地底から不思議へ:ルイス・キャロルの加筆をたどる 第12回
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カテゴリー: | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2015年4月7日 |

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【凡例】
修正:草稿→修正▼
削除:削除→▼
加筆:▲→加筆▼


▲→12 アリスがわけを語る▼

▲→「ここです!」と声を上げるアリス、とっさのことであたふた、この数分で自分の図体がどれだけでっかく育っていたかどわすれしちゃっててね、あんまりあわてて立ち上がったものだから、裁判員のいる箱形の座席《ざせき》にスカートのすそがひっかかっちゃって横転《おうてん》、裁判員全員が下でおさばきを聞いているひとたちの頭上にすってんころりん、そのときのみんなは手足をじたばたさせていたので、思わず先週うっかりひっくりかえした金魚ばちのことがものすごく重なってね。

「あら、ごめん[#「ごめん」に傍点]あそばせ!」と口をついて出るもののどうにもあたふた、大急ぎでひろい上げはじめてね、だって金魚でのうっかりがずっと頭にあったから、なんとなくそう思えたんだ、すぐにひろい集めて座席にもどさないと死んじゃうって。

「おさばきが進められんな。」と言うキングの声はものものしい、「裁判員みなをおのおのの持ち場にちゃあんともどすまで――みな[#「みな」に傍点]をな。」と最後のところを力強くねんおししつつ、アリスをじろり。

 アリスが座席に目をやると、見えたのは、あわてていたからか、頭から逆《さか》さにつきささったトカゲ、このかわいそうなやつは、しおしおとしっぽをふりふり、身動きがまったく取れてなくって。もう1度ぬき出してからちゃんと入れ直す。「さして大した差でもないのに。」とひとりごと。「たぶんそもそも[#「そもそも」に傍点]おさばきの役に立ちようがないし、どっちが上でも。」

 ひっくり返されたどきどきからいささか立ち直った裁判員一同、見つかった手持ち黒板とチョークを手元に置いたとたん、せっせと仕事に取りかかってね、みんなしてこの事故《じこ》のいきさつを書き出したんだけど、トカゲだけは別、すっかり参ってしまったのか、できることといえば、こしを下ろして口をあんぐり、おさばきの場の天井をぼんやり見上げるばかり。

「事と次第について何を知っておる?」とキングからアリスへ。

「なんっにも。」とアリス。

「これっぽち[#「ぽち」に傍点]もないか?」としつこいキング。

「これっぽちも。」とアリス。

「なんとよしありげな。」とキングは裁判員へと顔を向けてね。みんなそのことを黒板に書き出したところへ、白ウサギが口をはさむ。「よしなし[#「なし」に傍点]、とのつもりでおじゃりましたか。」と言葉こそうやうやしいけど、話すあいだもみけんにしわでしかめっ面。

「よしなし[#「なし」に傍点]、とのつもりであったぞよ。」とあわてて口にするキング、ぼそぼそと続けるひとりごと、「よしあり――よしなし――よしなし――よしあり……」どっちが聞こえがいいのか品定めしてるみたいに。

 裁判員には「よしあり」と書きとめた者もあれば「よしなし」とした者もいて。かろうじて黒板をのぞけるところにいたアリスは、これを見て、「どのみち大差なくてよ。」とひとり思う。

 このときのキング、しばらくいそいそと手元のメモに何かをしたためてたんだけど、いきなり声を出してね、「静まれ!」って、それからそのメモを読み上げたんだ、「決まりその42。『背たけが1.6キロをこえた者は何ぴともおさばきから退場《たいじょう》とする。』」

 みんながアリスに目をやる。

「あたくし[#「あたくし」に傍点]、1.6キロもなくってよ。」とアリス。

「ある。」とキング。

「3キロ近くはある。」と後おしするクイーン。

「ふん、出て行かないもん、絶対。」とアリス。「それにちゃんとした決まりでなくてよ。たった今でっち上げたんだから。」

「ここに記されたものでもいちばん古い決まりじゃ。」とキング。

「なら、決まりその1のはずじゃなくって。」とアリス。

 顔を青くしたキングは、あわててメモ帳をとじる。「では、おさばきを話し合え。」とふるふる小声で裁判員に。

「まだまだやることがおじゃりまする、キングさま。」と白ウサギはとび上がって大あわて。「このような紙が今しがたとどいておじゃります。」

「中には何と?」とクイーン。

「まだ開けておじゃりませんが、」と白ウサギ、「おそらくは手紙かと、とがびとの手になる――だれかしらあての。」

「そうにちがいなかろう、」とキング、「あて名がないのでないかぎりは。まあまずないがな、ほれ。」

「だれにあてたものなんです?」と裁判員のひとり。

「あて先が何もないでおじゃる。」と白ウサギ。「むしろ、そとみ[#「そとみ」に傍点]には字は何もおじゃりません。」と言いながら紙を広げると言葉をついで、「つまるところ手紙でないでおじゃる、これはひと続きのポエム。」

