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【凡例】
修正:▲草稿→修正▼
削除:▲削除→▼
加筆:▲→加筆▼
▲ふたつめ→3 ドードーめぐりで長々しっぽり▼
なんとも▲へんてこ→けったい▼な絵づらのご一行がほとりにお集まり――羽を引きずった鳥さんたちに、毛がぴたーとなったむくじゃらたち▲――→、▼みんなずぶぬれで気持ち悪くていやな気分。▲→
(改行)
▼さてここで考えるべきは、どうやってぱさぱさにするか。かわかし方を話し合ううち、▲アリスは→▼▲もうたいしておどろかなくなった→ものの数分するとけっこうなじんできた▼というか、気づいたら▲鳥さんたち→みんな▼と仲良くお話ししていて、生まれたときからの知り合いみたくなっていてね。なるほどインコとは長々言い争ったものだから、しまいにはむすっとされたんだけど、ここで「わたしの方がお姉さんなの、だからモノを▲よく→もっと▼わかってるに決まってる」なんて言われようものなら、アリスだって▲インコ→相手▼のお年を知らないからそんなの▲受けつけ→うなづけ▼ないし、インコも自分からぜったいお年を口にしたくないので、どっちもあとは▲何とも→もう▼言えない。
とうとうハツカネズミが、▲それなりにもっともなことがある→そこそこひとかどのもの▼みたいだってことで、よびかけてね、「すわれや、みなのしゅう、▲耳かっぽじろ→よおく聞け▼! おれがすぐにでもお前らをぱっさぱさってほどにしてやる!」すぐさまみんなは▲ふるえながらも→▼大きく輪になってこしを下ろして、▲アリス→ネズミ▼がどまんなか▲、→。アリスは▼気になるとばかりに目をネズミに▲向けてね→じいっと▼、だっていますぐにでもかわかさないと、ひどい風邪《かぜ》を引きそうだと気にやんでいたんだ。
「おほん!」とネズミはもったい▲ぶった→つけた▼感じで、「みなのしゅう、いいか? こいつは知るかぎりいっとうぱっさぱさのやつよ。どうかごせいちょうを!▲(改行) →『▼ウィリアム征服王《せいふくおう》、その大義《たいぎ》が教皇《きょうこう》さまのお目がねにかなったとあって、イングランドの民《たみ》はすぐさまこれにひれふした。上に立つ者もなく、このごろは国が外から荒《あ》らされ平らげられるのが常《つね》であったからだ。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの主さまは――▲→』▼」
「うげ!」とインコは身ぶるい。
「ごめんなすって▲。→!▼」とネズミは顔をしかめながらも、それでいてていねい。「あんた声あげたか?」
「いえいえ!」とあわてるインコ。
「そうかあ?」とネズミ。「まあ続きよ。▲→『▼エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの主さまも、味方するとした。スティガンド、国うれうカンタベリ大司教までも▲→が得策《とくさく》だと見たのが――』」
(改行)
「何[#「何」に傍点]と見たって?」とアヒル。
(改行)
「だ[#「だ」に傍点]と見た。」とネズミはちょっとむすっと答える。「もちろん『だ』の意味はわかんな。」
(改行)
「『だ』くらいちゃんとわかっとるわい。モノを見つけりゃあ。」とアヒルは言う。「カエルだ、ミミズだ、ってな。聞きたいのは、大司教が『何』を見たのかだ。」
(改行)
ネズミは聞かれたことにぴんと来なかったけれども、あわてて続けてね。「『得策だと見たのが、エ▼エドガー親王連れてウィリアムに面会《めんかい》し冠《かんむり》を差《さ》し出す▲のが得策《とくさく》と見た。→ことで、▼ウィリアムのふるまいは初めのうちおだやかだった▲→。しかしそのノルマンらしい傲慢《ごうまん》な態度《たいど》▼が――▲→』と、▼今んとこどんなぐあいだ、▲→な▼あ?」と言いながらアリスの方を向▲く→いている▼。
「まだびしょびしょ。」と▲かわいそうな→▼アリス▲→はしょんぼり▼、「ぜんぜんぱさぱさにならなくってよ。」
「ならば、」とドードーが立ち上がり大まじめに、「集まりの休会を提議《ていぎ》する、なぜなれば、より効果的《こうかてき》な改善策《かいぜんさく》の速やかなる採用《さいよう》が――」
