そらもよう
 


2010年03月10日 公有のバトンをつなぐこと
本日、拙訳による「あなうさピーターのはなし」ほかベアトリクス・ポッター(ビアトリクス・ポター)の4作品が青空文庫に登録された。翻訳の底本となるのは、1902年からおよそ10年のあいだに連続刊行された動物絵本で、一般的には「ピーターラビット(となかまたち)」の名称で知られている。

これらの本は、その出自から著作権と密接な関係を有している。もちろん著者本人が「著作権ビジネス(ライセンスビジネス)の祖」と呼ばれることもひとつだが、何よりもまず、彼女の人生にとって「著作権」がある種の武器として存在したことである。

両親が揃って成金の二代目というポッターは、箱入り娘というよりも「箱に入れられた娘」だった。同年代の友だちもほとんどなく、外へもあまり出られず、自由になる金銭もない。それゆえ内緒で手に入れた動物たちや狭い行動範囲にある植物・菌類と戯れることが多く、それが唯一の慰めでもあった。しかし彼女はそんな箱を抜け出したいと思い、自立のためのお金を稼ごうと考える。動物のイラストを描くイラストレーターとして出発し、そしてしっかりとビジネスとしての算段を立てた上で初めての本を自費出版する。それが The Tale of Peter Rabbit であり、狙い通りに好評を得られ、続く一連の絵本はのちに婚約者となる人物の出版社から刊行されていくこととなる。

創作という手段によって自立を図ろうとしたこの女性は、婚約者の死や家族との反目のなかで挫折を繰り返しつつも、果てには自由と成功を手にして、やがてイギリスの湖水地方で農婦としての静かで充実した生活を手に入れる。1作目の主人公 Peter Rabbit の冒険は失敗に終わるが、10年という短い創作期間の終わりである20作目では、主人公の Pigling Bland は絶望的な状況からの逃亡に成功し、新たな伴侶を得て旅立つ。彼女にとって創作はセカイと戦う手段であり、そしてその力によって最終的に自立を成し遂げる。その戦いに協力したのは、創作・精神両面で常に彼女を支えた動植物たちだ。

彼女は自己実現のためにしたたかで強力なビジネスを組み立て、そして自分の(仲間たちの)居場所を保全するために安定した稼ぎを必要とした。その行動の保障をしたのは、疑いようもなく「著作権」である。だからこそ彼女はこの権利を意識的に使い、その人生を活かしきった。

その彼女が死んですでに60年以上が経過している。その権利は彼女の死とともに立派すぎるほどにその役割を終え、また作品の力によって世界じゅうに知らしめられた湖水地方は、彼女がいなくともしっかり守られていくだろう。作品が愛されれば愛されるほど、その舞台も永遠に残される。

しかし一度成ったビジネスの利権は、著者の意志や遺志に関係しようとしまいと、亡霊のように生き続ける。弁護士の福井健策氏の言う「疑似著作権」とは、そのひとつの現れである。自由のために戦った動物たちは、今やまた囚われの身である。ピーターラビットと同様にビアトリクス・ポターも商標であるのなら、彼女自身もまたそうなのかもしれない。

すでにアメリカの複数のテキストアーカイヴでは、これらの作品が公有であるとして公開されている。自由であると、青空のもとにあると。ならばここで日本も手を挙げよう。そしてその公有のバトンを受け取ろう。

今日登録された4作品はその想いのリレーであるとともに、また青空文庫にとって実質初めての本格的絵本でもある。絵本をデジタルでアーカイヴすることは、テキストのみの場合よりもさらに課題が増える。今回は海外のテキストアーカイヴから画像を流用しているが、画像のスキャンの品質ややり方とも、常に向き合っていかなければならない。

だがアーカイヴ作業を積み重ねていくことでしかその解決へ向かうことはできないし、今後もそうしていくつもりである。願わくは、同じくこの作業に挑む者が現れんことを、そして海外の絵本だけでなく日本の絵本をも公有アーカイヴされんことを。(U)

