青空文庫/朗読・音声化入門ガイド
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カテゴリー:WEB,電子書籍,青空文庫 | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2012年3月20日 |

以前よりも声のお仕事への注目が高まり、また福祉への関心が大きくなりつつある昨今、朗読をはじめとした文章の音声化作業に対しての人気が上がりつつあるようです。twitterでもつい最近そういった盛り上がりがあったみたいで。

私も様々なご縁から(上記の両面から)そういった作業へ関わるようになり、今ではそれをひとつの生業としているのですから、まったく不思議なものなのですが、業界関係者らの認識としては、その人気の一方で細々としたノウハウがさほど共有されていない、というのがただいまのネット上での現状であります。基本的には青空文庫の朗読などは細かいことを気にせず自由にじゃんじゃんやっていただければいいと思うのですが、それでもこれからやるにあたって「ああどうしたらいいのかな、どうやったらうまくできるのかな」とお思いの方もおられるかと思いますので、不肖わたくしがここでメモの筆でも執ってみようと思うのです。

 

1.朗読って何ですか、音訳って何ですか。

音声化された青空文庫リンク集-[補足]朗読と音訳の違い

この(最近補修をさぼっている)ページの下の方に、10年ほど前に私が残したメモ書きがあります。たぶん、今でもそこそこ役に立つことなのではないかと手前味噌ながら思うのですが、ちょっと引用。

音訳というのは、墨字の本の読めない視覚障害者が、本の内容を理解することが出来るように、できるだけ、恣意的な感情や解釈を排除しながら、本の内容を音声化して録音することを言います。なぜ感情や解釈を排除しなければならないかというと、目の見える人が墨字の本を読むときには、 自分なりの解釈をしながら読みます。しかし録音するときに音訳者が最初からこれを込めてしまうと、録音された本を聞くときに、自分なりの本の楽しみ方が奪われてしまうことになりかねないからです。つまり、視覚障害者の目の代わりをするということです。昔はこれを人の手によって行っていましたが、今は機械読み上げによるものも現れてきています。

朗読というのは、音訳とはそもそもの始まりが違っています。音訳は視覚障害者のためにはじまりましたが、朗読はそうではなく、いかに本の内容を感情豊かに伝えるか、ということが重要となってきます。つまり、声を出して本を読む、という行為そのものから始まっていると言えます。美しく情感深く読むこと、それが中心なのです。だから、何を読むか、を伝える音訳と、いかに読むか、を伝える朗読は、ちょっと違うようで、大きく違っているのです。

(※墨字(すみじ) 目で認識できる筆記文字もしくは印刷文字のこと。点字と区別されるときに用いる。)

よく「目の見えない人のために声の本を作る」となったとき、「じゃあ心を込めた朗読だ!」と早合点される方も多いのですが、必ずしもそういうわけではありません。これは私の経験からも言えるのですが、「本を読むときに他人の感情を押しつけられたくない」という方もいらっしゃるのです。またそれだけではなく、「朗読はスピードが遅すぎる」という不満を耳にしたこともあります。

これはたとえば、目の見える人なら自分が本を読むときどれくらいのスピードなのか思い出していただければよいのですが、たいていの人は声を出して読むよりも、黙読の方が早いはずです。人が本を読むスピードがそれくらいだとすれば、人に読んでもらうときにもそれくらいのスピードを欲したとしても、おかしくはないでしょう。この3倍、4倍速いほうがいい、などなど。

そうすると、このふたつを問題意識として持つ人にとっては、人の朗読よりもコンピュータの読み上げの方が、感情もないしスピードは自由自在、たとえ読みが間違っていたとしても満足度が高くなって不思議はありません。ただし難点としてはコンピュータを活用するためテキストがデータ化されていないとどうしようもなく、そこで人が音訳する需要が生まれるというわけです。(むろん同時に「間違いのない」音訳も、まだまだ人の手で作る必要あり。)

しかしその一方で、間違いなく朗読や声のエンタメの需要はあります。むろん晴眼(目の見える)ユーザだけでなく、目の見えない方からも「お金を出して買ってもいいと思えるハイクオリティのオーディオエンタテイメントが欲しい」という言葉は多々上がっているのです。その代用として「アニメの音声だけ聞く」ことを愉しみにしていらっしゃる方もおられますが、私個人の生業としては、そういった耳の娯楽を作り出す方へと向かっております。(そうして関わっているのが、パンローリングさんやふぁんた時間さんだったり致します。)

