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2024年01月01日 | カノンを攪乱するために――青空文庫に本を持ち寄ること |
新年あけましておめでとうございます。 「ハッピー・パブリック・ドメイン・デイ!」と言いづらくなって早5年、巷では青空文庫の活動が終了したかのように誤解している方もいらっしゃるようですが、もちろんみなさまのおかげで元気に続いております。 この1年は、20年にわたる保護延長期間を乗り越えようと、これからの継続的運営を視野に入れた上で、デジタルアーカイヴとしての安定化を目指し、新規データベースサーバの開発・導入のため、昨年の元旦より「充電期間」に入っておりました。 一時お休みしている業務もさまざまあり恐縮ですが、ボランティアおよびユーザーのみなさま、ご理解とご協力ありがとうございました。 ようやく新データベース構築の目途がついたこともあり、まだもう少し時間がかかりますが、本日から看板は「充電中」から「新館準備中」と掛け替えたいと思います(詳しくは、のちほどご説明差し上げます)。 充電中の1年間は、いつもよりも作品の新規公開ペースを落として、通常時の半分から3分の1ほどの点数になっておりましたが、一方で、著作権あり作品の受け入れと登録・公開はこれまでで最大の数となりました。 本年元旦の公開作品も、昨年の7月7日より受け入れを始めて月に4~6作をお届けしている公益財団法人大同生命国際文化基金さんの「アジアの現代文芸シリーズ」より、ウダイ・プラカーシ作/石田英明訳「黄色い日傘の娘」のリンク登録となっています。 また、企画開始以来その成果をご提供くださっている円城塔、澤西祐典、福永信3氏による競作「○○を書く」シリーズも、近日中に最新作の「鴨川を書く」3作を収録予定です。 こうして青空文庫へ新たに登録をしてくださる著作者・翻訳者・出版社のひとつひとつの作品が、青空文庫の書架を豊かにしてくれています。 著作権保護期間を満了した著作物を集めるとなると、その創作から経た長い期間のために、ともすれば、評価の定まった古典や知名度の高い定番作に偏りかねません(こうした権威的な作品群を「正典《カノン》」とも言います)。 ところが、青空文庫は基本、各ボランティアが自分の意志で選んだ作品を入力・校正(あるいは翻訳)し、公開することを旨としています。 むろんここには、いわゆるカノンから外れた作品も数多くあり、固定化された正典のラインナップにとらわれない活動が、ボランティアによって長らく続けられています。 たとえば、青空文庫には当初よりたくさんの随筆やエッセイが収められています。 小説で有名な作家たちについても、その日常や交流が記された小品がいくつもあり、文豪コンテンツが一定の広がりを見せる今、あらためて読むと作家ひとりひとりがいっそう身近に感じられるものですが、かつては「青空文庫にはなぜ小説ではなくエッセイばかりあるのか」と揶揄されたこともありました。 さらに評論や雑文も含めた書き物全体をながめてみると、何よりも目を惹くのは宮本百合子の存在でしょう。 今日現在、宮本百合子は単独作家として最大の作品数(旧全集のほとんど)が青空文庫に入っており、まさにボランティアの熱意と努力のたまものと言えます。 しかし、その数多くある小説以外の文芸を意図的に除外してしまうなら、たちまち青空文庫の豊かさは見えなくなってしまいます。 一部の狭い小説文壇の外で健筆を振るってきた女性たちの姿も見えなくなり、元々あったはずの多様性も色あせてしまうでしょう。 ひとつひとつ自分の選んだ作品を青空文庫に持ち寄るにあたって、ボランティア各人はさまざまに秘めた思惑を持っていることかと思います。
これらのことは長らくボランティアのそれぞれが、自分の意志で積極的に行ってきたことでもあるわけで、青空文庫アーカイヴの公開メタデータを適切に読むと、確かにわかってくることでもあります。 青空文庫の総合インデックスを開いたとき、全文検索を行ったとき、閲覧アプリでランダムに選び出されたとき、多くの作品のなかからひとつ、カノンを攪乱するような作品が現れて偶然目にとまる――そのような瞬間が生み出せるようなアーカイヴを、意志の積み重ねの結果として築いてきたのです。 ひとつひとつの「+1」が、青空文庫のアーカイヴ全体に対して大きな意味を持つのであって、ある種の〈外れ値〉の多様性も歓迎できるような〈メタデータ評論〉こそが、きっと今後期待されるものとなりましょう。 さて、昨年元旦より続いております「式年遷宮」に関わる作業ですが、これまでの「そらもよう」でご報告してきた通り、メールシステムの更新がすでに終わり、「ジャパンサーチ」との連携も開始されております。 加えて、前年中に新データベースシステムの開発が一段落し、「会計報告」にあるように(「本の未来基金」に寄せられたみなさまからの寄付金のおかげで)そのための費用の支出も無事に果たせました。心より感謝申し上げます。 そののち、去年後半にかけて検証作業を行い、そのなかで生じた不具合や不足についてメモをまとめ、ただいま改修に向けての確認と準備を行っております。 この元旦から新館開館というわけではなく、まだもう少し時間がかかりますが、どうか引き続きご理解とご協力のほどお願い申し上げます。 今後の進捗目標としましては、年度内に新データベースシステムのバグフィックスを終えたあと、新しい年度に入ってから実データでの運用試験を始め、2024年の7月7日には新館に引っ越して運用開始ができればと考えています。 残念ながら青空文庫の活動の全面再開は現時点では行えませんが、それに先だって、データベース入れ替えそのものやファイル点検に影響しない範囲での活動について、新たにお手伝いしてくださるボランティアの方を募集したいと思います。 ただいま青空文庫の管理運営の部分は、メールアカウントごとに分けると、info@aozora.gr.jp では広報と会計、reception@aozora.gr.jp では点検グループとWeb管理を担うメンバーが所属しています。 今回はそのうち、info アカウントでのメール対応、reception アカウントでの作業済みファイルの整理や公開ファイル作成にあたってくださる新規ボランティアの方を若干名、募りたく思います(後者はある程度青空文庫での実作業の知識があると助かります)。 また、今後の新規データベースシステムの検証にもお手伝いしてくださる方がいると、たいへん嬉しく思います。 上記にご関心のある方は、どうか info@aozora.gr.jp までお知らせください。歓迎いたします。 希望者に向けて、近日中に作業メモの共有やオンラインでのガイダンスもできればと思いますので、よろしくお願い申し上げます。 昨年元旦の新規入力校正の受付休止以来、新たな申請を今か今かとお待ちいただいている方も多くいらっしゃることかと存じます(長らく入力中・校正中になっている作品を引き継ぐいわゆる〈目覚まし〉の希望についてもメールをいただいております)。 全面再開には、新規データベースの運用開始と、ファイルの高品質化に携われる裏方ボランティアの増員と育成が必要不可欠です。 新館準備にあたって、まずは既存のものの整理を優先したく思いますので、入力校正作業に関する返信と新規受付の再開はもうしばらくお待ちください。 今後のスケジュールについても、決まり次第この「そらもよう」で随時お知らせする予定です。 本年はいよいよ「式年遷宮」へ向けて、活動を徐々に再始動していければと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。(U) |