「字の書き方はとがびとのものですか?」と裁判員がもうひとり。

「いえ、ちがうでおじゃる、」と白ウサギ、「しかもたいそうけったいなもので。」(裁判員はみなハテナだらけのお顔。)

「だれかしらの字の書き方をまねたにちがいない。」とキング。(裁判員みな顔がまたぱっと明るくなる。)

「申し上げます、キングさま、」とジャック、「わたくしめは書いてません、そうだと言い切れるだけのものもないでしょう? 終わりに名前もそえられてないんですから。」

「名前がないならば、」とキング、「よけいに事はまずくなるぞよ。つまり[#「つまり」に傍点]おぬしはお痛《いた》をしたことになる。でなければ、いい子としてちゃんと自分の名をそえるはずだからな。」

 これにはその場一同の手からぱちぱちぱち、キングがこの日初めてほんとにうまいことを言ったもんでね。

「はっきり[#「はっきり」に傍点]した、やったのはおまえぞ、もちろん。」とクイーン。「では首をちょ……」

「そんなの何もはっきりしてなくってよ!」とアリス。「ふん、何が書かれてあるかもわかってないのに!」

「読み上げよ。」とキング。

 白ウサギはメガネをかけてね。「キングさま、どこからお始めに?」とたずねる。

「はじめから始めよ。」とのべるキングはものものしい。「そして続けて、とうとう終わりに来たら、そこでやめよ。」

 静まりかえるおさばきの場、そのなかで白ウサギが読み上げたのは次のポエム――

あいつらの話じゃ あの女のところで
おれのことを あの男にしゃべったそうだな
あの女はおれを いいやつと言ったが
おれは泳げないと 言いくさる

あの男があいつらに、 おまえはでかけて
ないと伝えたぞ(おれたちにもたしかなことだ)
あの女がことを おし進めたら
おまえはいったい どうなるやら

おれ→あの女は1 やつら→あの男は2
おまえ→おれたちは3 いやもっとだ
あいつらみんなもどる あの男→おれへ
もともとそいつらは おれのものだったがな

まんがいち おれとあの女が
この件《けん》に まきこまれでもしたら
あの男はおまえに やつらのあつかいをまかす
おれたちのときと まったく同じだ

おれが思うに それまでおまえは
(あの女が かっかするまでは)
出しゃばって じゃまするつもりだったんだろ
あの男と おれらとそれのあいだを

あの男にはもらすなよ あの女の1番びいきが
あいつらだって だってそりゃあ
ひみつに決まってる だれにも言うなよ
おまえとおれ ふたりだけのないしょだ

「今まで聞いたなかでも、いちばんのよしありげなわけじゃぞ。」とキングは手をもみもみ、「では今こそ裁判員よ……」

「そこのだれかがこのポエムを読みとけたら、」とアリス(このほんの数分でたいへん大きくなっていたので、まったく物おじもせず口をはさんでね)、「銀貨《ぎんか》1まいあげてもよくてよ。こんなのこれっぽちの意味もないと思うけれど[#「けれど」に傍点]。」

 裁判員もみんな手持ちの黒板に書きとめてね、「こんなのこれっぽちの意味もないと思うと女[#「と女」に傍点]。」ところがそのうちのだれもその紙を読みとこうとはしない。

「もし意味がないのだとすれば、」とキング、「すさまじく手間がはぶけるぞ、ほれ、何も探らんでよくなるからの。それにわしもわからん。」と続けて、ひざ上にそのポエムを広げ、片目でじっと見てみるも、「どうにも何かしらの意味はありそうじゃ、やはり。『……おれは泳げないと言いくさる……』おまえは泳げないのだったな。」と言葉をついで、ジャックに顔を向ける。

