地底から不思議へ:ルイス・キャロルの加筆をたどる 第1回
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カテゴリー: | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2015年1月13日 |

【第0回へ】

【凡例】
修正:草稿→修正▼
削除:削除→▼
加筆:▲→加筆▼


▲ひとつめ→1 ひゅうんとウサギ穴へ▼

アリスはあっきあきしてきた、木かげで、お姉さまのそばですわってるのも、何もしないでいるのも――ちらちらお姉さまの読んでる本をのぞいてみても、さし絵もかけ合いもない▲から→▼▲→「なら▼本のねうち▲はどこ→って何▼▲→」▼とアリスは思う、▲→「▼さし絵もかけ合いもないなんて▲、って→▼▲→」
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だから物思いにふけるばっかり(といってもそれなり、だって日ざしぽかぽかだとぼんやりねむくなってくるし)、デイジーの花輪作りはわざわざ立ち上がって花をつむほど楽しいものなのか▲→しら▼――そこへふと▲→いきなり▼赤い目の白ウサギが1羽そばをかけぬける。

▲あまり→たいして[#「たいして」に傍点]▼目を引くようなところもないから、アリスにしてもさほど[#「さほど」に傍点]とんでもないとも感じないまま、聞こえてくるウサギのひとりごと。「お▲→よよ! ▼▲お、→およよ!▼ ちこくでおじゃる!」(あとになって思い返すと、ここでふしぎがってしかるべきという気もするけど、そのときはみんな自然きわまると思えてね)その次にウサギがチョッキのぽっけから時計を取り出し[#「チョッキのぽっけから時計を取り出し」に傍点]▲→、▼まじまじしてからかけ出したから、アリスもとびあがる、だってむねがはっとした、これまでそんなウサギ見たことない、チョッキにぽっけがあったり、時計を取り出したり、そこで▲→わくわく▼気になる▲気になる→▼、野原を▲かけて→走って▼▲後を→▼追っていくと、▲→さいわい▼ちょうど目の前でそいつはかき根の下、大きなウサギ穴にぴょんと入って。▲すぐさま→
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たちまち▼
飛びこみアリスは後を追う、またもどってこられるかなんて、ちっとも考えもせずに。

そのウサギ穴はまっすぐ続いて、まるでどこかトンネルみたい、そのあといきなり下り坂、いきなりすぎてふみとどまろうと思うまもなく▲、→▼気づいたら▲→かなり▼深いふきぬけみたいなところに落っこちていて。▲→
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穴がすごく深いのか、落ちるのがすごくゆるやかなのか、どうにもひまがありすぎて、落ちるあいだにあたりは見られる、次に▲何が起こ→はどうな▼るの▲かな→▼って思いもできる。まず下を見てみると、ゆく先はわかるけれども、暗すぎて何がなんだか。そのあと穴のぐるりを見ると、目にとまるのはぎっしりならんだ戸だなに本だな。あちらこちらに▲→見える▼画びょうでとまった地図に絵。通りがかりにたなのひとつからびんを取▲ってみる→り下ろす▼と、〈オレンジ・マーマレード〉とはられてあるのに、とてもがっかり、中身はから。とはいえ、びんを放るのはしのびない、だって下のだれかが死ぬといけないから、うまく戸だなのひとつへ通りすがりに置いておいた。

「ふふ!」とアリスは考えごと。「こうやって落ちておけば、もう階段《かいだん》転げ落ちるのなんてわけなくてよ! おうちに帰ったら、あたくしみんなの英雄《えいゆう》ね! ええ、お屋敷《やしき》の屋根から落ちたって、何も声をあげたりしないわ!」(そりゃあ▲たしかに→まあ▼そうだよね。)

ひゅうん、うん、うん。いつになったら[#「いつになったら」に傍点]落ちきるのかな。「これまでのところで、どれくらい落ちたのかしら。」と声に出してみる。「地球のまんなかあたりには来てるはずね。ええと、6400キロの深さだったかしら――」(だって▲→、▼ほら▲→、▼アリスはお勉強《べんきょう》の時間にこういったことはそれなりにかじっていたからね、今ここでひけらかしたところで、聞▲→いて▼▲→れる▼人もいないからどうしようも[#「どうしようも」に傍点]ないけど、そらんじるけいこにはなったかな。)「▲→――▼うん、それで▲→だいたい▼深さは合ってるけど▲、→――▼あと今いる▲→はずの▼▲ケイド→イド▼▲イド→ケイド▼は何▲ぞ→かしら▼?」(アリスは▲経度→緯度▼▲け→▼いど》も▲緯度→経度▼▲→け▼いど》もさっぱりだけど、今言うと格好《かっこう》がつくかなと思っただけ。)

