そらもよう
 


2002年12月31日 ゆく年、くる年
ことしも、大晦日を迎えた。
2002年を振り返り、「青空文庫十大ニュース」を選ぶとすれば、データベースを基盤とした新館オープンが筆頭に挙がるのは、まず間違いない。
回り道も足踏みもしながらすすめてきたデータベース開発の基礎部分が完了し、本格的な運用を開始してから二か月。日々の業務をコンピュータに任せることにも慣れてきた。二十世紀の終わりにスタートした「青空文庫のIT化」は、順調に軌道に乗りつつある。
ここに至るまでの仔細は、過去のそらもようを参照していただくとして、IT化の裏側には、時には迷走し、時には対立と妥協を繰り返しながら、検討を重ねてきた日々があった。長い助走期間、辛抱強くつきあってくださったみなさんに、あらためて感謝したい。
2002年の早い時期には、誤植連絡掲示板「むしとりあみ」がスタートした。データベースとは趣を異にして、人間が書き込んで人間が応える、なんとも人間的なシステムだ。
掲示板というシステムを選択したのは、修正するケース、修正しないケース、それぞれの検討過程を、誰でも見ることのできる場所で公開したいと考えたからだ。コンピュータと違って、人と人とのやりとりによる進行は、時には思わぬ方向に脱線したりする。そういった脱線や回り道を経ながら、次第に収束に近づいていく。その過程を公開していくことには賛否両論があるけれど、多くの人が少しずつ関与しながらすすめていく青空文庫の舞台裏を、知っていただくきっかけになるのではないかと思う。
データベースとむしとりあみ、二つのシステムを代表とする青空文庫の2002年は、人間の力とコンピュータの力を、再認識した年だった。

明日に迫ってきた「来年」のことにも、ちょっとだけ触れておこう。
年明けの早い時期に、入力と校正の受付システムをお披露目することができそうだ。このシステムの完成によって、入力開始から公開に至るまで、一連の流れのデータベース化が完了する。青空文庫も、本格的に「第二期」に突入、と言えるだろう。
新しいシステムに合わせて、さまざまな文書類を整備し、整理整頓することが、おそらく、「第二期」の一番の課題ということになる。
5年以上にわたって、テキストを公開し続けているうちに、「青空文庫形式」のルビや注記に対応した「テキストリーダ」ソフトが、いくつも生まれてきている。この5月からは、青空文庫自体も、スクリプトによるXHTMLの自動生成を開始した。両者に共通しているのは、「コンピュータが、テキストを扱う」ということだ。コンピュータは、融通がきかない代わりに、ルールどおりの作業なら得意中の得意。公開するファイルの形式を統一しておき、ルールを整理整頓しておけば、誰もが使えるテキストを、誰もが作成することができる。そのために必要な資料の整備が、ぜひとも必要な時期にさしかかってきた。これらの文書整備が一段落することで、「新館」は、真の意味での完成を迎える。
文書整備の過程では、みなさんにご協力をお願いすることもあるだろう。そのときには、お知恵、お力を、貸していただけますよう。

青空文庫の原動力は、人の力だ。
人が手を動かすことで、青空文庫は、前進するパワーを得る。
たとえば、「読みたい」と思った本を図書館で借りるついでに、入力や校正にも力を貸していただければ、青空文庫は元気よく前進を続けて行けるだろう。

最後になったけれど、年末のご挨拶で、一年のしめくくりとしたい。
この一年、ありがとうございました。そして、来年も、どうぞよろしくお願いします。
来るべき年が、幸多く、明るさに満ちた年となりますように。(LC)

2002年12月28日 町野修三さんの作品公開
12月5日に59歳で逝去された町野修三さんの個人ホームページで公開されていた作品をまとめた「輝盡亭主人漫録」を登録する。
収録したのは、町野さんの生前最後の著書となった歌集『ダンディスト』以後の短歌に加え、「小悪魔字典」「ゴマメのため息吐息歯ぎしり」「輝盡亭の小咄」の3点。ことに、「小悪魔字典」は、まあよくも書いたものと思わないではいられない分量があって、町野さんのこだわりぶり、熱中ぶりが何だかおかしい。
町野さんは、大阪で小規模の企業の経営を続けながら、歌人として活動を続けた人である。大伴家持の研究で知られ、1999年に青空文庫に登録された『大伴家持論1』前後編は、市井の研究家の著作としては例外といっていい、第一級のものである。このことからもわかるとおり、和歌の古典に精通した方であるが、それでいてご自身の短歌は平明で率直な、こちらは「市井の人」に徹した趣が濃い。エッセイとなると、さらにその匂いは強くなる。大阪風のユーモアをたっぷりまぶした雑文を大いに楽しんでいただきたい。
ホームページでは、ほかに「大伴家持論2」「大伴家持の作品鑑賞」が公開されていた。こちらは内容も分量も生半可なものではなく、いずれ別ファイルにまとめて登録する予定である。
なお、登録の申し出に快く承諾してくださった、著作権継承者である町野成子さんに心から感謝する。そうして、志半ばだっただろう、町野修三さんのご冥福を祈りたい。(楽)

2002年12月24日 クリスマスの物語
クリスマスといえば、定番とも言える作品がいくつかある。クリスマスイブに、そのうちのひとつ、ディケンズの「クリスマス・カロル」を、森田草平訳でお届けする。昨年、入力者の大久保ゆうさんのサイトで、期間限定で公開されたファイルを、松永正敏さんが校正してくださった。
強欲で人間嫌いのスクルージのもとに、過去、現在、未来のクリスマスの精霊が訪れる。精霊に連れられて、スクルージが見たものは…。19世紀イギリスの物語は、時代と国境を超えて、いまも心をあたたかくしてくれる。誰もが一度は読んだことのあるクリスマス物語を、今年はパソコンで読んでみるのも楽しいのではないだろうか。青空文庫からみなさんへの、ささやかなクリスマス・プレゼントとして、縦書きで読めるttz版も用意した。
青空文庫には、もうひとつの定番「賢者の贈り物」のほか、「金のくびかざり」という可愛い小品や、1929年モスクワのクリスマスの様子を知ることのできる「モスクワの姿 あちらのクリスマス」など、クリスマスにちなんだ作品が登録されている。お気に召したら、あわせてどうぞ。
ことしのクリスマスが、みなさんにとって、美しく楽しいものであることを、心より祈りつつ。(LC)

2002年11月05日 人名用漢字リスト、「みみずのたわこと」XHTML 版を修正
正誤報告を、二件。

漢字表一覧」の「人名用漢字」リストに誤って収録していた「凛」(区点コード:49-59)を、「凜」(84-05)に訂正した。
馬場 肇さんの御教示による。
当該データに対する馬場さんからの疑義は、まず、ネットニュースの fj.kanji に提示された。
その直後、矢野啓介さんからは、馬場さんの指摘が fj.kanji にあり、その通り正すべきものと思われるとのメールを、関連情報を添えて頂戴した。
その後、馬場さんからも改めて直接、ご連絡をいただいた。
馬場さん、矢野さん、ありがとうございました。

徳冨健次郎「みみずのたわこと」 XHTML 版に、脱落があった。
テキスト版で、「ヤスナヤ、ポリヤナ[#「ヤスナヤ、ポリヤナ」などと、二重傍線の注記をほどこしてあるところが、 XHTML 化に際して抜け落ちた。
XHTML 版生成プログラムを修正した後、ファイルを作り直して差し替えた。(倫)

2002年11月01日 メインサイトを新システムに切り替え
今日から、メインサイト(http://www.aozora.gr.jp/)を新しいシステムに切り替える。
皆さん、おめでとう。お疲れさま。
区切りの日、青空文庫が今どこにいるのかを、確認しておきたい。

データベースを元にした新館の表側は、一応固まった。
バグに類するものが見つかれば直さざるを得ないが、基本的にはこの形でしばらく運用したい。改善のための課題はメモしておいて、どこかで一括して直したい。
ファイル利用のための表玄関に加えて、新館には、入力、校正受付の窓口を用意するつもりでいる。データベースと連動した、ウェッブページからの申し込みシステムの開発が、残された課題。なお一か月あまり、世話役はこの作業に労力を振り向けることになる。

報告せずにきたが、1999年9月から賜ってきた株式会社アスキーの御支援は、去る8月で終了した。
1998年夏から継続してきた一名の専従者体制も、同じく8月までとした。
全面的に手作業に依存してきた青空文庫の「これまで」と、自動化による管理業務の省力化を目指した「これからの準備」の双方を、アスキーが資金面で支えてくれた。ありがとうございました。
今後の支出の柱は、サーバーの維持費となるが、これは当面、工面できる見通しがたっている。
雑誌の付録 CD-ROM に青空文庫をつけてもらう形を、どこかでとっていただけないか、働きかけたいと考えている。
青空への階段を、ここからもまた一歩ずつ。(倫)