そういった違いを意識した上で、自分の読む方向・目指す方向(どういう形で相手に愉しんでもらうのか)をいうものを決めると、できるものも引き締まってくるかと存じます。

 

2.どうやって録音すればいいのですか。

これについては、私よりもお詳しい方の解説サイトがたくさんございます。とりわけ朗読に限った詳細なものをリンクすると、以下になります。

そのほか、 動画作成や「歌ってみた」などの録音ガイドも参考になるかもしれません。初心者向けのものは、こちら。

 

3.読む技術を高めるためには何をすればいいのですか。

むろん技術を高めるためには、練習が必要です。勘のいい人でしたらやみくもにやっても上手くなっていくのですが、やっぱり誰かに教えてもらったり、誰かと競ってみたり、あるいは自分でちゃんと勉強することも大事なわけです。

もちろん演技やお芝居の技術を磨くことも大事で、その重要性は何かしら声でなにかをしようという人には当たり前のようにご存じのことと思われますが、しかしながら朗読・音訳の場合、もっとごくシンプルに「そこにある文章を読む」という基礎的な技が必要になって参ります。

息継ぎの仕方、ノドや舌・口の使い方、文章にあるリズムのとらえ・作り方、台本・原稿を効果的に追っていく方法などなど、こういったことは各地で行われている朗読・音訳の講習(あるいは専門学校・部活動)で実地に学ぶこともできますが、みんながみんなそういったところへ有料・無料問わず行けるわけではないでしょうから、自学しなければならないこともあるかと存じます。

ところがその自学のための(懇切丁寧な!)良質のテキストは、これまでなかなかなかったのが現状でした。そこへ最近、日本朗読検定協会とオーディオブック制作のパンローリングの結託により、文科省の学習指導要領に準拠した画期的な『朗読の教科書』(渡辺知明[著])という本が出ました。(amazon.co.jp直販サイト

私自身は、芝居や読む技術などは人から叩き込まれたり経験的に学んできたりした方なのですが、そうやって身につけてきたことがこの本には体系的にわかりやすく書いてあって、一人で頑張る人にとってはこの本が心強い先生になってくれるものだと思います。また一人で伸び悩んでいる人にも、読む際のコツが様々書かれてありますので、助けになってくれるでしょう。

 

4.どこで公表すればいいのですか。

最終的な問題になるのは、ここですよね。そもそも青空文庫本体ではデータを募集してはおりませんので、個々で発表していただくことになります。おそらく最も一般的なのはボイスブログになるかと思います。ブログサービスのなかには、自分の録音した音声も投稿できる機能がついたところもありまして、ココログSEESAAケロログなどが一般的でしょうか。比較的新しいところでは、SNS的なこえ部というサイトもございます。「自分」から何かを送りたい、とお考えの方には、こういったそれぞれの制作者の色が出るところがよろしいかと思われます。

その一方で、様々な朗読・音訳などがある種のポータルとして集約されるサイトもございます。昔からあるところでは声の花束が、様々な方の読まれた青空文庫の音声化ファイルを公開するサイトとして有名です。ほかにもエール、新しいサイトとしては青空朗読というプロジェクトが始まっております。こういったところへ提供することもひとつの選択肢としてありえます。

むろんどこかの朗読・音訳サークルに所属すれば、そのサークルのサイトで公表したり、公的な機関へ収めたりすることもできるでしょう。ニコニコ動画は、投稿数も再生数もまだまだ少ないですが、動画的演出を加えたい場合は絶好の公開場所となりましょうし、またニコニコ生放送USTREAMなどでは、リアルタイムで朗読を放送なされる方も多くいらっしゃいます。

そして録音したものを販売しても構いません(その際にも青空文庫へ許可を求める必要ありません)。個人で頒布するのもありでしょうし、これまで多くの会社から、青空文庫からの活用を明示しているものしてないもの合わせ、たくさん流通を通じて市場に出ております。そういえばいつぞやのSTUDIO VOICE付録やくしまるえつこ朗読CDにも、青空文庫のテキストが使われていたみたいですね(今は配信でも購入可)。

 

 5.おわりに

青空文庫にある著作権切れの本であれば、各自自由に読んでその音声ファイルを公開することができます。また私の翻訳のように、著作権はまだ有効でも、自由な利用を認めているものであれば、同様に音声化は自由です。

