小人のくつ屋さん(グリム兄弟・編/大久保ゆう・訳)
193

カテゴリー:,青空文庫 | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2017年12月24日 |

小人のくつ屋さん(グリム兄弟・編)

“Die Wichtelmänner: Erstes Märchen” by Grimm Brothers


あるところに、くつ屋さんがおりました。自分がわるいことをしたわけでもないのにとにかくお金がなくて、一足のくつを作るだけの皮しかもう残っていません。ある夜、あくる朝に仕立てようと皮を裁ち切っておきました。心根のよい人でしたから、ひそやかにベッドで横になりながら、おいのりをとなえつつ、ねむりに落ちます。朝になって、おいのりしたあとで、さて仕事に取りかかろうとすると、気づけば一足のくつはとうに仕上がり出来上がっていて、つくえにちょこなんと立てられているのです。びっくりたまげたその人は何とも言えずに、間近に見てみようと、くつを手に取りました。すばらしい出来のくつで、ぬい目も寸分まちがいなく、まるで、たくみの手になるもののよう。まもなく、お客さんがやってきましたが、もう大まんぞくでしたので、よけいにお金を支払ってくれました。つまり今度は二足分のくつが作れるほどの皮が買えたわけです。そして夜になって、あくる朝、気持ちも新たに仕立てようと皮を裁ち切っておきました。ところがその手はかからずじまい。というのも、起きたときにはもう出来上がっていたからで、お客さんにとっても申し分なし、お金がたんまりふところに入って、次には四足分のくつが作れるだけの皮があがなえました。さらにあくる朝早くには、仕上がった四足のくつ、こんな調子がどんどん続いていきます。夜に裁ち切っておけば、朝には勝手に出来上がっていて。たちまち暮らしも立つようになり、とうとうお金もちになりました。クリスマスも近いある夜、皮も裁ち終わったくつ屋さんは、ベッドに入る前におくさんに言いました。「今夜ためしに寝ずの番をして、どなたが手助けしてくれているのか、たしかめてみるのはどうかね。」おくさんもうなずいて、明かりもつけておくことにしました。部屋のすみにひそんで、自分たちの前には服をかけておいて、そこからのぞきみるのです。すると夜がふけたころ、目にとびこんできたのは、ふたりの小人さん、服は何も着ておらず、くつ屋さんの仕事づくえの前にじん取ると、したくずみの仕事に取りかかり、まずはぬって、ちくちくとんとん、小さな指でたくみにすばやく、くつ屋さんも目をはなせず、どぎもをぬかれてしまいました。手を止めないまま、やがて出来上がると、つくえの上にちょこなんと立てて、ぴょんととびおりて走りさっていきます。

あくる朝、おくさんがくつ屋さんに言うには、「あの小人さんたちが、わたしたちをお金もちにしたのですから、お礼をしなくちゃなりませんよ。走り回っているのに、何も身につけるものがありませんから、寒そうでかないません。よろしいですか、ちいさな下着に、上着に、それからチョッキとズボンをぬいますよ。それに一足ずつ、くつ下もぬいますから、あなたはそれぞれに、くつを一足、作ってあげなさいな。」だんなさんも、ぜひにということで、その夜、仕事をやり終えると、裁ち切った皮のかわりに、心づくしのおくりものを、つくえにそろえておいて、小人たちがどうふるまうのか、見とどけることにしました。夜もふけて、とびこんできた小人さんたちが、さあ仕事と思ったところ、見つかるのは皮のきれではなく、ぴったり体に合った小ぎれいなおめしもの。小人もびっくり立ちすくみましたが、たちまちうれしくなってためしてみます。そわそわどたばた、すてきなおめしものを手に取って着こむと、歌をうたってくれました。

さ ぼくらも おしゃれさん!
もう くつ屋は にあわない!

 そして小人さんたちは、足ぶみしながらおどり回り、いすにつくえにとびはねて、とうとう戸口からおどり出ていきました。そのとき以来、小人さんたちは出てこなくなりましたが、生きているあいだ、くつ屋さんは何でもうまく行きましたし、やることもみんな大せいこうでした。


訳者コメント

■本来は、「魔人(妖精)たち」という題でくくられた3つのお話の、はじめのひとつ。例によって、初版と後の版でかなりの異同がありますが、今回は一応、最終版から。

■実は、クリスマスに報われるのは、小人さんたちなんですよね。ほんわか。


1件のコメント »

  1. 素晴らしいお話、心が温まりました。
    世の中、このように皆が幸福になれるはずなのでしょうね。
    素直で穏やかで、人の思いを受け入れる人たちがふえれば、住みよい世界になるのにと願わずにいられません。
    そんな思いを湧きあがらせる、温かいお話を読ませていただきました。
    どうもありがとうございました。

    Comment by 齋藤修一 — 2018年1月6日 @ 11:11 PM

RSS feed for comments on this post. TrackBack URI

Leave a comment

This work is licensed under a Creative Commons Attribution-Noncommercial-Share Alike 3.0 Unported License.
(c) 2024 aozorablog | powered by WordPress with Barecity