2010年02月15日 人物名データにおける旧字名の削除
2010年02月03日のそらもように提案されている通り、人物名データにおける旧字の名前を削除することとした。青空文庫では、図書カードなどに記載する人物名は、新字でとっていることに基づいた対処である。削除した旧字の人物名は、以下の通り。
芥川 龍之介、巖谷 小波、植松 眞人、尾形 龜之助、小栗 蟲太郎、小澤 真理子、葛西 善藏、國木田 獨歩、黒島 傳治、桑原 隲藏、齋藤 緑雨、三遊亭 圓朝、世阿彌 元清、談洲樓 燕枝 二代、坪内 逍遙、徳田 秋聲、野上 豐一郎、濱尾 四郎、平野 萬里、廣津 柳浪、北條 民雄、細井 和喜藏、穗積 重遠、穗積 陳重、堀口 九萬一、眞山 青果、水上 瀧太郎、宮澤 賢治、與謝野 晶子、與謝野 鉄幹、與謝野 寛、與謝野 禮嚴、渡邊 温

また、他に以下の修正を行った。
・旧字でのみ登録されている人物名(荻原 守衞、杉山 萠圓、萠圓、萠圓山人)を新字へと直した。
・人物名の読み方の違いで二つ登録されている「尾佐竹 猛」(おさたけ たけき/おさたけ たけし)については、「おさたけ たけき」の読み方の人物名が正しいものとして、もう一つの人物名データを削除した。

(門)

2010年02月12日 田中貢太郎の学研M文庫「日本怪談事典」底本の56編の入力をご担当いただいている方にお願い
田中貢太郎の学研M文庫「日本怪談事典」底本の56編の入力をご担当いただいている方に申し上げます。

作業を引き継げないかとの打診を受けて、進捗状況とお気持ちの確認のためメールをお送りしましたが、お返事がありませんでした。
reception@aozora.gr.jp宛に、ご一報をお願いします。

本日から一ヶ月、ご連絡を待ちます。
一月を経て、連絡を取り合えない場合は、これらの入力を引き継いでいただこうと思います。

作業の継続が難しくなった際は、皆さん、どうぞお気軽に、reception@aozora.gr.jpまでご連絡ください。
メールアドレス変更の際は、reception@aozora.gr.jp宛にご一報をお願いします。(門)

2010年02月09日 「記載事項」を修正
青空文庫収録ファイルへの記載事項」を更新した。
ここには、作品自体に加えて、どんな要素をテキスト版に記載するかが示してある。
これに対し、「説明が不十分で、判断がつかないところがある。」との指摘があったので、解説を補充し、記載例を手直しした。

一点、新しく付け加えた要素がある。
横組みの底本を利用した際、これまではその旨を注記したりしなかったりと、ばらばらだった。
これからは、文言を決めて「※底本は横組みです。」と必ず書くことにする。

記載用テンプレートも、あらためた。
作業してくださっている方には、差し替えをお願いしたい。(倫)

2010年02月03日 人物名データにおける旧字の扱いの変更について
人物名データにおける旧字の扱いの変更を検討している。
作品ファイルの話ではない。図書カードなどに記載するためのデータだ。

青空文庫では、図書カードなどに記載する人物名は、新字でとっている

ただし、「旧字表記が一般的なもの」については、新旧双方で登録している。
旧字からは新字に送りがかけてあるだけで、作品は関連づけられておらず、実質的に、旧は機能していない。

ではあるが、着手連絡システムの「人物一覧」には旧字も表示され、時にこちら側で新規作品登録が行なわれては、その都度、混乱をきたす。

そこで、旧字での人物登録は取りやめ、既存のデータは、削除してはと考えた。
この措置に伴って、「青空文庫における書誌データのとりかた」の【人物名】の以下の項を廃止しようと思う。
・旧字表記が一般的なものは、新字に加えて、旧字でも「人物登録」を行う。
「芥川竜之介」に加えて、「芥川龍之介」も登録する。
「与謝野晶子」に加えて、「與謝野晶子」も登録する。
・旧字表記による作家名には、新字によるものを、「人物基本名」として設定する。
・「人物基本名」の設定により、「登録全作家 作家リスト」に見るとおり、「子」となる旧字側から「親」となる新字側に送りがかかる。
・新旧関係によって生じた「親」「子」関係では、「親」側にすべての作品を寄せる。
この変更に、不都合を感じられる方は、reception@aozora.gr.jpまで、コメントをお願いしたい。(倫)