紙の本/電子の本という分け方があるように、文字の本/声の本という分け方も、昔からあります。日本では声の本はまだまだ少ないですが、もっともっと定着して広がっていくといいな、と個人的には思っております。そういう文化を創るために、この記事が何らかのお役に立てれば幸いです。

(せっかくですのでみなさま、もし「自分も青空文庫の作品を朗読したので、いろんな人に聞いてほしい!」という方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひこの記事のコメント欄をその告知にお使い下さいませ。)

14 Comments »

  1. ★ワテも縁があり、’朗読コーチング’と称するgrass-rootsレベルの市民活動をボランティアで地道にやってきました。尤も、ワテの専門?領域は、あの’金子みすゞ詩’のみで、昨年の大震災直後の民放CMで俄然有名になった、大正時代の天才童謡詩人(女流)です。

    未だ、金子みすゞ詩は、別掲(「人物について」)の如く、’現時点では、入力を控えている。」とのコメントですが、むしろ積極的に、その’関係者’(お一人?)から承諾を得て(本来それすら法的に必要がどうかーーむしろ、道義的責任か?。。。)、ココ青空文庫へ金子みすゞ詩全512編を転載し、朗読してほしい。

    ワテなんか、ご当地(居住地)にて、市営公益施設で「公開朗読コーチング会」をやってきましたよ。参加者全員で、金子みすゞ詩(当日の教材として3作事前選定)を朗読、輪読、群読します。詩により、improv式にうまく即興振付けができるのもあり、会議室狭しと朗読しながら、全員で動き回ります。もはや、’踊る宗教’(古い?!)ですかなぁ~~。

    みすゞ詩は、とても音読、朗読、輪読、群読に適していますね。もちろん、詠み会に先立ち、腹式呼吸法と発声訓練法も充分行い(ワテは、本来は英語ボイストレーナー)、その準備完了で、詩の朗読へ入ります。

    ワテ(朗読コーチ)からあえて事前に’変な’?!解釈はせず、ひたすら詩原文を’その気になって’読み上げて頂きますーーしかも何回も何回も。そして、参加者ご自分で、原作者の’詩心’?!が自ずと捉えられるよう、そんな雰囲気作りに徹するのが、ワテ:朗読コーチの役割と考えています。

    この青空文庫読者中にも、そんな金子みすゞ詩の強烈な(ワテに優るとも劣らぬ!)ファン(いや、読み手?謳い手?)が居られよう。ぜひ、金子みすゞ詩全編の’青空文庫化’を早急に実現してほしい。”みんな違って、みんないい。”(金子みすゞ) 朗読コーチNagataKiyoshi 拝

    Comment by NagataKiyoshi (辻説法士) — 2012年4月8日 @ 11:32 AM
  2. LibriVox (http://librivox.org) も紹介させて下さい。
    今、日本語のタイトルは、13本です。
    https://catalog.librivox.org/search_advanced.php?title=&author=&cat=&genre=&status=all&type=&language=Japanese&date=&reader=&bc=&mc=&action=Search
    昨年末には、8本ですから、倍増も見えてきました。
    私が読んだ5タイトルは、テキストとして、青空文庫にリンクを張らせて頂きました。
    日本語の読み手も、日本語の確認者もどんどん参加して頂きたいです。
    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年4月14日 @ 3:32 PM
  3. コメントどうもありがとうございます。

    >NagataKiyoshiさま
    金子みすゞの件に関しましては、わたくしからは何とも申し上げられませんが、将来的にどうなるかは今後の機運次第でしょうね。あるいは、底本をどこから取るかの問題とも関連してくるでしょうし、有志の方々の動きに期待したいと思います。

    >内田雅智さま
    なんと、LibriVoxでも日本語の朗読が始まっていたのですね。英語のものはたびたび拝聴させていただいておりますが、お恥ずかしながら今まで存じ上げませんでした。これからのご発展、心よりお祈り申し上げます。

    ●追記●

    せっかくですのでみなさま、もし「自分も青空文庫の作品を朗読したので、いろんな人に聞いてほしい!」という方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひこのコメント欄をその告知にお使い下さいませ。

