青空文庫20周年記念シンポジウム「青空文庫の今とこれから」


青空文庫は1997年の創設以来、「青空文庫の提案」をひとつの理念として、20年にわたって「青空の本」を集め、この文庫という場で誰の手にも取れるようにしてきました。

そして20周年の節目に、本の未来基金との共催で、これまでの歩みを記念し、これからの発展へとつなげるシンポジウムを開くとともに、青空文庫のボランティア耕作員や支援・活用してくださる方々との交流・情報交換の場を持ちました。

ここではとりわけ、青空文庫の20年を振り返るとともに、青空文庫の入力・校正などの実際を見せるデモや、これまでに青空文庫をご活用くださった皆様からその例をお話し頂くセッション、また著作権保護期間延長問題に関連した話題など、対外的な催しにした「青空文庫20周年記念シンポジウム「青空文庫の今とこれから」」の資料をまとめたいと思います。



「青空文庫20周年記念シンポジウム「青空文庫の今とこれから」声明文」

多くのボランティアに支えられ、青空文庫は今年20年という節目を迎えることができました。著作権の精神を尊重しながら、誰でもいつでもどこでも自由に本が読めるという理念のもとに、多くの作品を天に積み上げ、青空文庫というパブリックドメインの空間を広げ深めてきた20年でした。青空の作品は多くの人たちに読まれ、活用され、新たな創作活動の一端を担うまでに成長してきました。可能性は無限に広がっています。

わたしたちは、これまで通りこうした活動をこれからの20年、そしてその先もずっと続けていきたいと思っています。けれど現実はどうでしょう。見上げる青空の景色が変わろうとしています。これからの20年、新しい作家の作品が青空文庫に加わることができなくなるかもしれないのです。そうなれば、青空文庫だけでなく、文化のさらなる発展、創造にはかりしれない損失をもたらすでしょう。20周年を迎えたこの時に、これからの20年のあり方をともに考え、伝え、行動していきたいと、そう思います。

昨今、日本の文化をめぐる情勢はますます息苦しく、そして抗う暇さえなく現実さえも不穏になりつつあります。自由な文化がそこに存在し、過去・現在・未来の人々が、お互いに創ったものと付随する想いを受け止め、育み、交わすことは、人間生活においてかけがえのない大切なものです。そして広く自由な青空のもとでこそ、作品は幾度となく再発見され、社会で共有されることでさらなる活用や創作へも結びついていきます。

今このときに脅かされているのは、単なる政治・経済の問題だけではありません。私たちの、命ある心の拠り所そのものである、文化のあり方が揺るごうとしているのです。未来の文化と、それを支える仕組みを、あらためて考えるべき時が来ているのだと、そう思います。

(富田倫生による「紹介・朗読」)
 時々私は廿年の後、或は五十年の後、或は更に百年の後、私の存在さへ知らない時代が来ると云ふ事を想像する。その時私の作品集は、堆だかい埃に埋もれて、神田あたりの古本屋の棚の隅に、空しく読者を待つてゐる事であらう。いや、事によつたらどこかの図書館に、たつた一冊残つた儘、無残な紙魚の餌となつて、文字さへ読めないやうに破れ果てゝゐるかも知れない。しかし――
 私はしかしと思ふ。
 しかし誰かゞ偶然私の作品集を見つけ出して、その中の短い一篇を、或は其一篇の中の何行かを読むと云ふ事がないであらうか。更に虫の好い望みを云へば、その一篇なり何行かなりが、私の知らない未来の読者に、多少にもせよ美しい夢を見せるといふ事がないであらうか。
 私は知己を百代の後に待たうとしてゐるものではない。だから私はかう云ふ私の想像が、如何に私の信ずる所と矛盾してゐるかも承知してゐる。
 けれども私は猶想像する。落莫たる百代の後に当つて、私の作品集を手にすべき一人の読者のある事を。さうしてその読者の心の前へ、朧げなりとも浮び上る私の蜃気楼のある事を。(芥川龍之介「後世」)

20年、50年、さらには100年のあとにまで、社会のなかで作品を残し続け、いつでも、どこでも、誰の手にでも触れられるようにするには、読者と本の偶然の出会いをあまねく許すような、そんな社会を作るためには、どうすればよいのか。その手段を常に模索しつつ、それとともに共有アーカイヴの意義を、これからも世の中に問いかけ続ける活動でありたいと、そう願っています。

青空文庫は20年を経て、社会における利活用や世界じゅうでの読書生活も含め、単なるボランティア活動や電子アーカイヴを越えたひとつのコミュニティにもなっていると実感しています。これからも、ともに豊かな文化を支え、創っていきましょう。(富田晶子/大久保ゆう)



更新履歴:「青空文庫」
   2018(平成30)年1月1日
2018年1月1日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。



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