2010年01月31日 第10期(2008年9月1日〜2009年8月31日)会計報告
青空文庫第10期の会計報告を公表します。
第10期は広告収入は減っておりますが寄付をいただく機会に恵まれました。
またサーバを預かっていただく業者さんを変更した事により費用を抑えることができました。
寄贈に関する費用は荷造運賃としております。(青空文庫会計部)

2010年01月27日 久生十蘭「虹の橋」の入力をご担当いただいている方にお願い
久生十蘭「虹の橋」の入力をご担当いただいている方に申し上げます。

作業を引き継げないかとの打診を受けて、進捗状況とお気持ちの確認のためメールをお送りしましたが、連絡を取り合うに至っていません。
reception@aozora.gr.jp宛に、ご一報をお願いします。

本日から一ヶ月、ご連絡を待ちます。
一月を経て、連絡を取り合えない場合は、入力を引き継いでいただこうと思います。(倫)

2010年01月18日 トレンドイーストによる校正支援
本日公開の、里村欣三「放浪の宿」の入力は、林幸雄さん。校正は、トレンドイーストさんにご担当いただいた。
林さんが作業の仲間となって、もう10年近い。この間、途切れることなく、入力、校正してくださった。一方、校正ご担当にとっては、この作品がはじめての公開分だ。

「トレンドイースト」は、個人のハンドルネームではない。社名だ。カシオ計算機の電子辞書で、青空文庫を読めるようにする話でご縁ができた。
著作権が切れたものなら、有償、無償を問わず、ファイルは自由に使ってください、と言っている。同社にもそう申し上げたが、我々もなにかできないかと言ってくださった。

作業中 作家リスト:全て」の見出し下からダウンロードできるcsvファイルを開くと、入力ずみのたくさんの作品が、校正を待っている状況を確認できる。入れた方には、お詫びのしようもないが、中には10年近くも校正待ちが続いているものさえある。
校正者不足は、スタート当初から青空文庫が抱えている課題だ。
その旨断って、校正なしで公開することが何度も話に出たが、間違いをできるだけ減らすことを優先して、これまでは省かないできた。
その私たちの弱点を、同社が補ってくださることになった。今後、継続して、トレンドイーストは青空文庫を校正で支えてくださる。

里村欣三「放浪の宿」も、実は林さんが青空文庫に加わって間もない頃に入れながら、長く公開できなかったものだ。
今回、同社校正ご担当の働きを得て、公開にこぎ着けることができた。

著作権が切れたとしても、誰も作業しなければ、パブリック・ドメインのファイルは永遠に生まれない。
新しい仲間が加わり、働きがようやく繋がって、「放浪の宿」を公有の青空に放つことができたことに、感謝したい。(倫)

2010年01月01日 ハッピー・パブリック・ドメイン・デイ!
1月1日を、パブリック・ドメイン・デイと呼ぶ人がいると知った。

2010年の元日に向けて、青空文庫では、阿部次郎「帰来」、石川欣一「可愛い山」、伊藤永之介「押しかけ女房」、北大路魯山人「雑煮」、高浜虚子「子規居士と余」、橘外男「雷嫌いの話」、豊田三郎「リラの手紙」、永井荷風「日和下駄」を用意していた。
この呼び名とその由来を知って、トップページを工夫し、そらもようで紹介しようと思い立った。

すべての表現には、生み出した人がいて、作品に対して特別な権利を認めらている。
例えば日本の著作権法は、文芸、学術、美術、音楽に属して、「思想又は感情を創作的に表現したもの」に権利を認め、保護すると定めている。