やがてまた始めて。「まさかこのまま地球をまっすぐつきぬけて[#「つきぬけて」に傍点]? 面白いわ、行きつく先の方々は頭を下にして歩いてるって▲こと→わけ▼ね! ▲→たんはい[#「たんはい」に傍点]人ね、たぶん――」(聞いてる人がいなくてちょうど[#「ちょうど」に傍点]よかったかも、このとき、言葉づかいがまちがっていたからね)「――▼でもちゃんとお国のお名前何ですかっておうかがいしないと、ねえ。どうも、おくさま、ここはニュージーランド、それともオーストラリア?」▲――→(▼と言いながら左足を引いてひざを曲げようとしたんだけど▲(→――▼空中でこんなふうにスカートつまむところ[#「こんなふうにスカートつまむところ」に傍点]思いえがける? できると思う?)「そうしたら物をたずねたあたくしが、なんて物知らずの小娘って思われてよ! だめ、聞けない。でももしかしたらどこかに書いてあるのが見つかるかも。」

ぴゅうん、うん、うん。ほかにやることもなくて、またすぐにアリスはしゃべりだす。「ダイナ、あたくしがいなくて、今晩《こんばん》はきっとさみしがっていてよ!」(ダイナはネコのこと。)「みんなお茶の時間にミルク出すのわすれてないといいけれど▲!→。▼▲ああ、→▼ダイナちゃん▲→! ▼▲ここに連れてこれば→いっしょに落ちてくれたらよかった▲→のに▼! 空中にネズミはいなさそうだけど、コウモリならとれるかも、だってほら似ててよ、ネズミと。でもネコってコウモリ食べるのかしら。」ここでアリスはちょっとねむたくなってきて、うつらうつらしながら▲→そのまま▼ひとりごと▲を続ける→▼。「ネーコってコーモリ食べる? ネーコって、コーモリ、食べる?」そのうちどっちがどっち食べるのかわからなくなって。まあ▲→ほら▼どちらにしても答えはわからないから、どっちになっても大して変わりないけど。うとうと気分になると、ちょうど始まるゆめのなかではダイナと手をつないでおさんぽの場面、そこでにらんで言うんだ、「いいこと、ダイナ▲ちゃん→▼、はっきりお言い。あなたコウモリ食べたことあって?」そのときいきなり、ど▲すん→さっ▼! ど▲っすん→ささっ▼! とつっこんだのが枝に▲木切れ→かれ葉▼の山で、落っこちるのおしまい。

アリスにけがはちっともなくて、ぴょ▲ん→い▼▲そのまま→すぐさま▼まっすぐ立てる。見上げてみても、頭の上はまっくらやみ。前にはまた長い道があって、白ウサギがまだ見えるところにいて、かけ足で進んでいく。ぐずぐずしてるひまなんてない。走り出すアリスは風のよう、ちょうど▲→ぎりぎり▼向こうが角を曲がるところでこんな声が。「▲→おお▼ぴょんぬるかな、もう大ちこくでおじゃる!」▲→すぐあとに▼続いてこっちも角を回▲ると→ったはずなのに▼▲→ウサギのすがたはもうあたりになくて。▼気づけば天井低めの大広間、その天井からずらりとぶらさがったランプで照らされてて。

まわりにぐるりとドアがならんでいたのに、どれもみんな鍵《かぎ》がかかってて、だからアリスは▲ぐるりと回って→えんえんあっちにこっちに▼▲みんな→ぜんぶドアを▼試したあと、とぼとぼとまんなかに歩いていってね、どうやったらまたお外に出られるんだろうって。▲→
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するとふとそこへ出てきた3本足の小さなテーブル、ぜんぶまるまるガラスでできていて、なんとその上にはただひとつ、ちっちゃな金の鍵、そこでアリスがまずひらめいたのが、この広間のドアのどれかに合うんじゃないかってこと▲、→。▼なのに何たること! 穴が大きすぎるか鍵が小さすぎるか、とにかく▲開くものはひとつも→何にも開か▼ない。ところがもう1度回ってみると、▲→前には気付かなかったけれど、▼ちんまりカーテンのかかっているところ▲があって→にばったり▼、そのうらには高さ▲46→40▼センチくらいのドアが。で、ちっちゃな▲→金の▼▲をその鍵穴《かぎあな》に→で合わないか▼試してみると、▲→とってもうれしいことに▼ぴったり!▲→
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▲→アリスが▼ドアを開け▲てアリスが、→ると▼ネズミ穴と同じくらいの小さな通り口▲を→が続いていて、▼しゃがんでのぞいてみると、向こうには見たこともないきれいなお庭が。もうその暗い広間から飛び出して、明るいお花畑とひんやり泉《いずみ》のあたりを歩き回りたくてしかたがないのに、そのドアは頭も通らなくって。「頭だけが▲→[#「だけが」に傍点]▼向こうに出ても、」とかわいそうにアリスは考えごと。「肩《かた》がぬけな▲き→くち▼ゃどうしようもなくてよ。はあ、望遠鏡《ぼうえんきょう》みたく身体をたためればどんなにいいか! 始め方さえわかれば、たぶんできるのに。」というのも、ほら、ここずっととんでもないことばかり起こってたから、アリスはほんとにできないことなんて、▲→もう▼実はほとんどないじゃないかって気になってきてたんだ。

