旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針


1999年11月22日 作成
2001年3月16日 改訂(「補遺」を追加。)
2001年3月30日 訂正(「人名漢字別表」を「人名用漢字別表」に。)
2001年9月20日 改訂(「13」で、繰り返し記号を仮名に書き換えると明確化。)
2003年4月21日 改訂(「不適切と思われる表現」への対処方針変更に伴って、「15」「16」を変更。)
2003年8月1日 改訂(呼びかけ人への連絡先アドレスとしてreception@aozora.gr.jpを記載し、書き換え着手以前の連絡要請を強調。)
2008年3月24日 改訂(変体仮名と仮名の合字を、通常の仮名に書き換えても良いと、「補遺」に明記。)

青空文庫呼びかけ人

【前文】

「青空工作員作業マニュアル」の前文にあたる「青空文庫からのメッセージ 本という財産とどう向き合うか」は、「3.底本を選ぶ」の「1)旧漢字、旧かなづかいの書き換え」において、旧字、旧仮名を現代表記にあらためることの意義を認めている。
こうした書き換えは、著作権法が規定する「やむを得ないと認められる改変」にあたり、権利の侵害には該当しないことも示している。

ただし同項は引き続いて、旧字旧仮名版と現代表記版作成に関する具体的な作業指針を、以下のように示している。
もともと旧字、旧仮名で書かれた作品の忠実な電子化を行う際は、旧字、旧仮名で表記された底本を選ぶ。
一方、読みやすさを優先させたい場合は、旧字、旧仮名を現代表記にあらためた文庫本などを底本とする。
つまり、それ自体意味のある現代表記への書き換えに際しても、改変に伴う判断は出版社の編集作業に委ねると、マニュアルは青空文庫の役割を限定して規定してきた。

マニュアル本文も、「2.入力-1」において、入力にあたっては「「底本のできるだけ忠実な再現」を目標に置き、「勝手な編集はしない」」ことを求めてきた。

「表記の変更には、一切手を出さない」としたこの指針の裏には、編集の経験をもたない者が多く関わる青空文庫の作業において、個々の作業者に多くの判断を委ねれば、テキストの信頼性を損なう場合があるという怖れがあった。

だが、もともとは旧字、旧仮名で書かれた作品の全てに対して、出版社の手で現代表記にあらためられた版が用意されているわけではない。
青空文庫の作業対象が広がるにつれて、我々自身が書き換えの作業に取り組むしかないと判断せざるを得ないケースがふえてきた。
加えて青空文庫は一つのまとまりとして、電子化に関する経験を積んできた。

そこで、原則はこれまでどおり「底本の忠実な入力」におきながらも、旧字、旧仮名版しか存在しない作品に関して入力者が現代表記への書き換えを望む場合には、呼びかけ人と協議して方針を決めることとする。
書き換えを希望する入力者は、着手前に必ず呼びかけ人(reception@aozora.gr.jp)に、打診する。
書き換えの必要性に対して意見の一致を見れば、入力者はあらかじめ呼びかけ人に対して作業方針を示し、書き換えの作業を進める。

この際、現代表記への書き換えを希望する入力者に、あらかじめ適切な作業指針を示しておければ、表記を変更したファイルへの信頼性を保てると期待できる。
そこで、「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記に改める際の作業指針」を、以下の通り定めることとする。

【本文】

1 旧仮名づかいは、原則として現代仮名づかいにあらためる。ただし文語文は、底本のままとする。

2 平仮名と片仮名の交ぜ書きは、底本のままとする。
例:ちぇッ、話しッぷり、それにしちゃア、なアに
3 常用漢字表、人名用漢字別表に掲げられている漢字は、新字にあらためる。固有名詞も原則として例外とはしないが、人名は底本のままとする。
例:地名の「澁谷」は、「渋谷」とする。
  人名の「澁谷」は、そのままとする。
4 字体の細部が異なっていても、JIS X 0208の包摂規準にあてはまればJISにある漢字を用い、外字扱いとはしない。

5 底本の漢字を、新旧の関係にない別の漢字や仮名に置き換えることは、原則としてしない。
例:「云う」は、「言う」や「いう」とはしない。
6 作者固有の当て字や、現在、漢字で表記されることが例外的な代名詞、副詞、接続詞、助動詞には、必要に応じて振り仮名を付す。

7 6に該当するものが頻出して、読みやすさを損なう場合は、仮名に置き換えてもよい。

8 漢字で表記された外国固有名詞、外来語には、必要に応じて振り仮名を付す。

9 8に該当するものは、片仮名に書き換えてもよい。

10 送り仮名は底本通りとし、読みを損なうおそれのある場合は、振り仮名を付す。

11 読みにくい言葉、読み誤りやすい言葉には、振り仮名を付す。

12 総ルビの底本からは、振り仮名の一部を省いてもよい。

13 繰り返し記号のうち、現在ほとんど使われない平仮名・片仮名繰り返し記号(ヽ、ヾ、ゝ、ゞ)、くの字点(くの字点)、二の字点(二の字点)は原則として使用せず、仮名に書き換える。

14 13に該当するものも、特に必要性を認めるときは、底本のままとしてもよい。

15 今日の人権意識と言語感覚に照らして不適切と思われる表現も、原則として書き換えない。

16 15にあたる表現があると判断した際は、入力ファイルの送付にあたって、電子メール本文に必ず当該の箇所を示し、その旨を書き添える。呼びかけ人は、図書カードに以下の文言を記載することを検討する。
この作品には、今日からみれば、不適切と受け取られる可能性のある表現がみられます。その旨をここに記載した上で、そのままの形で作品を公開します。(青空文庫)
17 旧字旧仮名を現代表記にあらためた際は、収録ファイルへの記載事項の注記欄に、作業履歴を記載する。
例:
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。←表記変更を行った際は、必ずこれを入れる。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号はそのまま用いました。←「指針」が「例外」として認めている処理を行った際は、必ずそのことを明記する。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」は、それぞれ「其の」と「此の」に統一しました。←「指針」がガイドラインを示していない処理を例外的に行う際は、必ずそのことを明記する。
「恰も」は「あたかも」に、「些か」は「いささか」に、「茲」は「ここ」に 、「悉皆」は「すっかり」に、置き換えました。←「指針」に基づいて行った処理の詳細は、できるだけこれを記載する。」
補遺

1 旧字、旧仮名で書かれた作品を現代表記にあらためるにあたっては、新字、現代仮名づかいへの変更を基本とする。ただし、漢字のみを書き換えた、新字、旧仮名づかいへの変更も拒まない。

2 変体仮名と仮名の合字を、通常の仮名に書き換えることも、行って良い。


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