2002年10月27日 情報文化学会賞大賞受賞
青空文庫が、賞をいただいた。
「第8回 情報文化学会賞 大賞」。「ボランティア方式による無料電子図書館サイト『青空文庫』の構築・運営活動」が、評価の対象となった。

去る25日、名古屋で開かれた同学会の全国大会において、贈賞式が行われた。
ミラーサイトで先行して使いはじめた新しいシステムには、使ってみた人から、いくつも注文が付いた。そのほとんどすべてに、聞くべき点があった。
この日の朝、かなり大きくいじった修正版への切り替えを確認して、名古屋に向かった。

すべて手書きで作ってきた旧システムには、電子本を通じて知り合った数人が、ごく軽い気持ちで、なんの準備もなしにスタートさせた青空文庫の出自が、よく現れている。
その場しのぎで膨れ上がった設計図を欠く仕組みは、日々の更新に手が掛かり、抜本的な手直しが困難だった。
利用上、問題があることに気付きながら、予想される作業量に圧倒されて、適切な対処ができなかった。
長丁場となると、疲れがたまって当然だった。
そんな状態が続いた挙げ句、「このままではもうだめだ」と踏み切ったのが、データベースを元にした、「更新や手直しが簡単にできて、使う側にとっても便利なシステム」の開発だった。

だが、新館建設という大仕事を、旧館の維持と並行して進める作業に、私たちは呆れるほどに手こずった。
作品の公開が、長期にわたって滞った。
興味深い提案に対して、何度か、返事もできなかった。
せっかく校正への協力を申し入れてくれた人に、作業をお願いできないことが、今に至るまで続いている。
新システムへの全面切り替えを目の前にして、ほっとした気持ちももちろんあるが、忸怩たる思いもまた、腹の底にはたまっている。

そんなさまざまな心の色が重なり合うタイミングで、大きな賞を頂戴することになった。
気持ちのこもった手で、ポンと、肩でも叩かれたような気がした。

誰もが等しく享受できる宝を、青空に積むことはすばらしい。
そんな思いが、この試みに集まった。
もっとしっかりとした柱に、ほころびのない帆をはることができていれば、思いの風のいくつかを、吹きすぎるに任せることはなかっただろうにと思う。
だがとにもかくにも、私たちはここまできて、ここに新しい帆柱を立てる。
この作業には、かつてとはくらべものにならない数の、力強い仲間が加わった。
柱を立て、帆をはった全ての仲間に青空文庫をゆだね、思いの風にまかせて、大いなる海原を行きたいと思う。

最後に、これまでのシステムに。
ありがとう。ありがとう。さようなら。(倫)

2002年10月26日 メインサイトの運用を一時停止
ミラーサイトで慣らし運転を進めてきた新しいシステムに、メインサイトも切り替えようと思う。
準備のために、10月28日正午をもって、メインの運用をいったん停止する。
再開は、11月1日を予定。
無事に作業が完了すれば、この日、新館に切り替わったメインで皆さんをお待ちする。
引っ越し中は、ミラーを使ってもらいたい。

なお、11月1日以降、ともに新館に切り替わったミラーとメインには同じ中味を置き、同時に更新していく。(倫)

2002年10月25日 総合インデックスを改修
「総合インデックス」を、手直しした。
新館公開以来、たくさんの人が味わってきたはずの、「クリックしてがっかり」が、これでなくなる。
寄せられた要望を聞きながら、他にも、いろいろと直した。さて、どの程度使いやすくなったか。皆さん、是非、試してみてほしい。

作家名のならんだリストは、これまで、「公開中の作品」の「作家別」ブロックにだけ用意してきた。
「公開中」と謳うところに置いてあるにもかかわらず、ここには、公開作品のない作家も混ざっていた。あるかないかは、作家名をクリックして、作品リストを開いてみるまでわからなかった。
開くと、読めるものがないケースがしばしばあって、「クリックしてがっかり」と評判が悪かった。

新しい「公開中の作品」の「作家リスト」には、読める作品のある著者だけがならんでいる。「がっかり」は、もう置いてない。
公開作品がいくつあるかも、ここで確認できる。

加えて、「入力中の作品」あらため「作業中の作品」の「作家別」にも、作家のリストを用意した。
こちらには、入力中、校正中の作品がある作家が並んでいる。作業中の作品数もわかる。

公開作品のある作家。作業中の作品のある作家。実はこれまでのリストには、そのどちらもない作家まで、入れていた。
将来、誰かが取りかかるかも知れないと、登録はしてある。けれど今のところ、とりかかっている作品のない作家に関しては、ではどこに置いたものか?
少し考えて、「資料室」欄に「登録全作家インデックス」を設けた。
ここには、公開中、作業中の作品のあるなしを問わず、登録しているすべての作家を網羅したリストを置いた。
そのままでは、役立たずで終わるかも知れない着手作品のない作家の項目は、今後、どんなふうに使っていけばよいだろう。代表的な作品を掲げておけば、「取り組んでみよう」と考える人が出てくれるかもしれない、などと思っている。

ある作家の作業中作品が、どんな底本をもとにどの段階まで進んでいるかの詳細は、「作家別作品リスト」から開ける、「作業中 作家別作品一覧」で確認できる。
その名の通り、この一覧は作家ごとに分かれているが、すべての作業中作品を網羅した詳細リストも、別に用意した。

「作業中の作品」「作家別」の「全てを表示」をクリックして欲しい。
「ア」の見出しの上に、「→「作業中 作家別作品一覧:全て(CSV形式、 zip圧縮)」をダウンロード」とある。
ここをクリックすると、作業中の全ての作品を網羅した一覧表を引き落とせる。
先ず、zipで圧縮してあるファイルを解凍して欲しい。
形式は、表計算ソフトで開くことを前提とした、CSVにしておいた。
50音順で著者名が並び、同じ作家の中では、作品名が50音順で並んでいる。
表計算ソフトの機能を使えば、自分が担当している作品を集めて確認したり、校正を待っている状態の作品だけをまとめて見渡してみたりと、さまざまな使い方が工夫できるだろう。
文庫の活動に直接携わる人には特に、見渡すにも、見きわめるにも、役立つと思う。
この一覧表も、日々更新していく。(倫)

2002年10月13日 図書カードURLの「引っ越しスクリプト」
10月1日付で予告していた「新旧図書カードのURL変換スクリプト」が、何とか公開できる状態になった。
ダウンロードページを、こちらに用意している。

スクリプトは、「校閲君」やHTML生成スクリプトと同じく、Perlでできているので、Perlの利用が初めての場合は、実行環境の準備が必要となる。ダウンロードページからも参考ページへのリンクが張ってあるが、「リンクの数がさほど多くないので、Perlをインストールするほどでもなく、手作業でもかまわない」という人も、けっこう多いかもしれない。そんな方々のために、スクリプトに加えて、ExcelとCSV(カンマ区切りのテキストファイル)で、新旧URLの対照表も用意した。これらのスクリプトや資料を、引っ越し作業に役立てていただければ嬉しい。

10月中にリンク先の確認をしたい場合は、エディタの置換機能などを使って、変換後のURLの「www」を「mirror」に一括置換すれば、一足先に公開しているミラーサイトにつながる。もちろん、ミラーサイトにリンクした状態で、公開していただいてもかまわない。

これまでの5年間、青空文庫は、手作業での更新をベースとしてすすめてきた。そのため、その時々の事情により、細かな「脇道」がいくつもできている。図書カードのURLが途中で変わったケースもあり、スクリプトも、当初予定していた機械的作業だけではカバーできない部分がいろいろと出てきて、公開までに時間がかかってしまったことをおわびしたい。
今後の青空文庫は、基本的な部分を、データベースを基盤としたシステムに移行する。コンピュータは融通がきかなくて不便な点も多々あるが、その分だけ、臨機応変の「脇道」が発生しないということでもある。これから、おそらくずっと、少なくとも当分のあいだ、図書カードのURLは、変更されないはずだ。
みなさんの引っ越しが無事に完了し、11月に予定しているグランドオープンを、共に笑顔で迎えられることを祈りつつ。(LC)

2002年10月01日 新館で作品登録再開
新規作品登録を再開する。
あわせて、ここ http://mirror.aozora.gr.jp/ で、青空文庫の新しいシステムを動かし始めたことを、メインサイトの「そらもよう」でも告知する。
青空文庫、二度目の出発に向けた、確かな一歩。
関わった人の働きのすべて、見守ってくれた人の配慮のすべてが重なり合い、繋がり合って、やっとのことで踏み出せた一歩だ。