権利には大別すれば、財産権と人格権の二つがある。
パブリック・ドメインとは、このうちの財産権の主張が、誰によってもなされない状態を指す。
少しこなれは悪いが、「公有」の訳語が与えられることもある。

パブリック・ドメインとなる事情にはいくつかあるが、代表的なのが、保護期間を過ぎることだ。
財産権は永遠に認められるわけではない。一定の期間を過ぎれば、保護の縛りがなくなり、誰でも自由に利用できるよう制度設計されている。
作品の利用に独占的な権利を認め、それで儲けられるようにしておくことには、作者を経済的に支え、創作が活発に行われる下地を用意する効果がある。
だが、作者が他界すれば、保護はもはや創作の支援とはならない。
ならばそこでは、縛りをはずし、利用を促そうとする仕組みは、理にかなっている。

国の境をこえて、著作物を保護する枠組みに、ベルヌ条約がある。
日本は1899(明治32)年から加盟しており、ウィキペディアによれば、2008年10月時点で、163箇国がこれに加わっている。

そのベルヌ条約には、保護期間算定の区切りを1月1日とする規定があり、加盟国の国内法でも、境目はこの日に置かれている。
パブリック・ドメイン・デイが、世界の記念日となるゆえんだ。

パブリック・ドメイン・デイを紹介するにあたっては、日本語をあてようかとも思った。
寄せられた候補には、「国際共有デー」「共有記念日」「青空記念日」などあったが、「共有感謝の日」が呼び水となって、「作品感謝の日」「創作感謝の日」というアイディアが生まれた。
彼らが作家として立って、死後50年を経てなおテキスト化を誘う作品を残してくれたこと。それを青空文庫に集う人たちが、力を合わせてテキスト化できたこと。そして節目の日以降、その成果を皆のもの扱いして良くなったことのすべてに感謝しようという趣向だ。
この日からは、彼らの作品を誰に断ることなくインターネットで公開もできれば、紙の本にもできる。
翻訳も、朗読も、上演も、楽曲なら、演奏もできる。
原作を下敷きに新しい作品をまとめる翻案も、自由になる。

青空文庫がスタートした1997年には、伊丹万作、小栗虫太郎、河上肇がパブリック・ドメイン入りした。
以来1998年には、織田作之助、幸田露伴、横光利一。
1999年、菊池寛、太宰治、小島烏水。
2000年、海野十三、佐藤紅緑、田中英光。
2001年、野上豊一郎、楠山正雄、金史良。
2002年、宮本百合子、原民喜、林芙美子。
2003年、久米正雄、土井晩翠。
2004年、斎藤茂吉、峠三吉、堀辰雄、折口信夫。
2005年、岸田国士、相馬愛蔵。
2006年、坂口安吾、下村湖人、豊島与志雄。
2007年、高村光太郎、佐藤垢石、邦枝完二。
2008年、神西清、久生十蘭、牧野富太郎。
2009年、徳永直、木村荘八、三好十郎と続いた。
こうして振り返ると、青空文庫で広く親しまれている作家のかなりが、ここ10年ほどでパブリック・ドメイン入りしたことが確認できる。
そして日本の節目の日は、ご紹介したとおり、今年も豊饒だ。

だが、この日が区切りとなる事情に変わりはないものの、ヨーロッパやアメリカの今日は、それほどめでたくはない。
EU加盟国の多くは長く、著作権の保護期間をベルヌ条約の基本設定である死後50年までとしてきた。
だが、1993年、統合に向けて制度をならすために、域内の最長の国に合わせて70年にすると決めた。延長された保護期間は、過去にさかのぼって適用されたため、いったん切れていた作家の権利の多くが復活することになった。
延長からいまだ20年を経ていない現在、EUのパブリック・ドメイン・デイの中心は、権利がよみがえった作家の、再著作権切れにとどまっている。

キャラクター保護を狙う娯楽産業などからの圧力を受けたアメリカは、EUを追って、1998年に70年延長を決めた。以後20年を過ぎる2019年まで、この国では、新しく著作権切れを迎える作家が生まれない。
パブリック・ドメイン・デイを失った状態が、なお10年近く続く。