    Comment by OKUBO Yu — 2012年4月14日 @ 9:25 PM
  4. LibriVox で、「赤いろうそくと人魚」の録音を始めます。https://forum.librivox.org/viewtopic.php?f=28&t=39424
    今は、MC (マスター コーディネーター)とDPL (プルーフ リスナー)を募っている段階です。MC と DPL が決まればいよいよプロジェクトが始まります。このリンクの進展を追えば、
    LibriVox での録音のやり方が分かって頂けると思います。4月末には完了の予定です。
    「赤いろうそくと人魚」は、漢字が少ない方にリンクを張りました。
    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年4月18日 @ 6:26 PM
  5. 赤い蝋燭と人魚のプロジェクトが完了し、カタログに登録されました。http://librivox.org/akai-rosoku-to-ningyo-by-mimei-ogawa/ 素敵なジャケットも作成して頂きました。読み手、録音の確認者、コーディネーター、CDジャケットの作成者、4人の国籍が異なるプロジェクトでした。
    続いて、豊島与志雄の、コーカサスの禿鷹、のプロジェクトが進行中です。
    LibriVox に参加しませんか。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年4月29日 @ 8:47 PM
  6. 今日になって『朗読の教科書』まで紹介して下さっているのを発見しました。
    ありがとうございます。今、Twitterで発言したところです。

    今後とも、よろしくお付き合いよろしくお願いします。

    Comment by 渡辺知明 — 2012年5月9日 @ 10:57 PM
  7. LibriVoxで行っているコーカサスの禿鷹のプロジェクトが完了し、カタログに登録されました。
    続いて、新美南吉の幼年童話のプロジェクトを始めました。25話のうち、24話は、青空文庫にリンクを貼っています。
    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年5月12日 @ 11:57 AM
  8. その後、芥川竜之介の「トロッコ」、太宰治の「待つ」をLibriVox で録音しました。今、太宰治の「グッド・バイ」が進行中です。芥川竜之介の「杜子春」は、もうじき始まります。全て、青空文庫にリンクを張らさせて頂いています。今、LibriVox の 日本語のタイトルは19になりました。
    https://catalog.librivox.org/search_advanced.php?title=&author=&cat=&genre=&status=all&type=&language=Japanese
    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年6月2日 @ 3:53 PM
  9. グッドバイが、完了し、カタログに登録されました。ようやく、とししゅん の録音も始まりました。日本語タイトルは、50を超えました。今、LibriVox 7周年のプロジェクトが進行しています。七がタイトルに入ったものを、青空文庫から、7つ選んで録音します。こうご期待。
    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年6月23日 @ 2:04 PM
  10. また LibriVox の話題です。とし春 の録音が終わり、今度は、夏目漱石の 硝子戸の中 の録音を始めます。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年7月29日 @ 4:44 PM
  11. 硝子戸の中の録音が終わり、39章すべてを、LibriVox にアップロードしました。今は、プルーフリスニングでOKが出るのを待っています。
    録音の過程で、青空文庫の誤りに、気がついたので指摘します。

    第一章の終わりの方で、
    青空文庫
    >> 米が安くなり過ぎた結果農家に金が入らないので、どこでも不景気だと零(こぼ)している。
    ちくま文庫 夏目漱石全集 10
    >> 米が安くなり過ぎた結果農家に金が入らないので、どこでも不景気だ不景気だと零(こぼ)している。

    となっています。

    次は、「永日小品」を読みます。

    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年8月25日 @ 7:53 AM
  12. 「硝子戸の中」で、もう一つ誤植が見つかりました。
     三十五 の 冒頭のあたりに、
    青空文庫では、
    >> 席数からいうと
    ですが、
    「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房 第7刷では、
    >> 度数からいうと
    になって、います。
    プルーフリスニングをしてくださった方が、見つけました。

    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年8月27日 @ 6:54 PM
  13. 「硝子戸の中」で、また一つ誤植です。
     三十八 の 冒頭のあたりに、
    青空文庫では、
    >>宅の蔵から高蒔絵(たかまきえ)の

    「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房 第7刷では、
    >>宅の蔵から高蒔絵(たかまきえ)に

    やはり、音にすると、誤植が見つかるものです。
    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年8月28日 @ 8:09 PM
  14. 青空文庫を使わせてもらっているので報告です。
    夏目漱石の「永日小品」が LibriVox にカタログされました。
    http://librivox.org/eijitsu-syohin-by-soseki-natsume/
    テキストのリンクは、青空文庫に張らせて頂きました。
    次は、やはり夏目漱石の「二百十日」を読みます。
    よろしく。

    以上。

    Comment by 内田 雅智 — 2012年10月6日 @ 9:54 AM

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