続くもう一歩は、11月1日に。
今日から一か月、準備期間をもうけ、メインの http://aozora.gr.jp/ を含む、青空文庫全体の新システムへの移行を目指す。

最後の、そして最初の10月には、「新」「旧」の青空文庫システムを併用する。
メインサイトは「旧」で。ミラーサイトは「新」で。
ただし旧館の更新は、「そらもよう」をのぞいて、停止する。
「入力中の作品」も、もう書きかえない。
どの作品の入力が進んでいるか。どの作品が、校正可能な状態にあるかの確認は、新館の「総合インデックス」「入力中の作品」でおこなって欲しい。

青空文庫の作品ファイルや図書カードにリンクをはっておられる方には、10月を移行のための準備期間として使っていただきたい。
「旧」から「新」への切り替えによって、図書カードや作品ファイルの URL が変わる。
新旧 URL の対照表と、URL の書き換えスクリプトを用意している。
間もなく紹介できると思うので、ご利用いただけるとありがたい。

10月には、新館に磨きをかける作業も進めたい。
青空文庫メーリングリストの仲間からは、つきることのない改善要求が、今も寄せられている。
使いにくい点、わかりにくい点があれば、皆さんも是非、「みずたまり」で指摘して欲しい。
旧館を前提に書いてきたさまざまな文書の手直しも、この間に進めたい。

一歩、続く一歩。
そう、遠くまで行くんだ。(倫)

【以下は、同日付けの旧館掲載分です。】

データベースを土台とした、新しい青空文庫システムの開発を進めてきた。
ミラーサイトの http://mirror.aozora.gr.jp/ に置いた新システムを使って、今日から新規作品の登録を再開する。

10月いっぱい、ここメインサイトは旧システムのまま運用する。
ただし、「そらもよう」をのぞいて、更新は行わない。
どの作品の入力が進んでいるか。どの作品が、校正可能な状態にあるかの確認は、新館の「総合インデックス」「入力中の作品」でおこなって欲しい。
11月1日には、ここメインサイトも新システムに切り替えたいと考えている。

全面移行に向けた、準備のための10月。
この間、何を進めたいかは、新館の「そらもよう」で。(倫)

2002年09月20日 新館の仮公開スタート
今日から扉は開けておく。
よかったら、青空文庫新館をのぞいてみてほしい。

土台にデータベースを置き、一から作り直した新館で大きく変わるのは、まず、索引システムだ。
「総合インデックス」という、新しい名前を用意した。
「青空文庫早わかり」の「作品を読む」を、「総合インデックス」を前提に、書き直しておいた。
目を通してもらえると、早くなじめるのではないかと思う。

すでに見ていただいたとおり、トップページもがらりと変わった。
「総合インデックス」の見出しを、一番上の「メインエリア」欄に置いている。
索引こそ、特等席にとの判断だ。

「お知らせ」の「新着情報」をクリックすると、今年の1月1日から今日まで公開してきた作品の一覧が開く。
「最新公開作品」には、もっとも新しく登録された作品。
これまで「そらもよう」には、新着情報とお知らせの双方を載せてきたが、これからはお知らせに絞る。

索引と新着情報と、お知らせは、青空文庫の「顔」だ。
コンピューターの力を、十分引き出して、ここを使いやすく、分かりやすく。
同時にこの三つは、青空文庫が元気なら、毎日のように書き替えることになる、手間のかかる部分でもある。
機械化で、この手間をできる限り減らすことが、新館設立のもう一つの目的だった。

コンピューター化した新館のテストと手直しを、これまではカーテンのかげで進めてきた。
大きな問題はだいたいつぶせたと思うので、今日から今月末まで、本番と同じ設定で、試験的に動かしてみる。
ここで大きなトラブルがなければ、10月1日から、ミラーサイトの http://mirror.aozora.gr.jp/ でまず、新館の本運用をはじめる。

青空文庫のメインサイト、http://aozora.gr.jp/ は、順調に事が進んだ場合でも、10月いっぱいは、これまでどおりの旧館体制にしておこうと思う。
旧館から新館への移行に際しては、図書カードなどのURLが変わる。
さまざまなページから青空文庫にのびているリンクが、切れっぱなしにならないように、URLの書き換えツールを用意し、一ヶ月をかけて、仲間丸ごとの引っ越しを目指したい。

今日から10日間を想定している試験運用では、去る8月6日に仮公開した原民喜プロジェクトの作品を、本登録していく。
これから、『夏の花』『廃墟から』『壊滅の序曲』(新字旧仮名版)の公開と、このそらもようの掲載を、コンピューターに指示する。
明朝、どうか新館が無事に、動きだしますように。(倫)

2002年08月24日
青空文庫はこれまで、二つあった。
メインサイトと、これとまったく同じ中味のミラーサイトだ。
ミラーサイト用のサーバーは、テレビ番組に関する情報を提供している ON TV Japan のものを使わせていただいてきた。
このサイトのミラーとしての運用を、今月末、31日いっぱいで停止する。
http://mirror.aozora.gr.jp/ を利用してこられた方は、今後、http://aozora.gr.jp/ のメインサイトを、利用してほしい。

ミラーとしての役割は終えるが、ON TV Japan のサーバーは、今後も使わせていただける。
青空文庫にとっては実に大きな一歩、第二の開館といってもよい新しいステップを踏むための実験を、ここで進める。

青空文庫はこれまで、基盤となるシステムなしで、運用を続けてきた。
多くの図書館が今では、コンピュータ化された検索システムをもっている。
館内の端末や、インターネット経由で蔵書を確認でき、本を借り出す際は、バーコードの読みとりで、誰がいつ、何を借りたかが記録される。
こうした仕組みを欠いた青空文庫では、新しい作品を一つ登録するたびに、「図書カード」を手書きし、複数の「本のリスト」を手作業で修正してきた。
誰が、どの作品の入力、校正に取りかかっているかを示す「入力中の作品」も、手直しの更新だった。
新しい中味をメインとミラーに送り込む作業も、人がになってきた。
日々の作品登録の裏には、管理のための手間のかかる作業が、常に存在し続けた。
使う側にとっても、これまでの青空文庫の索引や図書カードは、便利なものではなかったと思う。
ある作家に関して、どんな作品が登録され、どんな作品の入力、校正が進んでいるのかを一目で見渡すことが、できなかった。
「本のリスト」も、開きにくかったと思う。

使う側、管理する側、双方の状況を改善するためには、データベースを基盤とした仕組みをつくり、青空文庫をそっくり、新しい土台に移すしか手がないと思われた。
これまでそらもようでも何度か、データベースの開発についてふれてきた。
さまざまな要因が重なって、当初の想定からは大幅に遅れたが、この「青空文庫新館」が、ようやく立ち上がった。
ミラーとしての運用を停止した後、ON TV Japan のサイトでは、想定したとおりに新館が機能してくれるか、確かめる実験を進めていく。

実験サイトに続いて、青空文庫の本館(http://aozora.gr.jp/)を新しいシステムに切り替えるにあたっては、機能の確認に加えて、もう一つなすべきことがあると考えている。
「きずな」を守ることだ。

青空文庫の図書カードや個々の作品には、いろいろなところからリンクがはられている。
リンク先は、ほぼ例外なく本館だ。
本館を新システムに切り替えた時点で、リンクの腕が伸びてくるカードやファイルの URL が変わる。
移行を急げば、私たちすべてにとっての財産である、きずなが切れる。
旧システムのどの URL が、新システムではどう変わるかの資料を用意して、リンクをはっている人たちに紹介できれば、「変わること」にともなうマイナスを、より小さく抑えられるだろう。
「早く、移りたい!」と胸ははやるが、きずなも含めた「青空文庫圏」をなめらかに移行させるために、必要な準備をこれから一つ一つ進めていきたいと思う。

「自分の手と目のわざで、残したい作品をここに積み上げていく。」
これが、青空文庫の本体だ。
必要なステップであることは重々承知しているが、データベース化という、初心からは少し距離のある作業に、特にここ半年、あまりにも多くを割かざるをえなかった。
この作業を終えて本来の道に立ち返り、ゆっくりしっかり、黙々と歩んで行ける日のくることを、今はこいねがっている。(倫)