▲ほかにやることもなかった→ドアの前でぼーっとしててもしかたないみたいだ▼から、テーブルのところに引き返して、もうひとつ鍵でも、いやせめて身体のたたみ方の本でも見つからないかなと思ってたんだけど、今度▲→見ると▼テーブルに▲出てきたの→▼は小びん▲でね――→が(▼「さっきまでぜったいなかったのに」ってアリスは言って▲――→)▼びんの首に▲→は▼くるっと▲むすんであったのが→▼紙切れ▲で→▼、そこに〈ノンデ〉って文字がカタカナできれいに印刷《いんさつ》してあって。

「ノンデ」っていうのはたいへんけっこう、▲「→▼でも▲→お利口さんのアリスはあわててそんなこと[#「そんなこと」に傍点]したりし▼▲→せん。「だめ、ま▼ずたしかめること。」って言う▲アリスちゃんはお利口さん。→、▼▲→その▼びんに〈毒〉の印《しるし》があるかないか見てみないと。」だって▲アリスは→▼そういう小話をそれなりに読んだことがあっ▲た→て▼、そこでは子どもがやけどしたり、けだものに食べられたり、そのほかひどい目に合うのだけど、どれもお友だちの▲さずけ→教え▼てくれた簡単《かんたん》な決まりをわすれたせいで[#「せいで」に傍点]そうなったわけ。たとえば、▲→赤くてちんちんの▼▲に近づけば→かきをずっと持ってると▼やけどするよ、ナイフで指を深く▲→[#「深く」に傍点]▼切ったら▲→ふつうは▼血が出るよ、とか。で、ちゃんと覚えていたのが、〈毒〉の印のあるびんを▲→ぐびぐび▼飲むと、おそかれ早かれほぼまちがいなく毒に当たるよ、というもの。

とはいえ、このびんには▲→〈▼▲→〉▼の印はなかった[#「なかった」に傍点]ので、アリスが▲→思い切って▼味見してみると、とってもおいしくて(なんと風味はサクランボのタルトにカスタード、パイナップルからローストチキンとキャラメル、あつあつのバタートーストまでがいっしょになったみたいで)あっというまに飲みきっちゃった。

▼   *  *  *  *  *  *
→   *   *   *   *

     *   *   *
   *   *   *   *▲

「とってもへんてこな気持ち!」とアリス。「望遠鏡みたく身体がたたまれてるのね。」

▲→うん、▼その通り。今や背《せ》たけはたった25センチ、そして顔がぱっとあかるくなったのは、▲ふと思いついたから。→▼あの小さいドアからすてきなお庭に出るのに、今の大きさならちょうどいいって▲→思ったから▼。とはいえ、まずはしばらくじっとしてたしかめる、もうちぢまない▲ところまでね。→かなって、▼ちょっぴりどきどきしていたんだ。「だってほら、おしまいに、」とアリスはひとりごと。「ロウソクみたく、ぜんぶいなくなっちゃうのかも▲、→。あたくし▼そうしたら▲あたくし→▼どうなっちゃうのかしら。」そこでロウソクがふっと吹き消されたあと火がどうなるのか思いうかべてみようとしたんだ、▲→そんなの▼見たことなかったからね。▲まあ→
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しばらくして▼
、もう何も起こらな▲→いってわ▼かったから、すぐにでもお庭へ出ることにしたんだ▲けど→。でも▼、あああかわいそうにアリス! ドアのところで、ちっちゃな金の鍵をわすれたことに気がついて、▲鍵を→取ろう▼とテーブルに引き返してみると、今度は上にぜんぜんとどかない。ガラスの向こうに▲→もう▼はっきりと見えるのに、せいいっぱいテーブルの足からのぼろうとしても、すべるすべる▲、→。▼しまいにはくたびれて、かわいそうにかわい子ちゃんはへたりこんで大泣き。

