2005年6月29日 作成 土屋隆
以下の違いは省略します。
角川文庫「銀河鉄道の夜」 1969(昭和44)年7月20日改版初版発行 1991(平成3)年6月10日改版65版 |
新潮文庫「新編 銀河鉄道の夜」 1989(平成元)年6月15日発行 1994(平成6)年6月5日13刷 |
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172-2 | 一 午後の授業 | 157-2 | 一、午后の授業 |
172-3 | そういうふうに川だと言われたり、 ※以降の「言う」と「云う」の違いは省略。 |
157-3 | そういうふうに川だと云われたり、 |
ニ 活版所 | ニ、活版所 | ||
175-16 | ある大きな活版所にはいって靴をぬいで上がりますと、 | 161-1 | ある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴をぬいで上りますと、 |
175-17 | たくさんの輪転機が | 161-3 | たくさんの輪転器が |
176-15 | すると白服を着た人が | 161-18 | するとさっきの白服を着た人が |
三 家 | 三、家 | ||
178-13 | 教室へ持って行くよ | 163-17 | 教室へ持って行くよ。一昨年修学旅行で〔以下数文字分空白〕 |
179-1 | 「カムパネルラのお父さんとうちのお父さんとは | 164-6 | 「あの人はうちのお父さんとは |
179-5 | アルコールランプで走る汽車があったんだ。 ※以降の「ン」と「ム」の違いは省略。 |
164-10 | アルコールラムプで走る汽車があったんだ。 |
179-7 | 缶がすっかりすすけたよ | 164-12 | 罐がすっかり煤けたよ |
四 ケンタウル祭の夜 | 四、ケンタウル祭の夜 | ||
181-3 | ラッコの上着が来るよ ※以降の「ラッコ」と「らっこ」の違いは省略。 |
166-8 | らっこの上着が来るよ |
182-6 | こんなような蠍だの勇士だの ※以降の「蠍」と「蝎」の違いは省略。 |
167-11 | こんなような蝎だの勇士だの |
182-12 | プラタナスの木などは、 | 167-17 | プラタヌスの木などは、 |
184-11 | わあわあと言いながら | 169-16 | わああと云いながら |
184-14 | ジョバンニは走りだして黒い丘の方へ | 169-18 | ジョバンニは黒い丘の方へ |
五 天気輪の柱 | 五、天気輪の柱 | ||
185-7 | 亙っているのが見え、 | 170-10 | 亘っているのが見え、 |
185-15 | 野原から汽車の音が聞こえてきました。 | 171-1 | ジョバンニは町のはずれから遠く黒くひろがった野原を見わたしました。 そこから汽車の音が聞えてきました。 |
185-18 | (この間原稿五枚分なし) | 171-6 | あああの白いそらの帯がみんな星だというぞ。 |
六 銀河ステーション | 六、銀河ステーション | ||
187-3 | 青い天鵞絨を張った腰掛けが、 | 172-11 | 青い天蚕絨を張った腰掛けが、 |
188-12 | 一々の停車場や三角標、 ※以降の「々」の使用・不使用の違いは省略。 |
174-2 | 一一の停車場や三角標、 |
189-13 | 野原いっぱいに光っているのでした。 | 175-4 | 野原いっぱい光っているのでした。 |
190-2 | 「アルコールか電気だろう」カムパネルラが言いました。 するとちょうど、それに返事するように、どこか遠くの遠くのもやのもやの中から、セロのようなごうごうした声がきこえて来ました。 「ここの汽車は、スティームや電気でうごいていない。ただうごくようにきまっているからうごいているのだ。ごとごと音をたてていると、そうおまえたちは思っているけれども、それはいままで音をたてる汽車にばかりなれているためなのだ」 「あの声、ぼくなんべんもどこかできいた」 「ぼくだって、林の中や川で、何べんも聞いた」 |
175-10 | 「アルコールか電気だろう。」カムパネルラが云いました。 |
七 北十字とプリオシン海岸 | 七、北十字とプリオシン海岸 | ||
193-14 | 思わず二人ともまっすぐに | 177-16 | 思わず二人もまっすぐに |