2002年08月06日
今年も、暑い8月がめぐってきた。
原民喜没後半世紀を経た2002年8月6日、原民喜プロジェクトの成果を公開する。代表作「夏の花」をはじめ、詩や小説、短い随筆など、原民喜の創作作品が、これでほとんど、ウェブ上で読めることになる。没後50年を経過した作家の心の叫びに、この機会に、耳を傾けていただければ幸いだ。

1999年の秋から、一連の原民喜作品の入力が続けられてきた。2002年の年明けに、著作権の消滅を待ちかねたように入力ファイルが届く。「著作権消滅後、初めて迎える8月6日に、これを一挙公開できれば」という思いは、そのときに芽生えた。
とはいえ、日々おしよせてくる諸々のことに流されて、なにひとつ準備できないまま、5か月が過ぎていった。
半ばあきらめかけていたところに届いた、工作員の大野晋さんからの一通のメールが、原民喜プロジェクトのきっかけとなった。8月6日の公開をめざしてプロジェクトが発足し、メーリングリストに集う仲間の協力を得て、着実に校正が進行していった。多くの人の力によって、予定どおり、全作品の公開へとすすめることができたのだ。
プロジェクトのトップページには、あわただしいスケジュールの中、公開に向けて尽力してくださったみなさんのお名前を、しっかり載せさせていただいた。みなさん、本当に、ありがとうございます。
(このあたりの事情は、ひとあし先に、「水牛」でも書かせていただいた。あわせてごらんいただければ幸いです。)
プロジェクトのページには、「ちへいせん」からも、リンクを張っている。「ちへいせん」では、詩集2冊のttzも公開していただいた。縦書きで読む楽しみも、ぜひ味わってほしい。
原民喜プロジェクトは、その後、第二弾として「ガリバー旅行記」「遺書」を加え、現在もさらに続いている。
これからも、このプロジェクトの行方にご注目いただきたい。

これらの作品は、実は、ちょっと変則的な手段で公開している。まだ、図書カードが存在していないのだ。置き場所も、いつもの場所とは、ちょっと違っている。
原民喜作品の入力とほぼ歩調をあわせたような期間、青空文庫は、将来の基盤となるべきデータベースの開発に取り組んできた。データ構造の設計からはじまって、ユーザインタフェースに至るまで、メーリングリストメンバの意見を採り入れつつ、行きつ戻りつしながら進んできた。2002年になって、その開発が、ゴールに向かって大きく進んだ。そして、今まさに、大詰めを迎えようとしているところだ。
新システムが大きく進捗を見せた後も、最終的な完成時期が、なかなか定まらないという事情があり、「新システムに、いつ、どのように移行するか」「従来システムの更新を、いつまで、どうやってすすめるか」の見きわめをつけることが、ずいぶんと難航してしまった。その間、水面下の水かきばかりが続き、ずっとドタバタしている割には、外から見れば休止状態に見えてしまう時期が長引いた。「入力や校正に参加したけれど、『入力中の作品』が更新されていない」と不安に感じておられる方も、多いかもしれない。多くの人に心配をかける状況が続いたことを、この場を借りてお詫びしたい。
しかし、ようやく先も見えてきた。まだ最終スケジュールは確定していないけれど、データベース基盤部分の開発は、完成目前までこぎ着け、あわせて、新しい図書カードやトップページのデザインも、着々と進行中だ。
これから、新システムの完成に向けて、少しずつ、情報発信を再開していく。この「そらもよう」では、新システムの進み具合などを、適宜お伝えしていく予定。「入力中の作品」も、できる限り、本来の更新ペースに戻していく。今回の原民喜プロジェクトのように、少しまとまった単位で、仮公開というかたちをとることもあるかもしれない。
あと少しの期間、ペースを落とした状況が続くけれど、新しいスタートに向けての準備は、着々と進行している。青空文庫のリスタートまで、いましばらく、気長に見守っていてください。(LC)

原民喜プロジェクト校正者より、ひとことメッセージです。

学生時代以来、ン年ぶりの再会でした。「みずみずしい」という形容が合う作風なんだ、と思います。人一人分の大きさで話しかけてくれます。嬉しい誤算でした。(Juki)

2002年06月14日
Nana ohbeさんが入力された与謝野晶子『「女らしさ」とは何か』『三面一体の生活へ』『私娼の撲滅について』『食糧騒動について』『新婦人協会の請願運動』『選挙に対する婦人の希望』『何故の出兵か』を登録する。校正は門田裕志さんです。(AG)

2002年06月10日
Nana ohbeさんが入力された与謝野晶子『階級闘争の彼方へ』『教育の民主主義化を要求す』『非人道的な講和条件』『平塚さんと私の論争』『平塚・山川・山田三女史に答う』『婦人改造の基礎的考察』『婦人指導者への抗議』『婦人も参政権を要求す』『文化学院の設立について』『母性偏重を排す』を登録する。校正は門田裕志さんです。(AG)

2002年06月05日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『朝の風』『おもかげ』『海流』『鏡の中の月』『今朝の雪』『雑沓』『三月の第四日曜』『杉垣』『杉子』『その年』『乳房』『築地河岸』『突堤』『猫車』『日々の映り』『広場』『二人いるとき』『道づれ』『昔の火事』『夜の若葉』を登録する。校正は原田頌子さんです。(AG)

2002年06月03日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『鏡餅』『共同耕作』『小祝の一家』『刻々』『一九三二年の春』『だるまや百貨店』『鈍・根・録』『ピムキン、でかした!』『舗道』『聟』を登録する。校正は松永正敏さんです。(AG)

2002年05月29日
小林徹さんが入力された南部修太郎『修道院の秋』『処女作の思い出』『探偵小説の魅力』、大野晋さんが入力された野口雨情『青い眼の人形』『十五夜お月さん』、junkさんが入力された宮沢賢治『文語詩稿 五十篇』、阿部良子さんが入力された横光利一『純粋小説論』『洋灯』を登録する。校正は南部修太郎、野口雨情、宮沢賢治の作品が林幸雄さん、横光利一の作品が松永正敏さんです。(AG)

2002年05月27日
Nana ohbeさんが入力された夏目漱石『岡本一平著並画『探訪画趣』序』『元日』『木下杢太郎著『唐草表紙』序』『処女作追懐談』『高浜虚子著『鶏頭』序』『『土』に就て』『長塚節氏の小説「土」』『入社の辞』『文芸は男子一生の事業とするに足らざる乎』『文士の生活』『正岡子規』『余と万年筆』『予の描かんと欲する作品』『落第』『『我輩は猫である』中篇自序』『『我輩は猫である』下篇自序』『私の経過した学生時代』を登録する。校正は米田進さんです。(AG)

2002年05月23日
tatsukiさんが入力された海野十三『ふしぎ国探検』岡本綺堂『半七捕物帳 湯屋の二階』、門田裕志さんが入力された岡本かの子『秋の七草に添えて』『小町の芍薬』、砂場清隆さんが入力された岡本綺堂『半七捕物帳 石灯籠』、林幸雄さんが入力された鷹野つぎ『草藪』『窓』、もんむーさんが入力された田山花袋『帰国』を登録する。校正は『ふしぎ国探検』が原田頌子さん、『秋の七草に添えて』『小町の芍薬』は林幸雄さん、『半七捕物帳 石灯籠』は大野晋さん、『半七捕物帳 湯屋の二階』は小林繁雄さん、『草藪』『窓』は土屋隆さん、『帰国』は松永正敏さんです。(AG)

2002年05月20日
門田裕志さんが入力された泉鏡花『紫陽花』『神楽坂七不思議』『城崎を憶う』『月令十二態』『松翠深く蒼浪遥けき逗子より』『逗子だより』『寸情風土記』『鉄槌の音』『迷子』『弥次行』『山の手小景』を登録する。校正は『紫陽花』が林幸雄さん、それ以外は米田進さんです。(AG)

2002年05月07日
宮本百合子『一本の花』『ヴァリエテ』『赤い貨車』『ズラかった信吉』『ペーチャの話』を登録する。
入力は、柴田卓治さん。校正は、松永正敏さんによる。

これまで青空文庫では、テキスト版と HTML 版に加え、エキスパンドブック版を用意してきた。
今日の登録分からはこれを、テキスト版と HTML 版のみにあらためた。
テキスト版には、これまで圧縮をかけてきたが、より頻繁に利用されることを想定して、すばやく扱える「圧縮なし」も置くことにした。
加えて、HTML 版の仕立ても、大きく変えた。