 ジャックは悲しげにかぶりをふって。「見ての通りですよ。」と返事。(たしかにできそうにない[#「ない」に傍点]、まったくの厚紙《あつがみ》だからね。)

「ここまではよろしい。」とキング、そしてひとりごとみたくぶつぶつそのポエムを読んでいく。「『おれたちにもたしかなことだ』――これはもちろん裁判員のことじゃな――『あの女がことをおし進めたら』――これはクイーンのことにちがいない――『おまえはいったいどうなるやら』――おお、まったくだ!――『おれ→あの女は1 やつら→あの男は2』――ほほう、こうしてやつはパイをよろしくしたわけか、ほれ……」

「でも続きに『あいつらみんなもどる あの男→おれへ』って。」とアリス。

「うむ、だからそこにある!」とキングはしたり顔でテーブルのタルトを指さす。「これ[#「これ」に傍点]ほど明らかなことはないとも。そののちまた――『あの女がかっかするまでは』――おまえや、かっか[#「かっか」に傍点]したことなどないじゃろ?」と言葉をクイーンへ向ける。

「ない!」と言いながらもクイーンはとちくるってインクびんをトカゲに投げつけてね。(とんだ目にあったビルくん、黒板から指で書くのをやめていてね、何も書けないと気づいたからなんだけど、でもこうなってあわててまた取りかかって、顔からしたたるインクを使ってとうとう使い切った。)

「まあ『かっか[#「かっか」に傍点]』というよりは『へいか』じゃしのう。」とキングはおさばきの場を見回しつつ、にやり。あたりは死んだようにしーん。

「だじゃれじゃ!」と続けてキングはむすっとすると、みんな大笑い。▼

「さて▲これよりたしかめる→裁判員よ、おさばきの話し合いだ▼。」とキング▲→は言うんだけど▼▲「そののち言いわたす。」→これこの日でもう20回目くらいにはなるかな。▼

「いいえっ!」とクイーン、「言いわたすのが先▲、たしかめるの→――話し合い▼は後《あと》!」

▲→がらくたの▼すっからかん!」と▲さけぶ→▼アリス▲、あまり→▼の大声▲にみんなとび上がる→▼、「言いわたすのが先だなんて!」

「だまらっしゃい!」と▲→血相《けっそう》を変える▼クイーン。

「だまらない!」とアリス▲、→。
(改行)
▲→「このむすめの首をちょん切れ!」とクイーンがありったけの裏声をはる。

「だれが言うこと[#「言うこと」に傍点]聞いて?」とアリス(このときまでに元々の背たけになっていてね)。▼「あんたたちみたいなただのトランプ!▲ だれが言うこと聞いて?→▼

せつな、トランプがいっせいにおどり上がり、空からふりそそいでくる。きゃッと、びくつ▲いたあと→き半分、むかつき半分で▼打ちはらおうとしたら、気づけばもとの木かげ、お姉さまにひざまくら、木から頭▲へ→に▼ひらひら落ちかかっていた▲→かれ▼▲っぱ→▼をやさしく取りはらってくれていて。

「起きて▲! →、▼アリスちゃん。」とお姉さま、「▲ほんと→もう、▼長々としたお昼ねだこと。」

「ねえ、あたくしもう、へんってこなゆめ見てたの!」とアリスはお姉さまに自分▲の地底めぐり→がおぼえているかぎり▼のことを、▲→自分のとっぴなめぐり歩きを、▼ここまで読んできた通りぜんぶおしゃべり、終わるとお姉さまはキスをしてくれてね、こう言うんだ。「へんてこなゆめだった[#「だった」に傍点]のね、ほんと▲! →。▼でもすぐにお茶へかけ足しないと▲。→、▼このままだとちこくよ。」▲(改行) →▼というわけで、アリスは▲→起き上がって▼かけ足、走りながら心のなかは▲(→、▼そりゃやっぱり▲)→▼、これまでのふしぎなゆめのことでいっぱい。

▲――――――――――――――――――→▼

ところがお姉さまは▲その場にしばらく→妹がはなれていった▼あと▲まで→もじっと▼すわったまま、▲→ほおづえをついて▼夕ぐれをながめながら、小さなアリスと▲地底→ふしぎ▼めぐりの▲こと→道行き▼を考えているうち、今度は自分もうつらうつらゆめを見始めてね、そのゆめっていうのはこう▲。→――▼

