お昼にはよく納豆そばを作って食べる。ふつうに売っている乾麺を使うので季節は問わないアバウトなもの。ちょっと早めに茹で上げた冷たいそばの上にきゅうりの千切り、その上に納豆、その上にねぎ、と重ねて入れ、そばつゆをかけまわすだけのもの。卵を入れるひともいるがわたしは入れないほうが好き。
そんな納豆そばのことを山形育ちの友人に話したら、彼の地では納豆はうどんとともに食べるもので、蕎麦はちがう、と言われた。
春の山菜のころ、宮城県と山形県を分つ奥羽山脈の山のなか、山形よりにある小さな村をたずねたことがある。おばあさんにくっついて山菜をとり、保存法もおしえてもらった。ともかく採集したらその日のうちに保存のための処理をしてしまわなければならない。その鉄則のため夕暮れどきはいそがしいのだが、食べなくては処理のための労働にさしつかえる。そこで明るいうちに庭にあるかんたんなかまどに羽釜をかけてお湯をわかし、乾麺をゆでるだけの「ひっぱりうどん」がはじまるのだった。
たれはふたつ。ひとつは納豆+ねぎ+醤油、ひとつは味噌+マヨネーズ+ねぎ。ねぎを切るだけの手間で、熱いうどんをからめて食べるとふしぎにおいしい。味噌とマヨネーズはおばあさんのオリジナルでおどろきのおいしさだ。
家でも冬にはよく釜揚げうどんを食べる。ゆであがったうどんを鍋ごと食卓に出して、おのおの麺つゆにつけて食べる。鍋の中はうどんだけなので、べつにおかずを用意していたのだが、あるとき思いついて、うどんといっしょに野菜などもゆでてみた。そしたらいけるんですね。
色や香りのたちすぎるものは避けて、たとえば薄く切った大根、しいたけ、白菜、豆腐、ねぎ、しょうが、などをうどんの出来上がり時間から逆算して、ちょうどよく煮えるように入れていき、最後に水菜をぱっと投じたら火をとめる。うどんの塩味がほんのりきいているせいだろうか、うまく煮える。ねぎやしょうががすでに入っているので薬味は七味があればじゅうぶんだ。
ほかにおかずはいらないという観点からは引き算かもしれないが、鍋の中をのぞけば足し算にも思える。どちらにしても、かんたんでバランスがとれている。唯一の難点はおいしくてつい食べ過ぎてしまうこと。
「青空文庫」のなかで、うどんをよく食べているのは織田作之助など西の方の作家たち。なかでも林芙美子と種田山頭火の作品には多く登場する。あたたかいうどんはおなかを満たす放浪の友だったのかもしれません。
かたや納豆は東の人の好きなもの。
「私は、筋子(すじこ)に味の素の雪きらきら降らせ、納豆(なっとう)に、青のり、と、からし、添えて在れば、他には何も不足なかった。」(太宰治「HUMAN LOST」 )
もちろん朝ごはんです。
「納豆の糸のような雨がしきりなしに、それと同じ色の不透明な海に降った。」(小林多喜二 蟹工船 )というのに行き当たった。納豆もこうした風景になると、奇妙なおいしさに反比例するかのように、存分に厳しい。
田んぼの水面に鳥影が走る。はっとして空を見上げると鳥は見えなかったが、一箇所白い雲が丸く抜け落ちていた。五月も半ばのいつもの風景の中、私はバスを一人待つ。
平日の昼のバスは、乗客も少ない。ゆったりと揺られ、見慣れた景色が後ろへと流れる。ぼんやりとした時間が十五分も経つと繁華街へ着く。
気温が二十度を越すと言っていたテレビの天気予報士の顔が浮かんだ。ブラウスではなく襟なしのものを着てくればよかったと少し後悔した。汗を拭いて、デパートへ入っても涼しくはない。
手際よく買い物を済ましてアーケード街へ出た。車での生活が主となり、郊外の大型店は繁盛し、古いタイプの繁華街は、人もまばら。両側あわせて三十件ほどの店舗には、「貸し店舗」の張り紙や、「閉店セール」の赤い紙が目に付く。いくつも細い通りがあるのだが、そこもまた同じだろう。