変えようと思ったのには、理由がある。
HTML 版のどこをどんなふうに変えたのか、ご説明したい。
続いて、なぜ変えようと考えたのか、そのわけを示したい。

新しい HTML 版では第一に、ウェッブページの約束事を定めている、W3C の勧告にそうことを心がけた。
ソースを見比べていただければ、いろいろな点が変わっているのが分かるだろう。
漢字の読みを示すルビのタグにはこれまで、ボイジャーの T-Time 専用のものを「こっそり」使ってきた。だがこれでは、T-Time の利用者しか、その恩恵にあずかれない。
皆さんが使っておられるウェッブブラウザーの中でも、W3C のルビタグを解釈するものがふえてきただろうと判断して、切り替えに踏み切った。
ルビに対応した新しいブラウザーで開けば、ルビがルビとして表示される。
対応していないものでは、これまでどおり、読みが括弧におさまった形で示される。
なお、T-Time は W3C のルビタグも解釈できるので、これを利用して読んでいる人の手もとでも、今回の切り替えによる問題は生じないはずだ。

新しいファイルには、第二に、文字を表示するスペースの幅や行間などを指定できる、スタイルシートを用いることにした。
スタイルシートが旨味をもっていることは明らかで、これまでにも何度か、使えないかと考えたことがある。
だが、ブラウザー側の「理解力」に大きなばらつきがあり、一部では表示が乱れることから、文庫のファイルに標準的に用いることは、行わないできた。
ただルビタグ同様、スタイルシートについても、新しいブラウザーでは機能が安定してきた事情を踏まえ、大きな節目となるここで、「採用」に踏み切った。
新しいブラウザーで開いてもらえれば、今日からのファイルは、左右が少しあき、行間も広がって見えるはずだ。

第三に、これまでのファイルでは通常の文字として表すことのできなかった外字の多くを、本文中の出現箇所に、画像化して埋め込むことにした。
ブラウザーの背景色を白に設定しておけば、画像が組み込まれていることも意識せずに、読み進んでもらえるかもしれない。
画像化の対象としたのは、第3第4水準の漢字などを定めた、JIS X 0213 と呼ばれる規格の文字だ。
表示フォントの大きさを変えると、外字画像のサイズもそれにつれて変わるという、ちょっとした趣向も組み込んである。

第四に、外字の画像形式に、PNG と呼ばれるものを採用した。
ウェッブページの画像には、GIF が標準的に使われてきた。
この、GIF 画像作成の際に広く用いられる圧縮技術の特許を、コンピューターメーカーの UNISYS がもっていた。
GIF がウェッブの標準となるに及んで、UNISYS はライセンス料の取り立てに力を入れ始めた。
まずは、画像ソフトの開発元に支払いを求めた。大手なら、払える。支払った上で、その分を価格に上乗せできる。だが、無償公開を前提としてプログラムを書いている人には、誰かにツケを回すすべがない。彼等の多くが支払いに応じようとしないと見るや、UNISYS はライセンスを受けていないソフトで GIF 画像を作り、自分のページに用いているすべての人から、金をとると言い始めた。
こうした事情を背景に、GIF に代わるものとして開発されたのが、PNG だ。
特許問題の生じるおそれのないこの方式は、W3C の推奨規格となっている。
青空文庫のファイルは、「商業利用も含めて、自由に複製し、再配布できる」と謳っている。
幅広く共用されることを目指すファイルの画像なら、PNG にしておくべきだろうと考えた。

今回、新しい HTML に組み込む要素を吟味する際、私たちは、ファイルが「読みやすくなる」ことに加えて、「遺すべきもの」としての要件を満たすだろうかという点を意識した。
「遺すべきもの」としては、W3C の規格にそうことが意味を持つ。
ただし、今現在、私たちが利用できるブラウザーにはそれぞれに、表示機能の限界がある。
W3C の標準に拠り、その枠の中で読みやすさを求めようとすれば、どこまでのブラウザーを救うのかを選ぶ、ある種のバランス感覚と覚悟が必要になる。

W3C のルビタグを正しく表示してくれるのは、Windows 用の Internet Explorer 5.0 以上に限られる。
Macintosh 用の Internet Explorer は、5.1 でかなり表示が安定してきたが、まだ問題が残っている。5.0 では、特定のパターンで必ず、表示が大きく乱れる。
Windows 用、Macintosh 用を問わず、Netscape のすべてのバージョンは、ルビタグに対応していない。
Netscape Communicator 4.7 を利用している人は、今もかなりおられるだろう。ここでは、スタイルシートが問題を引き起こす。組み込んだ外字画像の直後で、期待しない改行が入る。これを避けるためには、スタイルシートを無効にするよう、設定してもらうしかない。
PNG も、古いブラウザーでは表示できないものがある。
もっとも深刻なのは、Macintosh 用の Internet Explorer 4.5 が抱えている問題だ。今回採用した XHTML と呼ばれる形式のファイルの中味が、ここでは、タグの付いたソースの形で見えてしまう。

読みやすさの前提は、問題なくファイルを開けることだろう。
その点こそを、できるだけ多くのブラウザーで保証しようとすれば、XHTML、W3C のルビタグ、スタイルシート、PNG のいずれも、「避けた方が無難」となるだろう。
だが、目指すべき方向は、今、すでに明らかなのだと思う。
私たちは、W3C のガイドラインにそってファイルを用意するべきだろう。
その上で、ブラウザーの開発者に、規格を満たす表示機能の実現を求めるべきだ。
そう考えて良い時期、そう決断すべきタイミングにきたと判断して、今回は、「遺すもの」としての要件を重視した。

新しいファイルの末尾には、「このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。」という文言を入れる。
加えて、図書カードにも「XHTML 対応」と書く。

どのブラウザーでどんな問題が生じるかを、「新形式の HTML ファイルについて」にまとめ、予想される問題への対処法を示している。
これを参考に、よりよい状態で、新しい HTML 版を開いていただければと思う。

「遺すもの」を意識したさまざまな変更点に加えて、新しい HTML 版には、是非ともご報告しておきたい、きわだった特長がある。
これが、テキスト版をもとに、コンピューターによって瞬時に自動生成される点だ。

発足以来、青空文庫の活動の中心には、呼びかけ人と称する世話役が位置を占めてきた。
入力や校正にあたってくれる皆さんの力をつなぎ合わせ、生まれてくるテキストを、読みやすい形に整えて提供しようと、世話役は努力してきたと思う。
だが、青空文庫の成長に連れて、世話役が担うべき作業が膨らんだ。
能力と割ける時間の限界が、青空文庫の足を、むしろ引っ張るようになった。世話役の一部には、疲労感もたまった。
では、どうするのか。どうすれば、青空文庫を続けていけるのか。
事務局の強化も考えた。資金を集め、専従のスタッフを増やして、事務処理能力を高めることが、実効性のある、現実的な対処策ではないかと思った。
だが、自らが非力であることを前提に青空文庫を始め、最初から他力を頼み、もっぱらネットワーク上の協力に前進のエネルギーを求めたからこそ、ここまでこられたのだという実感が、組織を固定して強化するとことを、最後までためらわせた。
世話役が抱え込んできた問題を、この試みを支えようとするすべての人の前に「放し」、進むべき道をともに探れないかと思うようになった。
青空文庫にはすでに、論議と意思決定のための基盤が育ちつつあった。
青空文庫メーリングリストだ。

これまでの世話役体制のどこにどんな問題が生じているかを、メーリングリストで話し始めた。
支える仕組みの一部に、大きな負担がかかり過ぎることは望ましくないのではないかと、世話役の責任放棄ともとられかねないことを、口にした。
自分たちが抱え込んできた作業をできる限り分散化し、ネットワーク上の協力に、より多くを委ねられないかと問いかけた。
公開したファイルの誤りや疑問点を指摘し合い、元にした本の表記を確かめ、どう対処するべきか方針を決めるための共同作業場、「むしとりあみ」が生まれた。
リストの仲間から、小林繁雄さんと鈴木厚司さんが、初代の行司役を引き受けてくださった。

青空文庫が必ず用意するファイル形式とその作り方に関しても、見直しが始まった。
HTML 版とエキスパンドブック版の作成は、これまで世話役グループの野口英司さんが、もっぱら一人で担ってくれていた。
その野口さんから、青空文庫の活動を離れたいという意思表示があった。
昨年の秋のことだ。
エキスパンドブック作りには、自動化を阻む要素がいくつかある。
加えて、開発元のボイジャーは、T-Time に商品戦略の力点を移したことで、Windows や Macintosh の新しい基本ソフトにあわせた手直しを、エキスパンドブックに関しては行えなくなっていた。
野口さん抜きで体制を組み直すなら、エキスパンドブックの提供はここで打ち切ろうと考えた。