▲目の前には大むかしの大きな街、そのそばを原っぱぞいに川がそよそようねうね、その流れをゆっくり静かにさかのぼっていくボートには、楽しそうな子どもたちの集まり――聞こえてくるおしゃべり、水面《みなも》にかかる音楽のような笑い声――そのなかにはもうひとり小さなアリスがいて、きらきら目をかがやかせながら語られるお話に耳をかたむけていて、自分もそのお話の言葉に耳をすませてみると、なんと! それは妹のゆめそっくりそのまま、さあボートはゆっくり進む、きらきら夏の日の下、楽しげに乗る一行とおしゃべり・笑い声の調べを連れて、やがてうねる川のどこかを曲がると、何も見えなくなる。→▼

▲→はじめにゆめ見るのは、その小さなアリスのこと。何度となく小さなお手々をこちらのひざの上でにぎりながら、さらにきらきらわくわく上目づかいでのぞきこんでくる――聞こえるのはあのいつもの声音、目に入るのは頭をつんと上げるあのけったいなくせ、いつも毛がちらかってどうしても[#「どうしても」に傍点]目に入ってしまうからってそうやって元にもどそうとするんだ――そしてじっと耳をかたむける、たぶんかたむけるうちに、そのまわりのあちこちが、小さな妹のゆめのなかのとっぴな生き物でにぎやかになってくる。

 長い草が足下でがさごそ、白ウサギがあわててかけてゆく――びくびくネズミがばしゃばしゃ、そばの池を進んでいて――聞こえてくるティーカップのかちゃかちゃ、ヤヨイウサギとなかまたちは、いっしょにいつまでも終わらないお茶会中、そのあとクイーンがきぃきぃ声でかわいそうに来たひとみんなへ処けいを言いつけて――またもやブタの赤ちゃんが御前さまのおひざでくしゅん、そこへ大皿小皿ががちゃんばりん――ふたたびグリフォンの鳴き声、トカゲの黒板チョークのきーきー、さらに取りおさえられたモルモットのもがく声があたりにひびき、そこへかなたからまじり合うあわれなウミガメフーミのさめざめ。

 そこでこしを下ろして、ひとみをとじると、もう半《なか》ばふしぎの国にいるようで、目をいまひとたび開けてしまえば、つまらない現実《うつつ》にみんな変わってしまうとわかっているのに――草はきっと風でかさかさしてるだけで、池がそよぐ草に波を立てているだけで――ティーカップのかちゃかちゃは羊につけられた鈴の音に、クイーンのきぃきぃ声も羊かいの男の子のさけび声に――さらに赤ちゃんのくしゃみ、グリフォンの鳴き声、そのほかけったいな物音だってみんな(わかってる)、きっとせわしない牧場《まきば》のごちゃごちゃがやがやに――それから、遠くから聞こえる牛のモーモーに、ウミガメフーミのなみだ声も入れ変わってしまうだけなのに。▼

▲そうして(いわばゆめのなかのゆめとして)→最後にひとり▼思い▲うかべる→えがく▼のは、この当の小さい▲アリス→妹▼がこれから先、ひとりの女に育っていくさま。大人にふくらんでいくなかでも▲→ずっと▼、子どものころの、すなおなあたたかい心を持ち続けていくのか。そして、だれかの子どもを▲まわり→そば▼に集め、たくさん▲ふしぎ→とっぴ▼な話をしては、その子たち[#「その子たち」に傍点]の目をきらきらかがやかせるのだろうか。その話は、遠い昔▲に小さなアリスがめぐったお話→のふしぎの国のゆめ▼そのものだったり? すなおに悲しむその子たちのそばで、自分もと、すなおにはしゃぐその子たちにかこまれ、楽しかったと気づくのかな、自分の子ども時代の思い出、あの幸せな夏の日々に。


第12回訳者コメント

■裁判続き。あれだけ加筆しておいてその終わりが「だじゃれ」だという。でも、流れでうまくつなぐのは確かに難しいから、いったん「だじゃれ」でばっさり切ってから「さて」とつなげるのは、加筆の末尾処理としてはすごくわかる。

■”behead”や”off with one’s head”、あと”cut off one’s head”に”take off one’s head”から”chop one’s head”まで(それから”execute”もか)、色々ある言葉を訳し分けていたつもりだったのですが、ここに来て結構ぐちゃぐちゃになっていたことに気づいたので、このタイミングでやり直してます。blog版にはさかのぼって反映できてませんが、のちのち出るはずの完成版ではちゃんと整理された訳文になるはず。

