することはできませんでした。しかし、「電脳倶楽部」の担当者の方からPDDのものをインターネットで公開する許可は得ることができました。

 10年も前から行われていた運動、それを引き継いで走っていくのが私たちの役目ではないかと思います。昔はフロッピーでしか配ることができませんでした。しかし今はインターネットがあるのです。一人の一人の行った作業が一瞬のうち、何千人、何万人の人々の役にたてるのです。インターネットをからっぽの洞窟にさせないのは私たちなのです。