HTML 版の作り方に関しては、メーリングリストで検討が始まった。
この際、W3C の勧告にあわせることと、コンピューターによる自動生成が目標として設定された。
HTML 版のあり方に関する検討は、鈴木厚司さん、内田明さん、もりみつじゅんじさんをはじめとする、リストの仲間によって進められた。
さまざまなウェッブブラウザーで、何がどんな問題を引き起こすかの洗い出しには、さらに多くのメンバーが加わった。ねばり強い作業の中で、かとうかおりさんの緻密な検証に助けられた。
自動生成プログラムの開発という大仕事を、一身にになってくれたのは、大野裕さんだ。
LUNA CAT さんが大野さんをサポートし、Macintosh 版への移植も進めてくれた。
これまで、もっぱら手作業でエキスパンドブックを作り、エディターで HTML ファイルを書いてきた私の目には、テキスト版を瞬時に仕立て直す大野さんと LUNA CAT さんのプログラムの手並みが、まるで魔法に見えた。
そして、この魔法は、誰もが駆使できるのだと思い至ると、胸はさらに高鳴った。
自動生成プログラムは、公開されている。
テキストを、青空文庫工作員マニュアルに示されたルールに従って書いておけば、外字を画像化して組み込んだ、かなり高度な HTML ファイルを、誰もが一瞬に作り出せるのだ。

エキスパンドブック作りをやめるとして、これに代わる読みやすいファイルを用意するべきか否かは、メーリングリストの話し合いの中で、意見が分かれた。
テキスト版や HTML 版を、読みやすい状態で開けるブラウザーがいくつも生まれてきている。ならば「読みやすさ」の確保は、読む人、一人ひとりの選択と努力に任せるべきだという考え方と、「お仕立て済み」のものがあれば、青空文庫を快適に活用できる人は、より多くなるはずだという意見がぶつかった。
みずたまりで、幅広い人からの声を求めた際も、「欲しい」とする希望と、基本であるテキスト版、HTML 版の作成に集中するべきだとする見解とが、共に示された。
最終的には、論議の中で誰もが当然のこととして受けとめた、「テキスト版と HTML 版が基本」という合意点まで引いて、新しいスタートを切ることにした。
ただし、自動生成プログラムの開発は、T-Time 専用形式のファイルを作ることも想定して進められた。
このプログラムを利用すれば、エキスパンドブックなみに読みやすいファイルも、テキスト版からたやすく作れる。
まとまりとしての私たちが、仕立て済みの読みやすいファイルをまだ必要とするのだとわかれば、その時は、用意すればよい。
大野裕さんと LUNA CAT さんは、プログラムの再配布と改変も認めると、明示されている。
青空文庫のルールとツールは、誰もが、さらなる前進のための基盤として利用できる。
必要なものは、私たちが作ってもよい。
あなたが作り、どこかで公開してくれるのでもかまわない。

青空文庫のサイトを維持、管理するためのデータベース作りが佳境に入っている。
野口英司さんは、青空文庫における区切りの仕事として、これに取り組んでおられる。
締めくくりのお礼の言葉を申し上げるには、まだ早い。
だが、これまでのファイル作りへの大きな寄与に絞れば、今日の感謝の言葉は、的外れではないだろう。
野口さん、これまでありがとう。ご苦労様でした。(倫)

2002年04月18日  
青空文庫がスタートしてから、もうすぐ5年になる。
スタート当初、はっきりしていたのは、ただ「電子テキストを公開する」ということだけだった。リンクが張られた作品が5つ、ぽつんと並んでいた頃のことを、いまも鮮明に覚えている。

それから5年、電子テキストをめぐる状況は、大きく変わったとも言えるし、まるで変わっていないとも言えるだろう。どちらにしても、そのあいだに、青空文庫の規模は、思いもよらないくらいに大きくなった。

青空文庫の果たす役割のうち、「電子テキストを公開して、いますぐに読む」ことに加えて、「日本語で書かれたテキストを、電子化して、未来に手渡す」という部分が、次第にふくらみつつある。きっかけは、JIS X 0213 の公開レビュー。青空文庫に置かれた、著作権の切れたテキストから、「外字」を一掃したいという願いが、実を結びつつある結果だ。
それと歩調をあわせて、青空文庫の業務に、外字に関する処理の占める割合が、相対的に大きくなってきた。

工作員マニュアルには、JIS第1水準、第2水準に含まれない外字を、注記で表すというルールがある。この方法をとれば、たとえば音声読み上げソフトを利用するときなどに、文字のイメージを思い浮かべやすい。
しかし、日本語での注記は、入力者によってばらつきがあったり、読み進んでいく流れがそこで遮られるというデメリットもある。
その両者を天秤にかけながら、これまでは、テキスト版では注記をそのまま生かし、HTML版では末尾に外字の画像を置き、エキスパンドブックでは外字を本文中に貼り込むという方法をとってきた。素材としてのテキスト版、立ち読み版としてのHTML版、読みやすさを追求したエキスパンドブックという、欲張りな3本立てを実現するための、苦衷の策とも言えるだろう。

コンピュータの世界では、時の流れは、ドッグイヤーと呼ばれている。
電子テキストをめぐる状況での大きな流れは、長年、共に歩んできたエキスパンドブックが、時代に合わなくなりつつあるという、避けられない変化をもたらした。
加えて、青空文庫の機能として、「良質の素材を、多数提供する」という側面が、ますます期待されるようになってきている。

そういった流れを見つめて、我々は、大きな決断をしようと考えた。
基本のファイル形式を、テキスト版とHTML版の2本に絞る、というのが、その決断の中身である。
テキスト版の品質向上にかける時間を、より多くする。そして、多くの人が青空文庫に触れる入り口となるであろうHTML版のファイルを、テキスト版から自動生成して、品質向上と、効率化の、両方をめざす。
テキスト版だけの公開、という選択肢も考えられたけれど、検索エンジンを使って青空文庫のファイルから用語調べをする、といった使い方もよくあるようだ。そういう面から、HTML版は、やはり基本から外すことはできないだろうとの判断に至った。
HTML自動生成のためのスクリプトは、工作員のひとりである大野裕さんが中心となり、メーリングリストで知恵を出し合って、用意することができた。まだ開発中だけれど、データベースの存在も、自動生成から公開までの流れを後押しした。
新しいHTML版は、これまでよりも少し進んだ文法を取り入れているので、OSやブラウザのバージョンによって、見え方が異なるはずだ。Macintosh用のInternet Explorer 5.0、および5.1では、ルビの表記が不完全との情報も寄せられている。このあたり、しばらくは、舵を微調整しながらの航海となるかもしれない。

決断に至るまでの過程で、「読みやすいかたち」としてのファイルをどうするか、という問題は、大きな苦悩をもたらした。
長年の仲間であったエキスパンドブックは、時代の流れから外れようとしている。開発元のボイジャー社は、読みやすさを優先したファイル形式として、T-Timeで読むドットブックやTTZにシフトしてきている。
当然のことながら、青空文庫には、エキスパンドブックの後継として、TTZを選択するという道があった。HTML版のファイルから、TTZのもととなるTTXファイルを自動生成するのは、テキスト版からHTML版を生成するのよりも、ずっと簡単だ。TTZファイルを作るツールキットは、エキスパンドブックとは比較にならないほど簡単に扱うことができる。実現するための条件は、問題なく整っていた。
しかし、我々は今、あえてその道をとらずに進もうとしている。
「汎用的」「すぐに読める」「読みやすい」という欲張りな三本柱のうち、「汎用的」を最優先する。「すぐに読める」は、そこから派生させる。そして、「読みやすい」という部分は、誰かに委ねることはできないだろうか、と考えたからだ。

決断にあたり、みずたまりやメーリングリストで、議論を重ねた。そういった議論の場でも、「読みやすいファイル」の存続派と中止派とは、ほぼ互角で、「多数派の意見を採用する」という流れにはならなかった。最終的に着地点となったのは、「読みやすいファイルは、ないよりはあったほうがいい。しかし、それを、必ずしも青空文庫の基本ファイルとして採用する必要もないのではないか」という、中止派からも多く寄せられた意見である。

もちろん、この決断には、反対意見もいろいろとあるだろう。
これからまた、さまざまな検討を重ねて、また「読みやすい」ファイルを標準として公開に踏み切ることもあるかもしれない。
しかし、当面、青空文庫の新しい試みを、長い目で見守っていただければありがたい。
そして、「読みやすいファイルが欲しい」と思われたかたは、ぜひとも、その力を、我々に貸してはいただけないだろうか。青空文庫のテキストをもとに、思わず読みたくなるような装幀のTTZファイルを作っていただければ、とても嬉しい。
そこから輪が拡がっていけば、構造改革の第一歩は、まずは成功と言えるのではないかと思う。(LC)