そして残念なことに、日本の保護期間事情も、けっして安閑としていられるものではないのだ。
文部科学省の文化審議会著作権分科会は、保護期間に関する小委員会を設けて、2007年3月から延長問題を論議したが、さまざまなデメリットが具体的に示される中、2009年1月には結論を先送りする形でこれを見送った。
ところが同年の11月になって、日本音楽著作権協会(JASRAC)の70周年記念パーティの席上、鳩山由紀夫首相は突然、70年延長実現に向けて最大限努力すると述べた。

2010年1月1日時点で、保護期間がすでに死後70年までに延長されていたとすれば、今日公開した作品は、当然一つとして読んでもらえない。
50年を守り通せばその後20年間に公開できたはずの、火野葦平、賀川豊彦、岸上大作、和辻哲郎、小川未明、柳田国男、吉川英治、正宗白鳥、野村胡堂、尾崎士郎、三好達治、佐藤春夫、中勘助、梅崎春生、江戸川乱歩、谷崎潤一郎、高見順、米川正夫、山中峯太郎、小宮豊隆、鈴木大拙、亀井勝一郎、山本周五郎、壺井栄、時枝誠記、笠信太郎、子母沢寛、広津和郎、村岡花子、木々高太郎、長谷川如是閑、伊藤整、獅子文六、西條八十、大宅壮一、三島由紀夫、深田久弥、内田百間、高橋和巳、志賀直哉、平林たい子、広瀬正、川端康成、椎名麟三、大佛次郎、サトウハチロー、浜田広介、花田清輝、江口渙、梶山季之、金子光晴、きだみのる、林房雄、香山滋、檀一雄、舟橋聖一、福島正実、武者小路実篤、武田泰淳、竹内好、今東光、稲垣足穂、海音寺潮五郎、野尻抱影、平野謙、柴田錬三郎、山岡荘八、花森安治、福永武彦、中野重治、植草甚一らを、青空文庫は一人として迎えられなくなる。
アメリカ同様の、パブリック・ドメイン・デイの喪失状態が、20年間にわたって続く。

EUのように、延長された保護期間が過去にさかのぼって適用されれば、青空文庫は、本日公開している作品の約半分を失う。
太宰治も坂口安吾も、中島敦、島崎藤村、菊池寛、新美南吉、海野十三、堀辰雄、横光利一、折口信夫、林芙美子、中里介山、北原白秋、斎藤茂吉、織田作之助、原民喜、与謝野晶子、宮本百合子、三木清らも読めなくなる。

これまで、その大半が紙の書籍に蓄積されてきた人の考えや思いを、電子化してインターネットに移し、検索と参照の網をかぶせようとする電子図書館の開発が、世界各国でさかんに進められている。
インターネットの普及以前に延長を決めたEU、その可能性を十分に繰り込まずに追随したアメリカは、自由に公開できる作品を限定してしまったしばりに、今、直面させられている。
Googleは、著作権の保護期間を過ぎた作品にとどまらず、権利が生きているものも電子化してサーバー上に置き、検索と部分的な参照のサービスを始めた。
これを著作権侵害であるとして、米国作家協会らは訴えたが、2008年10月、対価の支払いなどを条件に、電子化と利用を認める和解案に達した。それによれば、著作権者は拒否の意思を明示しない限り、和解に合意したとみなされる。さらにアメリカ国内にとどまらず、ベルヌ条約に加盟しているすべての国に、和解の効力が及ぶとも主張された。
電子図書館の実現という世界史的な課題に、Googleが先頭を切って取り組んできたことは間違いない。だが、力ずくで著作権法の縛りを乗り越え、しかもそれを全世界に拡張しようとする手法は、いかにも強引だ。
その強引さの裏には、保護期間の延長によって自由に電子化し、公開できる作品を大幅に限定してしまったくびきがみえる。
インターネット時代の趨勢を見誤って隘路にはまり込んだEUとアメリカを、「欧米並み」をうたって、今になって後追いすることには意味がない。
電子図書館の開発に最適のポジションを確保しているとの自覚をもって、パブリック・ドメインの書架をより豊かなものとするよう力をふるい、その成果を広く享受することこそ、私たちがなすべきことだ。