197-6 | スコップをつかったりしている、 ※以降の「スコップ」と「スコープ」の違いは省略。 |
181-7 | スコープをつかったりしている、 |
198-2 | いまの牛の先祖で、昔はたくさんいたのさ | 182-3 | いまの牛の先祖で、昔はたくさん居たさ。 |
八 鳥を捕る人 | 八、鳥を捕る人 | ||
九 ジョバンニの切符 | 九、ジョバンニの切符 | ||
212-12 | どうしても見ているとそれができないのでした。 | 196-15 | どうして見ているとそれができないのでした。 |
212-15 | 私たちはかたまって、もうすっかり覚悟して | 196-18 | 私はもうすっかり覚悟して |
212-16 | 浮かべるだけは浮かぼうと船の沈むのを | 196-18 | 浮べるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを |
212-18 | 三〇六番の声があがりました。 | 197-3 | 〔約二字分空白〕番の声があがりました。 |
213-6 | 小さな嘆息やいのりの声が聞こえ | 197-9 | 小さないのりの声が聞え |
217-8 | 三〇六番の讃美歌のふしが | 201-10 | 〔約二字分空白〕番の讃美歌のふしが |
217-17 | 「あ、孔雀がいるよ。あ、孔雀がいるよ」 「あの森琴の宿でしょう。あたしきっとあの森の中にむかしの大きなオーケストラの人たちが集まっていらっしゃると思うわ、まわりには青い孔雀やなんかたくさんいると思うわ」 |
202-1 | 「あ孔雀がいるよ。」 |
218-7 | 「ええ、三十疋ぐらいはたしかにいたわ」 | 202-7 | 「ええ、三十疋ぐらいはたしかに居たわ。ハープのように聞えたのはみんな孔雀よ。」 |
218-11 | ところがそのときジョバンニは川下の遠くの方に不思議なものを見ました。それはたしかになにか黒いつるつるした細長いもので、あの見えない天の川の水の上に飛び出してちょっと弓のようなかたちに進んで、また水の中にかくれたようでした。おかしいと思ってまたよく気をつけていましたら、こんどはずっと近くでまたそんなことがあったらしいのでした。そのうちもうあっちでもこっちでも、その黒いつるつるした変なものが水から飛び出して、まるく飛んでまた頭から水へくぐるのがたくさん見えてきました。みんな魚のように川上へのぼるらしいのでした。 「まあ、なんでしょう。たあちゃん。ごらんなさい。まあたくさんだわね。なんでしょうあれ」 睡そうに眼をこすっていた男の子はびっくりしたように立ちあがりました。 「なんだろう」青年も立ちあがりました。 「まあ、おかしな魚だわ、なんでしょうあれ」 「海豚です」カムパネルラがそっちを見ながら答えました。 「海豚だなんてあたしはじめてだわ。けどここ海じゃないんでしょう」 「いるかは海にいるときまっていない」あの不思議な低い声がまたどこからかしました。 ほんとうにそのいるかのかたちのおかしいことは、二つのひれをちょうど両手をさげて不動の姿勢をとったようなふうにして水の中から飛び出して来て、うやうやしく頭を下にして不動の姿勢のまままた水の中へくぐって行くのでした。見えない天の川の水もそのときはゆらゆらと青い焔のように波をあげるのでした。 「いるかお魚でしょうか」女の子がカムパネルラにはなしかけました。男の子はぐったりつかれたように席にもたれて睡っていました。 「いるか、魚じゃありません。くじらと同じようなけだものです」カムパネルラが答えました。 「あなたくじら見たことあって」 「僕あります。くじら、頭と黒いしっぽだけ見えます。潮を吹くとちょうど本にあるようになります」 「くじらなら大きいわねえ」 「くじら大きいです。子供だっているかぐらいあります」 「そうよ、あたしアラビアンナイトで見たわ」姉は細い銀いろの指輪をいじりながらおもしろそうにはなししていました。 (カムパネルラ、僕もう行っちまうぞ。僕なんか鯨だって見たことないや) ジョバンニはまるでたまらないほどいらいらしながら、それでも堅く、唇を噛んでこらえて窓の外を見ていました。その窓の外には海豚のかたちももう見えなくなって川は二つにわかれました。 |
202-11 | 川は二つにわかれました。 |
223-5 | 風もなくなり汽車もうごかず、しずかなしずかな野原のなかにその振り子はカチッカチッと正しく時を刻んでいくのでした。 | 205-4 | その振子は風もなくなり汽車もうごかずしずかなしずかな野原のなかにカチッカチッと正しく時を刻んでいくのでした。 |