2002年04月16日
青空文庫をこれから、どう進めていくか、考えてきた。
考えなければならない、事情があった。
これまで世話役の一人として、この活動に関わってきた者の目から、その「事情」について書いてみた。(「永久機関の夢を見る青空文庫」)

率直に言って、私たち世話役は、壁に突き当たったのだと思う。
この壁を、青空文庫を支えるたくさんの人たちの力で、打ち破れないかと考えた。
青空文庫メーリングリストで、では実際に、何をどんなふうに変えるかを話し合った。
新しい仕組み作りにも、取り組んだ。
むしとりあみ」の開設は、その第一歩。
サイトの維持、管理を省力化する、データベース作りが進んでいる。
誰かに作業が集中する形を避けようと、ファイルの作り方も大幅にあらためることにした。

新しい作品の登録が、しばらく滞った。
この間、ファイル作成を自動化するための詰めの作業が、メーリングリストを中心に進められてきた。
その成果を、もうすぐお目にかけられる。
まず、ファイル作りの方針を、なぜ、どんなふうに変えようと考えたのか、お話ししたい。
続いて、新しい仕組みで作ったファイルの公開へと進めたい。

特定の誰かのものではない、青空文庫。
本当に「皆で育てる」青空文庫にもっていくためには、まだまだなすべきことがある。
メーリングリストは、開かれている。
そこで「あなた」と話し合い、まとまりとしての私たちが、選び取るべき道筋を見きわめていきたいと思う。(倫)

2002年04月08日
北陸のさる県で昨年開催された詩のコンクールの受賞作を集めた小アンソロジー「北陸の子供たちの詩」を登録する。全体の構成及び入力・校正は高柳典子さん。挿画は高野まきさんによる。
 詩人の集団が主催して行われたコンクールが対象としたのは、小・中学生。インターネットでの公開の承諾が得られなかった作品が少数割愛されてはいるが、下は小学校2年生からの計21編の作品は、想像した以上に多彩で、子供たちの豊かな感性の輝きに満ちている。
 登録にあたり、「ちへいせん」での公開の際にはほとんどの作品に挿入した子供たちの写真は外した。言葉そのものと向き合ってもらうのがいいと考えたからである。どうぞ、ゆっくりとお楽しみください。お子さんのいらっしゃる方は、ぜひともご一緒に読んでみてください。(楽)

2002年04月01日
米田進さんが入力された伊藤左千夫『水害雑録』(旧字・旧仮名)『奈々子』(旧字・旧仮名)を登録する。校正は松永正敏さんです。(AG)

2002年03月25日
和井府清十郎さんが入力された岡本綺堂『青蛙堂鬼談』を登録する。校正は原田頌子さんです。(AG)

2002年03月18日
藤原隆行さんが入力された倉田百三『愛と認識との出発』を登録する。校正は小林繁雄さんです。(AG)

2002年03月13日
林幸雄さんが入力された山本勝治『十姉妹』を登録する。校正は青野弘美さんです。(AG)

2002年03月12日
林幸雄さんが入力された佐左木俊郎『芋』『黒い地帯』『都会地図の膨脹』を登録する。校正は浅原庸子さんです。(AG)

2002年03月11日
和井府清十郎さんが入力された塚原蓼洲『兵馬倥偬の人』、伊藤時也さんが入力された森本薫『華々しき一族』『みごとな女』を登録する。校正は松永正敏さんです。(AG)

2002年03月05日
tatsukiさんが入力されたアルチバシエツフ作、森鴎外(森林太郎)訳『死』『笑』を登録する。校正はちはるさんです。(AG)

2002年03月04日
はまなかひとしさんが入力された桑原隲蔵『元時代の蒙古人』『支那人辮髮の歴史』『東西交通史上より観たる日本の開発』を登録する。校正は菅野朋子さんです。(AG)

2002年02月26日
はまなかひとしさんが入力された桑原隲蔵『支那人の食人肉風習』『支那の宦官』『東洋人の発明』『歴史上より観たる南支那の開発』を登録する。校正は菅野朋子さんです。(AG)

2002年02月25日
はまなかひとしさんが入力された桑原隲蔵『支那人の妥協性と猜疑心』『支那人の文弱と保守』を登録する。校正は染川隆俊さんです。(AG)

2002年02月22日
門田裕志さんが入力された泉鏡花『夜叉ヶ池』を登録する。校正は染川隆俊さんです。(AG)

2002年02月19日
林幸雄さんが入力された黒島伝治『防備隊』小林多喜二『テガミ』永崎貢『組合旗を折る』本庄陸男『前夜』を登録する。校正は山根生也さんです。(AG)

2002年02月18日
地田尚さんが入力された国枝史郎『高島異誌』『天主閣の音』を登録する。校正は小林繁雄さんです。(AG)

2002年02月13日 バグ取り掲示板「むしとりあみ」
青空文庫のファイルから、誤りをのぞくための共同作業場として、「むしとりあみ」を設けた。
今後、疑問点は、ここで指摘してくださいますように。

どんなものをなおし、どんなものをなおさないか。
疑問点は、どんな形で書き込んでほしいか。
ファイルの質を高める作業の中で、皆さんの力を、どんなふうに借りたいと願っているかを、「利用の手引き」にまとめている。

これまでは、指摘を受けてから「できるだけ早く」を目標に、もとにした本の確認とファイルの修正を行ってきた。
今後は、なおすべきものを「むしとりあみ」にためて、数か月に一度、まとめて修正しようと考えている。

「なおす、なおさない」の大まかな目安は「手引き」に示したが、個々のケースでは、しばしば微妙な判断を迫られるだろう。
状況をじっくり見渡して、どちらかに軍配を上げる行司役が必要になる。
これまで、こうした役割は世話役(呼びかけ人)がになってきたが、新しいこの場所では、青空文庫メーリングリストのメンバーから、小林繁雄さんと鈴木厚司さんにご担当いただくことになった。

「むしとりあみ」は、ファイルに潜むバグ(虫)の取り除きという、一つの工程のための仕組みだ。作業の進め方の、部分的な変更という性格を持っている。
だが私自身は、青空文庫の進め方を根本からあらためる大仕事が、ここからはじまるのだと受けとめている。

これまで青空文庫では、調整役兼総務担当の世話役が中にたち、入力と校正にあたる工作員の皆さんを結び付けてきた。
文庫における作業協力が、量と質の双方の面でふくらんでいく中で、世話役は、調整作業の増大に向き合わされ、同時に、歯ごたえのある新しい役割の多くを抱え込んだ。
もちろんやりがいも増したが、疲れらしきものもたまった。成長の可能性に、時に怖れも抱いた。
一方、工作員の皆さんは、世話役の力不足に足を引っ張られることになった。
手配や返答の遅れから、一部にはいらだちや不満が生じていた。

こうした事態への常識的な対応策は、事務局体制の強化だろう。
そうした発想を、現世話役グループが抱かなかったわけではない。私も考えた。
だが、世話役内の論議と、青空文庫メーリングリストにおける協力体験の中から、私たちはむしろ、世話役の「解体」によって、隘路を突破できないかと考えるようになった。

世話役が作業を抱え込んでしまったのは、なぜなのか?
それは、手の内にある作業を分散化するための、明確な意志と能力を欠いていたからではなかったか。

抱え込んだ作業の目的をあらためて定義し、それが本当に必要なものかを吟味する。
どうしても必要なものなら、コンピューターによる自動処理の旨味を最大限に生かすことを意識しながら、作業手順を組み立てる。
そして、青空文庫が特定の誰かの持ち物ではなく、本当に「みんなで育てる」ものにしたいというのなら、作業の分散化を徹底して推し進めるべきではないのか。

そうした発想に基づき、青空文庫メーリングリストという開かれた場で論議して実行体制を組み上げたはじめてのケースが、「むしとりあみ」だ。
この場の仕切り役も、リストのメンバーにご担当いただく。
主要な仕事である底本や異本の確認作業には、もっぱら利用する立場から青空文庫にかかわってこられた方の、幅広い協力がえられないものかと願っている。

世話役と工作員と利用者の壁を壊すことは、可能性に満ちた、そして同時に、きわめて困難な作業となるだろう。
世話役は、意思決定における「特権」を奪われる。
時には自分一人で勝手に決めてきたこと、少数の気心の知れた者との相談だけで判断してきたことの一々を、公開の論議の場に持ちだして、合意形成のために努力することが求められる。
より広範で「責任」の匂いのする作業に誘われる工作員には、ためらいと不安がわくだろう。
底の見えない沼に、足を踏み入れるような怖れが、生じるかも知れない。
ページのかげや、書き込みの行間からは、「あなたにとって青空文庫とは何なのか」を問う声が、これまでより少し強く、響き始めるかも知れない。

