グーテンベルク・プロジェクトの危機

 著作権の保護期間から外れた本を電子化し、誰でも読めるように公開していこうとするグーテンベルク・プロジェクトと名付けられた試みがあります。
 マイケル・ハートというコンピューター関係のエンジニアが、25年も前からぼちぼち進めてきたプロジェクトで、インターネットの普及に伴って広く知られるようになり、利用者も、電子化の作業にあたるヴォランティアも増えました。
 津野海太郎さんの『本はどのように消えてゆくのか』に紹介されているのを、読まれた方もあるかと思います。

 コンピューターとネットワークを前提にできるのなら、書籍の類は誰かが一度デジタル化してしまえば、ほとんどコストを要することなく、複製、移動できる。
 ならば、紙の本の複製と流通に今後も社会的なコストをかけ続けるのはばからしい。
 誰かがデジタル化してくれるのを待っているのもなんなので、とっとと自分たちではじめよう、というのがプロジェクトの精神です。

 この計画では、どんなコンピューターを使っている人でもそのまま利用できるように、マークアップの類を一切排除し、〈プレイン・ヴァニラ・ASCII〉で渡すことを原則としています。
 SGMLなり、HTMLなり、エキスパンドブックなりを取りあえず使っていこうと考えている人とは、少し立場が違うかも知れません。
 けれどこれもまた、本を電子化することの可能性の一つを実践的に確かめていこうとする、実に頼もしい試みだな〜と感心して見ていました。

 ところがこのプロジェクトのホームページが、数カ月前に何やらただならぬ感じで移動してしまいました。
「緊急事態発生!」という悲鳴のようなものは聞こえても、事の顛末が見えなかったのですが、先ほどのぞきにいって見て、事情を説明する新しいメッセージを見つけました。

 それによれば、
1 25年前にプロジェクトがスタートして以来、コンピューターを使わせてくれていたイリノイ大学が、正式な活動ではないグーテンベルク・プロジェクトへの支援を打ち切り、アカウントを取り消した。
2 資金援助をしてくれていたイリノイ・ベネディクティン・カレッジが、財政難からサポートを継続できなくなった。
3 成果物をCD−ROMにして売り、プロジェクトに対して財政的な支援を行っていたウォルナット・クリーク社の売上げが減った。(ここは少しぼやかして書いてあるので、トップが交代したという同社との関係が、少しおかしくなったということなのかも知れません)
 といった事情があったとのことでした。

 プロジェクトを非営利の法人化させることで 、ハートはこの事態を乗り越えようと考えているようです。

〈プロジェクト・グーテンベルクは、かつてないほど切実にあなたの支援を求めています〉

 そう訴えかけるメッセージは、http://www.promo.net/pg/で読むことができます。

 もしもこの情報を誰かに伝えたいと思われた方が、私の書き込みをそのまま転送するなり一部を抜粋するなりしてくださるなら、書いた甲斐があるというものです。



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