223-9 | 向こうの席の姉がひとりごとのように | 205-7 | 姉がひとりごとのように |
223-16 | また手で顔を半分かくすようにして | 205-13 | また両手で顔を半分かくすようにして |
224-9 | あの姉は弟を自分の胸によりかからせて睡らせながら黒い瞳をうっとりと遠くへ投げて何を見るでもなしに考え込んでいるのでしたし、カムパネルラはまださびしそうにひとり口笛を吹き、男の子はまるで絹で包んだ苹果のような顔いろをしてジョバンニの見る方を見ているのでした。 | 206-5 | カムパネルラはまださびしそうにひとり口笛を吹き、女の子はまるで絹で包んだ苹果のような顔いろをしてジョバンニの見る方を見ているのでした。 |
228-14 | お母さんから聞いたわ。 | 209-6 | お母さんから聴いたわ。 |
234-5 | 青年は男の子の手をひき姉は互いにえりや肩をなおしてやってだんだん向こうの出口の方へ歩き出しました。 | 214-13 | 青年は男の子の手をひきだんだん向うの出口の方へ歩き出しました。 |
236-5 | どおんとあいているのです。 | 216-11 | どほんとあいているのです。 |
237-5 | もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。そのとき、 「おまえはいったい何を泣いているの。ちょっとこっちをごらん」いままでたびたび聞こえた、あのやさしいセロのような声が、ジョバンニのうしろから聞こえました。 ジョバンニは、はっと思って涙をはらってそっちをふり向きました、さっきまでカムパネルラのすわっていた席に黒い大きな帽子をかぶった青白い顔のやせた大人が、やさしくわらって大きな一冊の本をもっていました。 「おまえのともだちがどこかへ行ったのだろう。あのひとはね、ほんとうにこんや遠くへ行ったのだ。おまえはもうカムパネルラをさがしてもむだだ」 「ああ、どうしてなんですか。ぼくはカムパネルラといっしょにまっすぐに行こうと言ったんです」 「ああ、そうだ。みんながそう考える。けれどもいっしょに行けない。そしてみんながカムパネルラだ。おまえがあうどんなひとでも、みんな何べんもおまえといっしょに苹果をたべたり汽車に乗ったりしたのだ。だからやっぱりおまえはさっき考えたように、あらゆるひとのいちばんの幸福をさがし、みんなといっしょに早くそこに行くがいい、そこでばかりおまえはほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょに行けるのだ」 「ああぼくはきっとそうします。ぼくはどうしてそれをもとめたらいいでしょう」 「ああわたくしもそれをもとめている。おまえはおまえの切符をしっかりもっておいで。そして一しんに勉強しなけぁいけない。おまえは化学をならったろう、水は酸素と水素からできているということを知っている。いまはたれだってそれを疑やしない。実験してみるとほんとうにそうなんだから。けれども昔はそれを水銀と塩でできていると言ったり、水銀と硫黄でできていると言ったりいろいろ議論したのだ。みんながめいめいじぶんの神さまがほんとうの神さまだというだろう、けれどもお互いほかの神さまを信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう。それからぼくたちの心がいいとかわるいとか議論するだろう。そして勝負がつかないだろう。けれども、もしおまえがほんとうに勉強して実験でちゃんとほんとうの考えと、うその考えとを分けてしまえば、その実験の方法さえきまれば、もう信仰も化学と同じようになる。けれども、ね、ちょっとこの本をごらん、いいかい、これは地理と歴史の辞典だよ。この本のこの頁はね、紀元前二千二百年の地理と歴史が書いてある。よくごらん、紀元前二千二百年のことでないよ、紀元前二千二百年のころにみんなが考えていた地理と歴史というものが書いてある。 だからこの頁一つが一冊の地歴の本にあたるんだ。いいかい、そしてこの中に書いてあることは紀元前二千二百年ころにはたいてい本当だ。さがすと証拠もぞくぞく出ている。けれどもそれが少しどうかなとこう考えだしてごらん、そら、それは次の頁だよ。 紀元前一千年。だいぶ、地理も歴史も変わってるだろう。このときにはこうなのだ。