むつかしすぎる課題を、設定したのだろうか。
ただ、こうした厄介な問いに向き合い、ためらいやしり込みを感じながら、それでもてのひらにのせて差しだすことのできた思いの分だけ、青空文庫がほんの少しだけ進むということで、良いのではないかと思う。
誰が進めてくれるのでもない。
あなたの思いの分だけ、青空文庫はほんの少しだけ進む。

「むしとりあみ」は、WiS.さんが著作権をもっておられる「ハイパースレッド」を使って用意した。
青空文庫での作業用に追加した機能は、大野裕さんとLUNA CATさんによって実現された。
有用な資源と、専門的な力を提供してくださった皆さんに、感謝いたします。

最後に、これまで自分たちが引き受けてきた役割を、「むしとりあみ」の作業協力と小林さん、鈴木さんに「押しつける」者の一人として、皆さんに心からお願いしたい事がある。

自分では調べが付かなかったことを掲示板に問いかけ、素早く、的確な答えがよせられて、なにか素晴らしい魔法でもみせられたような感動を覚えたことがある。
ただし、その魔法の裏側では、私の問いに促されて、何人かが確実に、知的資源を提供してくれている。

青空文庫のファイルの質を高めるために、どうぞあなたが感じた疑問を指摘して欲しい。
ただ、その際、書き込んだ問いの一つ一つが、まとまりとしての私たちの知的資源を消費することは、意識して欲しい。
自分で調べられることは、調べた上で指摘してもらえないだろうか。
指摘や疑問は、簡潔にわかりやすく書いていただけないだろうか。
たとえ見解の相違が明らかになったとしても、我々が同じ課題に協力して取り組んでいる仲間であることを、忘れないでいてもらえないだろうか。

「むしとりあみ」が求める、底本や異本の確認作業にも、あなたの力を貸し欲しい。
協力いただける皆さんには、「省エネ」の工夫もお願いしたい。
手もとに資料がある、資料のありかが分かる、これは自分が調べられると思ったら、素早く「調査を担当します」と名乗りを上げ、コメントとして書き込んでもらえないだろうか。
他の人の時間が重複して消費されるのを防ぐ工夫を、どしどし提案していただけないだろうか。

私たちの大切な時間と考える力が、どうか「むしとりあみ」において、効率よく使われますように。(倫)

2002年02月13日
大野晋さんが入力された牧逸馬『女肉を料理する男』『浴槽の花嫁』を登録する。校正は原田頌子さんです。(AG)

2002年02月12日
門田裕志さんが入力された泉鏡花『湯島の境内』を登録する。校正は林幸雄さんです。(AG)

2002年02月04日
もりみつじゅんじさんが入力された田澤稲舟『五大堂』を登録する。校正は志田火路司さんです。(AG)

2002年01月31日
Nana ohbeさんが入力された北原白秋『思い出 抒情小曲集』を登録する。校正は林幸雄さんです。(AG)

2002年01月30日
田古嶋香利さんが入力された徳田秋声『新世帯』『黴』を登録する。校正は久保あきらさんです。(AG)

2002年01月29日
林幸雄さんが入力された片岡鉄兵『今度こそ』を登録する。校正は青野弘美さんです。(AG)

2002年01月28日
門田裕志さんが入力された泉鏡花『玉川の草』薄田泣菫『木犀の香』長塚節『しらくちの花』を登録する。校正は林幸雄さんです。(AG)

2002年01月26日
もりみつじゅんじさんが入力された芥川龍之介『鴉片』『発句私見』『夢』『横須賀小景』を登録する。校正は林幸雄さんです。(AG)

2002年01月25日
志田火路司さんが入力された幸田露伴『平将門』を登録する。校正は林幸雄さんです。(AG)

2002年01月24日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『心の河』『小村淡彩』『古き小画』を登録する。校正は松永正敏さんです。(AG)
木下杢太郎「南蛮寺門前」のファイルを、差し替えた。米田進さんの御指摘を受けて、あらためて行った校正は、松永正敏さんに御担当いただいた。変更した点が少し多くなったので、今回は「訂正のお知らせ」には回さず、本欄でお知らせすることにした。(倫)

2002年01月23日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『杏の若葉』『格子縞の毛布』『七階の住人』『縫子』『蠅』『墓』『氷蔵の二階』『部屋』を登録する。校正は原田頌子さんです。(AG)

2002年01月22日
金光寛峯さんが入力された大阪圭吉『香水紳士』を登録する。校正は群竹さんです。(AG)

2002年01月21日
田中亨吾さんが入力された平林初之輔『人造人間』を登録する。校正は土屋隆さんです。(AG)

2002年01月18日
kompassさんが入力された大杉栄『自叙伝』を登録する。校正は小林繁雄さんです。(AG)

2002年01月17日
小林徹さんが入力された南部修太郎『文芸作品の映画化』を登録する。校正は小林繁雄さんです。(AG)

2002年01月16日
tatsukiさんが入力されたドストエウスキー作、森鴎外(森林太郎)訳『鰐』を登録する。校正は浅原庸子さんです。(AG)

2002年01月15日
はまなかひとしさんが入力された桑原隲蔵『晋室の南渡と南方の開発』『東漢の班超』を登録する。校正は菅野朋子さんです。(AG)

2002年01月14日
林幸雄さんが入力された小林多喜二『争われない事実』『疵』『級長の願い』『父帰る』を登録する。校正はちはるさんです。(AG)

2002年01月12日
tatsukiさんが入力された海野十三『少年探偵長』を登録する。校正は小林繁雄さんです。(AG)

2002年01月11日
「随筆計画2000」より、ふろっぎぃさんが入力された上村松園『画学校時代』北原白秋『新橋』を登録する。校正は門田裕志さんです。(AG)

2002年01月10日
Nana ohbeさんが入力された与謝野晶子『産屋物語』『姑と嫁について』『女子の独立自営』『ひらきぶみ』『婦人改造と高等教育』『婦人と思想』『離婚について』『私の貞操観』を登録する。校正は門田裕志さんです。(AG)

2002年01月09日
門田裕志さんが入力された泉鏡花『歌行燈』を登録する。校正は砂場清隆さんです。(AG)

2002年01月08日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『黄昏』『南路』『火のついた踵』『宵(一幕)』『我に叛く』を登録する。校正は松永正敏さんです。(AG)

2002年01月07日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『午市』『加護』『猿』『渋谷家の始祖』『津軽の虫の巣』を登録する。校正は、『津軽の虫の巣』が原田頌子さん、その他は松永正敏さんです。(AG)

2002年01月04日
白川由紀子さんが入力された宮沢賢治『ポラーノの広場』を登録する。校正は須藤さんです。(AG)

2002年01月03日
大野晋さんが入力された池宮城積宝『奥間巡査』、浦山聖子さんが入力された海野十三『鍵から抜け出した女』、林幸雄さんが入力された木内高音『やんちゃオートバイ』林芙美子『蛙』を登録する。校正は、『奥間巡査』が松永正敏さん、『鍵から抜け出した女』『蛙』がもりみつじゅんじさん、『やんちゃオートバイ』が鈴木厚司さんです。(AG)

2002年01月02日
柴田卓治さんが入力された宮本百合子『美しき月夜』『風に乗って来るコロポックル』『三郎爺』『地は饒なり』『禰宜様宮田』『一つの出来事』『一つの芽生』『面積の厚み』を登録する。校正は原田頌子さんです。(AG)

2002年01月01日
あけましておめでとうございます。tatsukiさんが入力された原民喜『秋日記』『美しき死の岸に』『永遠のみどり』『苦しく美しき夏』『死のなかの風景』『鎮魂歌』『廃墟から』『火の唇』『冬日記』を登録します。校正は、『秋日記』『美しき死の岸に』『永遠のみどり』『苦しく美しき夏』『死のなかの風景』『鎮魂歌』『冬日記』が林幸雄さん、『火の唇』がkazuishiさん、『廃墟から』が皆森もなみさんです。そして、柴田卓治さんが入力された宮本百合子『伊太利亜の古陶』『顔』『光のない朝』『日は輝けり』『貧しき人々の群』を登録します。校正は、『伊太利亜の古陶』『顔』『光のない朝』が渥美浩子さん。『日は輝けり』『貧しき人々の群』が松永正敏さんです。原民喜、宮本百合子ともに、この1月1日をもって著作権の消滅した作家です。(AG)


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