▲しっかり! →ほら、そんなふうに▼泣いたってどうしようもなくてよ!」とアリスは自分に言い聞かせる。「あなた、今すぐにおやめなさい!」▲(→▼いつもご自分へのおいさめはとてもご立派《りっぱ》▲→(あんまり言うこと聞かないけど)▼、時にはご自分へのおしかりがきびしくてなみだをためることもある▲けど、→。▼あるときなんか自分対自分のクローケーの試合でずる▲→っこ▼した▲→から▼って▲ことで→▼わすれずご自分の耳をおはたきにな▲→ろうとす▼るくらい。このへんてこな子は1人2役するのが大好きだったんだ。▲)→▼「でも今、」とかわいそうなアリスの考えでは「1人2役してもしかたなくてよ! もう、あたくし、ちゃんとひとり▲→[#「ひとり」に傍点]▼分にも足りてないんだもの!」

ふと目を落とすと、テーブルの下に置かれた▲黒《こく》たん→ガラス▼の小箱。開けると中に小ぶりの焼菓子《やきがし》が見つかって、そこに▲ついていた紙切れに→▼▲→ほしブドウで▼、〈タベテ〉って文字▲がカタカナで→を▼きれいに▲印刷し→ならべ▼てあって。「▲→これ、▼いただくわ。」とアリス。「▲→身体が▼大きくなれば鍵にもとどくし、▲→身体が▼小さくなってもドア下をくぐりぬけられる▲、→。▼いずれにしても庭には出られるから、どっちになってもかまわなくてよ!」

ちょびっとかじって、そわそわとひとりごと。「どちらの方? どちらなの?」とどっちになるかわかるように、▲手を→▼頭のてっぺん▲に当てて→を手でおさえて▼いたらびっくりびっくり、気づくと同じ背たけのまま。たしかに▲→、▼焼菓子を食べただけじゃ、こう▲→いうふうに▼なるのがふつうなんだけど、アリスはとんでもないことが起こるって▲→ほんとに▼それだけを考えるようになってたから、▲まともに進むこと→まっとうな人生が▼がすごくつまらなくばかげたことに思えてね。

だからむきになって、たちまちぺろりと焼菓子をたいらげたんだ。


第1回訳者コメント

■第1章、語句レベルだけでなく句読点にも細かい訂正が見られます。そのあたりもできるだけわかるようにはしてみましたが、もちろん英語と日本語の句読点が一致するわけではないので、あくまでも参考程度。

■なお、ここで比較する際に用いている『アリスの地底めぐり』は現時点で青空文庫に公開しているものとはちょっと違います。なぜかというと、かつての『地底めぐり』の訳文が、『地底』の原文よりも、『不思議』の原文に近いという事態が生じてしまいまして。

■つまりどういうことかというと、私が『地底』を訳す際、無意識に「原文を修正」してしまっており、結果としてその修正がキャロルの加えた訂正と同様のものとなっていたようで。そんなわけで、この比較のためにはむしろ『地底』の訳文の方をいじらなければならない、という想像もしていなかった羽目に。

■たとえば「お友だちの▲さずけ→教え▼てくれた」は、原文では「their friends had ▲given→taught▼ them」なのですが、『地底』で「given」をそのままでは妙だからと先に意訳して「教えて」と訳しており。で、『不思議』で同様の変更がなされたのは、同じ修正意識があったようなのですが、でもそれだとたぶん元のものとの違いが逆にわからなくなってしまうんですよね。

■なので、訳文としてはそのままを維持しながらも、整合性のために『地底』の方を拙い方向へ直す、という。

■私はいったい何をしているのだ! でもこれはおそらく比較しなければやらなかった行為のはずで、テクストの異同を追いかけるというのは何かしらそういう紙一重なところを探っていくということなのかも。


底本について

■メイン底本は『地底』のときと同様、Alice’s Adventures in Wonderland and Through the Looking-Glass (Penguin Classics), London: Penguin Books, 1998.――具体的には、この本所収の著者最終訂正版の1897年版テクスト。

■疑問点の参照用に、Alice’s Adventures in Wonderland and Through the Looking-Grass (Oxford World’s Classics), Oxford: Oxford University Press, 2009.およびAlice in Wonderland (Third Norton Critical Edition), New York: W.W.Norton, 2013.

■注としてはもちろんガードナーの詳注決定版、稲木・沖田『アリスの英語』、そして復活した『新「アリス」訳解』なども確認しております。ちなみに授業では学生に講談社ルビーブックスのものを使わせておりました。


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