変な顔をしてはいけない。ぼくたちはぼくたちのからだだって考えだって、天の川だって汽車だって歴史だって、ただそう感じているのなんだから、そらごらん、ぼくといっしょにすこしこころもちをしずかにしてごらん。いいか」 そのひとは指を一本あげてしずかにそれをおろしました。するといきなりジョバンニは自分というものが、じぶんの考えというものが、汽車やその学者や天の川や、みんないっしょにぽかっと光って、しいんとなくなって、ぽかっとともってまたなくなって、そしてその一つがぽかっとともると、あらゆる広い世界ががらんとひらけ、あらゆる歴史がそなわり、すっと消えると、もうがらんとした、ただもうそれっきりになってしまうのを見ました。だんだんそれが早くなって、まもなくすっかりもとのとおりになりました。 「さあいいか。だからおまえの実験は、このきれぎれの考えのはじめから終わりすべてにわたるようでなければいけない。それがむずかしいことなのだ。けれども、もちろんそのときだけのでもいいのだ。ああごらん、あすこにプレシオスが見える。おまえはあのプレシオスの鎖を解かなければならない」 そのときまっくらな地平線の向こうから青じろいのろしが、まるでひるまのようにうちあげられ、汽車の中はすっかり明るくなりました。そしてのろしは高くそらにかかって光りつづけました。 「ああマジェランの星雲だ。さあもうきっと僕は僕のために、僕のお母さんのために、カムパネルラのために、みんなのために、ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ」 ジョバンニは唇を噛んで、そのマジェランの星雲をのぞんで立ちました。そのいちばん幸福なそのひとのために! 「さあ、切符をしっかり持っておいで。お前はもう夢の鉄道の中でなしにほんとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたった一つの、ほんとうのその切符を決しておまえはなくしてはいけない」 あのセロのような声がしたと思うとジョバンニは、あの天の川がもうまるで遠く遠くなって風が吹き自分はまっすぐに草の丘に立っているのを見、また遠くからあのブルカニロ博士の足おとのしずかに近づいて来るのをききました。 「ありがとう。私はたいへんいい実験をした。私はこんなしずかな場所で遠くから私の考えを人に伝える実験をしたいとさっき考えていた。お前の言った語はみんな私の手帳にとってある。さあ帰っておやすみ。お前は夢の中で決心したとおりまっすぐに進んで行くがいい。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ相談においでなさい」 「僕きっとまっすぐに進みます。きっとほんとうの幸福を求めます」ジョバンニは力強く言いました。 「ああではさよなら。これはさっきの切符です」 博士は小さく折った緑いろの紙をジョバンニのポケットに入れました。そしてもうそのかたちは天気輪の柱の向こうに見えなくなっていました。 ジョバンニはまっすぐに走って丘をおりました。 そしてポケットがたいへん重くカチカチ鳴るのに気がつきました。林の中でとまってそれをしらべてみましたら、あの緑いろのさっき夢の中で見たあやしい天の切符の中に大きな二枚の金貨が包んでありました。 「博士ありがとう、おっかさん。すぐ乳をもって行きますよ」 ジョバンニは叫んでまた走りはじめました。何かいろいろのものが一ぺんにジョバンニの胸に集まってなんとも言えずかなしいような新しいような気がするのでした。 琴の星がずうっと西の方へ移ってそしてまた夢のように足をのばしていました。 |
217-9 | もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。 |
242-2 | 二つ載っけて置いてありました。 | 218-4 | 二つ乗っけて置いてありました。 |
243-16 | マルソがジョバンニに走り寄って言いました。 | 219-18 | マルソがジョバンニに走り寄ってきました。 |
244-9 | 学生たちや町の人たちに囲まれて | 220-11 | 学生たち町の人たちに囲まれて |
244-10 | 左手に時計を持ってじっと見つめていたのです。 | 220-12 | 右手に持った時計をじっと見つめていたのです。 |
244-15 | 下流の方の川はばいっぱい | 220-18 | 下流の方は川はば一ぱい |