■意味のないものに、無理矢理意味を付与していって罪をなすりつけていく、という過程なんですが、ジャックが本当に犯人かどうかはちょっと議論もあります。ジャックが冤罪だとも読めるけど、そもそもなぜ(確かめる前から)宛名がないことを知ってるのか、ってとこがあやしいみたいで。でもいずれにせよ手続きが間違ってるんだから犯人かどうか以前の問題だろ、ということでもあるんですよね。このあたりは一面的にならないよう「ちゃんと」ややこしく作ってある、と。

■最後のあたりの、「私的な思い出の振り返り」→「作品全体の要約と構造の確認」の書き換えは、かなり巧妙。前回のコメントにも書いたような、個人→社会人というか、贈り物→作品の変化がものすごく顕著。それでいて、「不思議」のこのまとめ方は、アカデミックライティングをしてる人らしい書き方でもありますよね。単なる夢落ちじゃないっていう種明かしにもなってますし。そして「思い出」は巻頭詩として、作品本体から外に出しているところも注目すべき操作かも。

■「ふしぎ」→「とっぴ」は、この部分が外から見た客観的な話だから外して、「めぐった話」→「ふしぎの国のゆめ」のところでは「ふしぎ」という言葉を使うのは、こっちが主観の話だからでしょうね。全体的にも結構、主客の問題は整理している感じ。あと「その場にじっと」→「妹がはなれた」とか、「アリス」→「妹」とか、視点の問題としても、少なくとも最後のところは、「地底」では姉という登場人物にプライヴェートな同一視をしていたのが、「不思議」では彼女に少し距離を取ったような推敲になっているのでは。無邪気さへの郷愁から、想像力のお話になってますよね。作品性が大きく変わっている点。

■ともかくも、(ミュージカル版から考えれば2009年4月からなので)長かった翻訳もいったん一区切り。何が大変だったかと言えばキャロルの役作り(訳作りではなく)。役者が演じるキャラの役作りをするように、私も(役者でもあったので)作家に合わせて役作りをするんですが、とんでもない縛りが多くてそれなりに苦労したかも。年齢とか私生活とか職業とか、色々ありますが、そこはひとつ翻訳家の秘密ということで。

■あとは「不思議」完成版テクスト(詩とかはミュージカル上演で使ったものに差し替えようかな)の青空文庫公開までしばしお待ちを。連載にお付き合いどうもありがとうございました。


おまけ

■最後のおまけは、キャロルの後書き。ほんとはこの後書き、訳書には入っていてほしいものなんですが、拾われないことが多いみたい。訳し終わったあとだと、とても愛着が。キャロルの人となりが素直に出てる文です。

「アリスはふしぎの国で」を読んでくれた子どものみなさんへ

子どものみなみなさま

クリスマスなら、すっからかんな本の終わりでも、少々まじめなことを書いたってきっと場ちがいではないでしょう――ぼくは、「アリスはふしぎの国で」を読んでくれた何千もの子どもたちに、この場をかりてお礼を言いたいのです。みんな、ぼくの夢の子ちゃんを心から面白がってくれたんですもの。

それこそ英国のいくつもの家庭で、幸せそうな顔であの子にようこそとほほえんでくれたこと、それからあの子が英国のいく人もの子どもたちに(きっと)むじゃきで楽しい時間をもたらしてくれたこと、そのことを考えるだけで、ぼくは生きててよかったと心から思います。今でもぼくには、顔も名前もわかる小さなお友だちがおおぜいいますが――この「アリス」を通じて、顔も知らない子どもたちとも、さらにたくさんたくさんお友だちになれたような気がしてならないのです。

知ってる子にも、知らない子にも、ぼくの小さなお友だちみんなに、心の底から申し上げます、「メリー・クリスマス、ハッピー・ニュー・イヤー!」みなさんに主のごかごがありますように、そしてめぐるそのたびごとにいつもクリスマスがどんどん明るくすてきなものになっていきますように――その目には見えない友(かつては地上にて子どもたちを守ってくださった方)がおそばで明るく照らしてくださいますように――ほんとのほんとの幸せ、それだけが本当に持つねうちもある、ほかの人まで幸せにしちゃうような幸せを探して見つけたんだっていう、愛にあふれた人生のすてきな思い出がありますように!

きみの親友
ルイス・キャロル
クリスマス 1871年


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