●アクセント符合付きのラテン文字と丸付き数字が、JIS漢字コードでうまく扱えない理由

 私たちが日常お世話になっているJIS漢字コードでは、フランス語やドイツ語などをうまく取り扱うことができません。
 アクセント符号付きの文字が、コードの体系の中に含まれていないからです。

 ギリシア文字やキリール文字(ロシア文字)が入っているのに、フランス語、ドイツ語などのアクセント符号付き文字が入っていないのはなぜでしょう?
 フランス語、ドイツ語が、それほど大切ではないと考えられたからでしょうか?
 そうではありません。

 初めての文字コードの国際規格は、1967年に勧告されたISO R 646でした。
 当時コンピューターの出力機器として想定されていたのは、電動のタイプライターです。それ故、アルファベットとアクセント符号を別々に用意しておき、重ね打ちすれば用が足りると考えられました。
 先ずAならAを打つ。するとタイプライターは一字分送る。そこで一字分後退をかけて、アクセント符号をダブらせて打つようにしようと決められたのです。
 アクセントを打ったときは、送りがかからないように決めておくのも一つの方法です。先ずアクセントを打つ。そこではタイプライターは送らない。つぎに、AならAを打つ。アクセント付きのAができあがった段階で、初めて送るこの方式も、別に定められました。(ISO 6937)
 出力機器がこうした重ね打ちに対応できるものにとどまったなら、これでもすんだでしょう。
 丸付きの数字に関しても、同様の方法で処理できます。

 1978年に定められたJIS漢字コードの第一次規格は、この重ね打ちが今後も有効であると、無自覚に受け入れてしまいました。
 JIS漢字コードの符合表の01-13から01-16(区点コード)には、アクセント符号が並んでいます。
 フランス語やドイツ語のアクセント符号付き文字は、重ね打ちで表せるという明らかに誤った方針が紛れ込んでしまいました。
 それが今に至るまで生き残ってしまったのです。
 アクセント符号付きのラテン文字の処理や、個別に外字として登録された丸付き数字のバケに私たちが悩まされるのは、そのためです。(ただフランス語のセディーユに対応するアクセント符号が、JIS漢字コードにはないと思うのですが、これがどういう判断に基づいてそうなったのか、まだ私は理解できていません)

 JIS漢字コード第四次規格(1997年)の改正にあたったチームは、これまでの規格の問題点を、きわめて厳密に洗い出しました。
 合成文字に関しても、規格の解説(3.9 合成文字)で問題の所在を明らかにすると共に、「この規格で規定するすべての図形文字が前進を伴う図形文字とし、合成は行わないこととした」(つまりバックはなし)と明言しています。
 これまで合成という看板を掲げていたものを、それは幻だと明言すれば、「ではどうやってフランス語やドイツ語を表記するのだ」と迫られます。
 規格の解説は、同項に参考として、「実務に必要である丸付き数字などに対応するためには、この規格を将来拡張することが必要になるであろう」と添えています。

 アクセント符号付きの文字に直接の言及はありませんが、当然拡張された規格にはこれが収められると思います。

 第四次規格の改正にあたったチームは引き続いて、約5000字の漢字・記号類を追加した新JIS漢字コードの策定作業にあたっています。
 1998年9月から12月にかけて公開レビューを行い、1999年3月の規格制定を予定しています。
 追加分は第三水準、第四水準という扱いで、JIS漢字コードに追加されます。
 つまり、第四水準まで備えておかなければJIS適合のマシンになりません。
 要するにMacもWindowsも、みんなここまでは必ず入るようになります。(すでに導入されているマシンに関しては、個々のユーザーが第四水準まで実装したフォントを追加で組み込む過程に、ばらつきが生じるでしょうが)

 足りない漢字を補うと共に、丸付き数字とアクセント符号付きラテン文字の問題も、新JIS漢字コードでは解決がつくはずです。
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