「国語をしゃべ▲れ→って▼!」と▲アヒル→子ワシ▼。「そんな長▲たらし→っがー▼い言葉、半分も意味がわか▲らん→んない▼し、▲それ→▼どころか君だってさっぱりわかってない▲だろ→じゃない▼!」ここで▲アヒル→子ワシ▼、▲自分にうけてグヮグヮと大笑い→うつむいて、にやけた顔をかくしてね▼。ほかの鳥さんもちらほら聞こえよがしにしのび笑い。
「言▲いたかった→おうとした▼ことはただ、」とドードーは気をそこね▲たみたいで→て▼ね、「▲この近くに小屋があるから、そこでならこのおじょうさんもお集まりのみなさんもぱさぱさにかわかせる上、そのお話も気持ちよく聞けるということなのだ、お前さんだって我々に話をする約束《やくそく》を守りたかろうと思ってな。」とうやうやしくネズミにおじぎ。(改行)ネズミもこれにはむべなるかな、一同は川のほとりぞいに動いてね、(だってこのときには池ももう広間から流れ出して、きわにはイ草やわすれな草がならんでいたからね)ゆっくりと1列でドードーを先頭に進む。そのうちにじれてくるドードー、あとのみんなをアヒルにまかせて、足取りを速めて先へ、連れていくのはアリスにインコそして子ワシで、あっとういまに小屋に到着《とうちゃく》、そこでだんろをかこんでひと息、毛布にくるまっていると、とうとうほかのみんなもやってきて、ぜんいんぱっさぱさにかわいたとさ。(改行)さてふたたびほとりでみんな大きな輪になって、すわってネズミにご自分のむかっ話をとおねだり→▼▲→ぱっさぱさにするのなら、いちばんいいのはドードーめぐりということなのだ。」
(改行)
「なに、ドードーめぐりって[#「って」に傍点]。」と言うアリス。すごく知りたいというわけではなく、ドードーがだれか[#「だれか」に傍点]合いの手を入れよとばかりに間を取っていたのにだれひとりとして口をあけようとはしないようだったからね。
(改行)
「ふむ、」とドードー、「やってみればいちばんよくわかろうて。」(まあ、冬の日なんかにやってみたくなるかもしれないし、ここでドードーが取りしきったことを教えておくね。)
(改行)
まずは走るコースを作る、形は丸(「きっちりした丸でなくてもいい」とドードー)、それでやる人はコースのあっちこっちでいいからつく。「いちについて、よーい、どん!」っていうのもなくて、みんな好きなときに走り出して、好きなときにやめる。だからいつ終わるのかもわかりづらい。それでも半時間くらい続けると、またかなりぱっさぱさになってきて、そこでいきなりドードーが大声で、「そこまで!」みんなもまわりに集まって、ぜえはあたずねる。「で、だれの勝ち?」
(改行)
この問いかけには、ドードーもものすごく考えないと答えが出てこなくてね、しばらくすわりこんで、ひたいに指1本当ててね(ほらシェイクスピアが絵のなかでいつもやってるあの格好《かっこう》)、そのあいだのこりのみんなはしずかに待ってる。とうとうドードーが言うんだ、「みんな[#「みんな」に傍点]の勝ちである、全員[#「全員」に傍点]にほうびをさずけねば。」
(改行)
「でも、ごほうびをあたえる役はだれが?」と、みんなの口がそろう。
(改行)
「ふむ、むろん、あの子[#「あの子」に傍点]よ。」とドードーはアリスを指さしてね、するとやってた連中がわーっとまわりにむらがってきて、もう口々にわめくんだ、「ごほうび! ごほうび!」
(改行)
アリスはどうしてよいやらさっぱりで、しょうがないからポケットに手をつっこんで、ドライフルーツの箱を取り出してね(うまいこと塩水《しおみず》は中に入ってなくて)、ごほうびにまわりへわたしていったんだ。ぐるりのみんなにきっちりひとりひとつずつ。
(改行)
「でもあの子にもごほうびをやらねえとな。」とネズミ。
(改行)
「むろん、」とドードーの答えはやっぱり大げさ。「まだ何かそなたのポケットにはあろう?」と続けてアリスを見る。
(改行)
「指ぬきだけです。」と悲しげなアリス。
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「こっちへかしなされ。」とドードー。
(改行)
で、みんなはふたたびまわりに集まって、そんななかでドードーはぎょうぎょうしく指ぬきをさしだして、こんな言葉。「この見事なる指ぬきをわれらからあなたさまに進ぜよう。」と、この短い式典《しきてん》が終わると、その場のみんながぱちぱちわあわあ。
(改行)