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校正に手が出しにくい理由の一つとして、間違いを拾いきれる自信がない、ということがあげられる。そうでなくとも、文字を間違いを拾うには訓練が必要と思われているようでもある。そんな懸念をなくす、または減らす為に、一つ機械を使った校正の方法を紹介したい。 (more…)
■XHTML版4月度アクセス増率ランキング
’12/04のXHTML版のアクセスランキングでの話題は、なんと言っても、ランキング1位の芥川竜之介「谷崎潤一郎氏」が66,362というアクセス数を得たことだった。1作品がこのようなアクセス数を得た初めてのようだ。
アクセス増率でも、順位こそ5位だが、アクセス増率27783%(今月から%表示にした)と新規公開作品の上位と同等の値を示している。3月はランク外なので、ここでは501位として、アクセス数が238あったこととして計算しているが、先月のアクセス数が174以下であれば、TOPだったということになる。
芥川竜之介「谷崎潤一郎氏」のこの突然のアクセス増は、Ceron.jpやはてなブックマークで話題になったためと推測されます。Ceron.jp やはてなブックマーク からはXHTML版が直接アクセスされるようになっているので、それが積もり積もって、6万を超すアクセスになったと思われる。ちなみに、テキスト版での4月度のアクセス数は195だった。
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早稲田松竹でテオ・アンゲロプロス監督の追悼上映が行われている。5月5日から1週間は『旅芸人の記録』。早速、観に行く。一人で一番前の席に腰をかけて、画面に見入る。初めてこの映画を見たのは高校生の頃。キネマ旬報に書いてあった数十年に1本の傑作という言葉に惹かれて観に行った。
わからなかった。ギリシャのことも世界の歴史についても疎かった私にはストーリーも、アンゲロプロスが伝えたいこともわからず、なんどもウトウトとしながら必死で4時間耐えていた。
見終わって、あまりのわからなさに、もう一度続けてみた。当時は指定席入れ替え制ではなかったので、そういう見方が出来た。というわけで、もう一度見た。また分からなかった。眠るとか眠らないとかいう以前に、この作品を理解するだけの下地がないのだと思い知らされた。
あれから30年以上。やっとスクリーンで再会した『旅芸人の記録』はとても面白い映画だった。この映画が面白いといと感じられただけで、「ああ、少しは成長したのか」と思うことが出来た。不思議だったのは、主要な登場人物がときおりカメラ目線で語るというカットをすっかり忘れていたこと。そうか、そういうこともやる人だったのか、アンゲロプロス。とこれまた嬉しくなった。
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今晩は、月が大きいそうで。青空文庫で「月」に関する文章を探してみよう。簡単なのは「日本の名随筆58 月」から拾う事。
岩本素白「六日月」
上田敏「月」
大町桂月「月譜」
折口信夫「日本美」
川端芽舎「夏の月」
北原白秋「お月さまいくつ」
小島烏水「霧の不二、月の不二」
薄田泣菫「無学なお月様」
徳冨蘆花「良夜 ・花月の夜 」
永井荷風「町中の月」
樋口一葉「月の夜」
與謝野晶子「月二夜」
和辻哲郎「月夜の東大寺南大門」
他に「月」が印象に残っているのは、泉鏡花「歌行灯」 。場面場面にちらっと登場していて、まるで全てを見守っているようだった。
皆さんは、何か「月」が印象に残った文章がありますか?
青空文庫のアクセス数が増えていると報道されていますが、最近のアクセス・ランキング500位までの数字を見ていて、あまり変わりがないのではという感想でした。また、朝日新聞の文化面記事(’12/01/23)、 NHK Eテレビの「中高年のためのらくらくデジタル塾」での青空文庫の放映(’12/03/06)でアクセス数がUPしたかどうかを確かめることができるかどうかを見てみたかったので、ちょっと計算して、グラフに描いてみました。