パブリック・ドメイン・デイのにぎわいにと準備してきたものを、最後に紹介したい。
テキスト版で用いる各種の青空文庫記号をまとめた、「注記一覧」だ。

青空文庫で取り組む作品には、さまざまな組み版の技法が用いられている。
これまで体験しないものにぶつかると、新しい注記を工夫し、しばらく揉んでみて、安定したものをルールとして定着させていった。
ところが、いきあたりばったりの積み重ねで進めてきたことに加え、書記役の怠慢もあって、注記に関する文書が分散した。決めたはずのものが、どこにも記載されていないという事態も招いた。
その積み残しの課題に、パブリック・ドメイン・デイを目標に取り組んだ。

とりまとめの目的の第一は、青空文庫の作業に資することだ。
加えて、さまざまに開発される青空文庫リーダーに、仕様のよりどころを示したいとも考えた。
そこで、既存の「テキスト版の注記をどう書くか」と「注記追加案」をもとに、青空文庫メーリングリストでの確認や、開発者などからの要望も踏まえて、「注記一覧(案)」をまとめた。

この作業と並行して、テキスト版をXHTMLに変換するためのスクリプトの作り直しにも、取り組んだ。

青空文庫のファイル作成作業を劇的に改善してくれた変換スクリプトだったが、使用したPerlという言語の制約があり、使っていく過程で判明した問題点を修正したり、新たな課題をこなす体制がつくれないという問題が重なった。
結果、だましだましの工夫や、手作業によるファイルの直し、知識が足りない者による不適切なプログラムの修正などをほどこしながらの運用を強いられたきた。
いずれ紹介できると思うが、そこに、スクリプトの作り直しに手をあげてくれる人が、現れた。

そこで、「注記一覧」のまとめに際して、注記側の検討と、スクリプトの開発を、互いをすりあわせながら同時並行で進め、XHTML化の道筋を、堅牢でより適切なものにしようと目論んだ。

変換スクリプトは誰でも動かせる状態でウェッブ上におくとともに、中身が見られて、再利用できる形で公開し、青空文庫リーダーの開発や、いわゆる青空文庫形式の電子出版への利用に風を送りたいとも考えている。

「注記一覧」には、主に青空文庫リーダーの開発者に向けて、新しいスクリプトで作ったソースを組み入れてある。
加えて、ここまでに、点検グループ、開発者から、これも追加してはと提案があった要素を、「追加検討要素」にメモした。
注記とタグの変更点は、「テキスト版注記とXHTML版の変更点」にリストアップしてある。

皆さんにスクリプトを動かしていただける環境も、今日までに用意したかったが、間に合わなかった。
準備でき次第、URLをお知らせする。

「注記一覧」で疑問に思う点、追加や変更が望ましい要素などあれば、reception@aozora.gr.jpに連絡してほしい。
ご意見を聞いて、2月中旬をめどに、仕様を確定したいと考えている。
そこから、プログラムを対応させてもらう時間をみて、4月1日公開分のテキスト版から「注記一覧」にそい、新しいスクリプトを用いたXHTML版に移行したい。
なお、切り替え時点で、収録ファイル全体を一気に差し替えることはできない。従来形式と新形式が、テキスト版、XHTML版の双方で共存することになる。

青空文庫のファイルに加えて、注記体系や変換スクリプトが、共有資源として活用されればありがたい。

パブリック・ドメイン・デイに向けて、今年は新規著作権切れ作家の作品と、「注記一覧」、特別仕様のトップページ以外は、なにも準備できなかった。
「祝おう!」と声を張って呼びかければ、来年からは、さまざまな企画が生まれるのではないかと期待している。
新しいこの年を元年として、日本にパブリック・ドメイン・デイが根付きますように。

2010年1月1日、明けましておめでとう。
ハッピー・パブリック・ドメイン・デイ!(倫)


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