アリスには何から何までむちゃくちゃだと思えたけど、みんなまじめな顔をするもんだから、ふき出すわけにもいかなくて、でも何も言うことが思いつかないから、とりあえずおじぎをして、指ぬきを受け取って、できるだけぎょうぎょうしい顔をする。
(改行)
続いてお次は、ドライフルーツを食べるだんなんだけど、これがしっちゃかめっちゃかなさわぎになってね、大きな鳥はすぐなくなるとぶつくさ言うし、小さいのはのどにつかえて背中《せなか》をとんとんしなきゃいけないし。それでもなんとか終わって、ふたたび輪《わ》になって、すわって。ネズミに何かまたお話をとおねだり。
(改行)
「だん取りでは、ご自分のむかっ話でしたかしら。」とアリス、その、なぜおきらいなのか――ネとイが。」怒《おこ》らせまいと、こわごわ小声で言ったので、ところどころ聞こえなくてね▼。
「おれのは、長々しっぽりよ!」とネズミはアリスの方を向いて▲、→▼ため息。
「長々のお[#「お」に傍点]しっぽ、ほんっとに。」とアリスはきらきらした目をネズミのしっぽに下ろしてね、▲そいつは輪をぐるりひとめぐりしそうなほどで。→▼「でも、後ろの〈りよ〉って何のこと?」そうして▲こ→そ▼のことになや▲みだすうち→んだまま▼、ネズミも話し▲始めて→ていったから▼、だからお話も頭のなかではこんな感じになっちゃって▲。→――▼
▲おれらの住まい、しきものの下 ぶあつくぬくぬく住みよしだ、 だがなやみもありだ ネコ[#「ネコ」に傍点]ときた! 水さすや からが、目 のゴミクズ が、気を重 くするのが 犬なりしか![#「なりしか!」に傍点] ネコが されば、 あとは ネズミの あそ びば、 なのにある日! こは(さ[#「さ」に傍点]らば) ともに来たる犬 ネコ、おい かけっ こ、 やられて ネズミぺ しゃんこ、 みな ごろ しよ ぶあ つく ぬ くぬ く して いた と こ !を ろ との を こ― 、 ―およろみてえ考→▼ |
▲→ 「イカリーわ んわんネズ ミにいちゃ もん、『出る とこ出よう ぜ、うった えてやる―― さあ、し のごの言 うなよ。は っきりと おさば きよ。 今朝は まあそ れだけ にしとい てやる。』 犬ころ に言う ネズミ、 『そんな のいやだ よ、きみ、 いったい だれがさ ばくの、 ただの時 間のむだ じゃない。』 『さばくの はやっぱ り、おれ だろ。』 と うら かく 犬 ころ。 『はん けつは 出た ぞ、 言い わた す、 お前 は 死刑。』」▼ |
「▲お前、聞いてねえだろ→耳かっぽじってねえな▼!」とネズミはアリスにびしっと。「何考えてんだ?」
「ごめんあそばせ。」とおそれいるアリス。「5つめの曲がり角にいらしたところ、よね?」
「わっからんな[#「からんな」に傍点]!」と声をあげるネズミは、とげとげぷんすか。
「あ、からんだ?」と言うアリス、いつでも人の役に立ちたいざかりなので、目をかがやかせてきょろきょろしてね、「まあ、でしたらほどかせていただけて?」
「そんなこと何も言わねえよ!」とネズミは立ち上がって、▲みんなからはなれていく。→▼「そんなからっぽの話でバカにされるなんざ!」
「思いちがいよ!」とアリスは苦しまぎれの言いわけ。「でもあなただってずいぶんいらちだこと。」
ネズミの返事はただうなり声だけ。
「さっさとお話の続きをしめてくださる?」とアリスが背中《せなか》によびかけると、ほかのみんなもあとからそろって、「そうだ、しめるんだ!」ところがネズミは▲耳→いらいらと頭▼をふるだけで、▲そそくさと去っていって、→足早に歩いてゆく。▼▲たちまち見えなくなって。→▼
「ざんねん、お去りだなんて!」とインコがため息▲→ついたのは▼、▲→見えなくなってすぐのこと。▼そしておばさんガニはついでとばかりにむすめに小言。「ほらね! つまり、あなた[#「あなた」に傍点]もかっかしちゃダメってことなのよ!」▲→
(改行)
▼「ママはだまってて!」と子ガニはややつっけんどん。「がまん強いカキだってどうにかなりそうよ!」
「ここにうちのダイナちゃんがいたらな、できるのに!」とアリスの大声は特にだれに向けてというわけでもなく。「あの子[#「あの子」に傍点]ならあいつをたちまち連れもどしてきてよ!」
「そのダイナってどなた? よろしければ教えてくださらない?」とインコ。
アリスは乗り気のお返事、だっていつでも自分のペットのお話をしたいざかり、「ダイナはうちのネコ。ネズミ取りにかけてはもう一流なの、おわかり? それにああ! 鳥を追いかけるあの子をお見せできれば! もう、小鳥なんかねらいをつけたとたんにがぶりよ!」
こんな▲お返し→話▼をしては、一同大さわぎになるわけで――たちまちにげまどう鳥もいたほど、おじさんカササギなんかそうろっと身じたくを始めてこう口に出してね、「そろそろうちに帰らねばな、夜風はのどをいためるので。」それからカナリアは声をふるわせながら子どもたちによびかけてね、「▲あの子に近づいちゃダメ、あんな子とお友だちになっちゃダメだからね→行きましょうさあ! もうみんなおねんねする時間よ▼!」いろいろ言いわけを作って▲、→▼去っていくみんな、アリスはたちまちひとりぼっち。
▲しばらくみじめにじっとすわってたんだけど、ほどなく気を取り直してね、例のごとく、ひとりごとの始まり。「だれかしら、もうちょっといてくださってもよろしくてよ! あんなに、仲良くなりかけてたっていうのに――ほんとに、あのインコとあたくし、もう姉妹みたいなものだったのに! あのかわいい子ワシちゃんにしてもそうよ! それからアヒルにあのドードー! あのアヒル、すてきに歌ってくれたのに、みんなで泳いでいるさなかに。あとドードーが、あのすてきな小屋への道をごぞんじなければ、ぱさぱさにできていたかわからなくてよ――」と、このままだといつまでもこんなふうにしゃべっていたかわからないところ、ふとぱたぱたという足音が耳に入ってね。→▼▲→「あたくしとしたことがダイナのことを言い出すなんて!」としょんぼりひとりごと。「だれもお好きでないみたい、こちらでは。ぜったい世界一のネコなのに! ああ、ダイナちゃん! またちゃんと会えたりするのかしら!」と、ここでかわいそうで、アリスはまた大泣きのはじまり、だって心がとってもせつなくて、しょげていたからね。ところが少しすると、また耳に、かすかにぱたぱたという足音が遠くから聞こえてきたから、はっとして目を上げてね、どこかで思ってたんだ、ネズミが気を変《か》えて、お話をしにもどってくるんじゃないかって。▼
第3回訳者コメント
■ブロック単位で推敲されている場合は、緑じゃなくて、赤と青を使って見やすくしますね。
■ここでの追記はいわゆるコーカスレース。『地底』の小屋へ行く描写は、現実にキャロルがアリスたちと出かけた際のエピソードが元になっていますが、『不思議』ではそれをカットして、まったく別のシーンへと作り直しています。▲現実→非現実▼の変換は、全編を通じてよくあるパターン。アリスとの思い出を重視するなら残すべきところですが、こういう選択はやっぱり作品として昇華させようという意識があるからなんでしょうね。
■ネズミの長いしっぽの詩は左右に並べました。行数はちょっと増えてますね。曲がり方は版を重ねるたびにころころ変わるのですが、ここは最終版準拠。本来は終わりに行くにつれ文字も小さくなっていきます。
■すごくくだらない話で恐縮なんですが、このお話って、〈賢者モード〉じゃないと訳せないんじゃないか、というのが正直な感想。賢者モードという用語がどういう意味なのかは私からはとても説明できないので気になる人はぐぐってほしいのですが、キャロル後期の作品は訳者からしてもちょっと〈気持ち悪い?〉ところがなきにしもあらずなのに、『不思議』はそういうのがなくって。牧師さん特有のものなのか、何なのか。精神的にとっても静謐。それはたぶん〈抑えている〉とかではなくて、対象との距離の取り方も絶妙で。言語化しづらいところではあるんですけどね。
おまけ
■翻訳中のおともは、Naxos Audiobooksのオーディオドラマ朗読CD(2006年新録版)。アリス役のJo Wyattの演技が良いです。基本は強気なお嬢様の芝居なんですが、時々アリスの子どもっぽさや素を見せるその緩急が巧みでした。授業中、学生にも毎回聞かせていましたが、かなりの好評を博しました。
■ナクソスは、もちろん今や有名な音楽レーベル。30年くらい前からクラシック音楽を色々と販売してきているわけですが、同じようにPD作品のオーディオブックを中心に制作するレーベルとして20年くらい前にNaxos Audiobooksができたのでした。ちらほらマニアックなのとか、出来のいいのとかがあって、ときどき買っているのですが楽しいです。ラヴクラフトのオーディオブックもありますよ。