地底から不思議へ:ルイス・キャロルの加筆をたどる 第8回
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カテゴリー: | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2015年3月4日 |

【第7回へ】

【凡例】
修正:草稿→修正▼
削除:削除→▼
加筆:▲→加筆▼


▲よっつめ→8 クイーンさまのクローケー場▼

大きなバラの木が1本、庭を入ったところに立っていて、▲つい→さい▼てるバラはどれも白なのに、その場にいた3まいの庭係が、いそいそとそいつを赤にぬっていてね。これがアリスにはすごくへんてこなことに思えたものだから、▲→そばで▼じっくり見ようと足を向けると、近づくなり聞こえてくる、うちひとりの言葉、「▲→おい▼気ぃつけろよ、5! そんなふうにこっちへ絵の具をはねかけんな、こら!」

「しょうがねえだろ。」と5はむっとした声を返す、「7がこっちのひじを小づきやがった。」

それに7も▲顔を→見▼上げて口をはさむ、「やんのか、5! いつもいつもひとのせいにしやがって!」

「てめえ[#「てめえ」に傍点]言ってるばあいかよ!」と5▲、→。▼「聞いたぜつい昨日、クインのやつがてめえ▲の→は▼首はね▲ようか→ものだ▼っつってな!」

「ワケは?」と口火を切ったやつ。

「てめえ▲→[#「てめえ」に傍点]▼の知ったこっちゃねえ▲よ→だろ▼、2!」と7。

「いいや、知ったこっちゃある[#「ある」に傍点]んだな!」と5、「だから教えてやんよ▲、→――▼ワケってのは▲ジャガイモ→タマネギ▼とまちがえてチューリップの根っこを料理係に持ってったってな!」

7はハケを放り出してまくし立てる、「はあ▲?→!▼ そんなおかどちげえ――」とここで▲→たまたま▼目にうつるアリス、▲→のぞきこむのをやめたんだけど向こうは▼ふいに▲話が止まる→言葉をつまらせてね▼。ほかの2まいもふり返り、みんなして▲かぶりものをぬいで、→▼ふかぶかおじぎ。

▲もし、→▼教えていただけて?」とアリスは▲→ちょっぴり▼おずおず、「どうしてバラに色なんかつけてらして?」

5と7は▲→おしだまって▼2をにらむだけ▲で、おしだまっている→▼。そこで2が小声で、「その何だ、▲→実はさ、ほら、▼じょうちゃん、▲実はさ、→▼本当は▲→こいつ▼赤いバラの木のはずだったんだけど、手ちがいでオレら白いのを植えちまってさ、クインに見つかるはめにでもあったら、もうオレらみんなそろって打ち首▲→ってワケ▼よ。つーわけでさ、▲→じょうちゃん、▼来ないうち▲→に▼やれることやっとこ――」と、まさにこのとき、庭の向こうをそわそわと見つめていた5が声をあげる、「クインのやつだ! クインだ!」庭係の3まいはあわててぺたんとうつぶせにたおれる。おおぜいの足音にふり返ったアリスは、当のクイーンにじいっと目をそそぐ。

まずやってきたのが、こんぼうをかまえた10まいの強者《つわもの》たち、すがた形は庭係3まいと同じで、▲→長四角の▼ぺらぺら▲の長四角→▼、角のところに手足がついててね。お次は10まいのそばづかえ、▲→ダイヤに▼そろって▲ダイヤで→▼色取られ、強者と同じで2列になって歩いている。そのあとに来るのが王子さま王女さま、10まいいらっしゃて、このかわい子ちゃんたち2人1組で手をつないで、うきうき軽やかに進む、そろってハートがらのおあしらい。次に来るのがお歴々、キングにクイーンがほとんどだけど、▲→そこで▼そのなかにアリスはあの白ウサギを見つけてね、でもせかせかとお話しながら言われたことにはあいそ笑いするばかりで、気づかずに前を通り過ぎて。そのあと続くのがハートのジャック、おしいだいたるふわふわ▲の→てかてかまっ赤な▼台の上にはキングのかんむり、そしてこの大ねり歩きのとりをかざるのが、ハートのキングとクイーンだ[#「ハートのキングとクイーンだ」に傍点]。

▲→アリスには、自分もその庭係3まいと同じようにひれふした方がいいのかちょっとはっきりしなかったけど、ねり歩きにそんな決まりがあるとも耳にしたこともなかったので、「それに、ねり歩きにいったい何のねうちがあって?」と思ってね、「ひれふして顔を下向きにしたら、どのみち見えないもの。」だからその場に立ったままじっとしていた。
(改行)
ねり歩きアリスのまん前まで来ると、そろって立ち止まって目を向けてくる、そこでクイーンが一言ぴしゃり、「こやつはだれよの。」たずね先はハートのジャック、だけど返ってくるのはおじぎとにこにこだけ。

「バカ者!」とクイーンは▲鼻をつんと上げ→、頭をつーんとそらして▼▲今度は→そのあと▼アリス▲→の方をむいてさら▼▲たずねる。→ひとこと、▼▲→そこな子ども、▼名は何と言う?」

「あたくしの名前はアリスです、クイーンさま。」とアリスは▲強気の→うやうやしく▼受け答え、▲だって→でも実は▼心のなかでは、「ふん、▲→どうせ▼ただのトランプ1組▲! →。▼おそるるに足らずよ!」

▲→では▼あれは▲→[#「あれは」に傍点]▼何よの。」とクイーンが指さしたのは、バラの木のまわりにたおれ▲た→ている▼3まいの庭係、だってうつぶせになっていたし、背中のがらはどのトランプもおんなじだから、そこにいるのが庭係なのか、強者、そばづかえ、はたまた自分の子どもたちなのか、さっぱりでね。

「あたくし[#「あたくし」に傍点]に聞かないで。」と言うアリス、その気の強さに自分でもびっくり▲、→。▼「知ったこっちゃ[#「こっちゃ」に傍点]なくてよ。」

怒《いか》りで真っ赤になるクイーン、ちらっとにらみつけてから、やにわ▲→けだものよろしくいきなり▼声を▲とどろかせ→あらげて▼、「こやつの首をちょん切▲→れ! こやつの▼――」

「すっからかん!」とアリスが大声で言ってのけると、クイーンは静かに。

キングがその手をクイーンのうでに置いて、おずおず言い出す、「これお前、▲よく→▼考え▲ろ! →直さんか。▼ほんの子どもだ!」

クイーンはぷいっと顔をそむけて、ジャックに言いつける、「こやつらひっくり返せ!」

ジャックは、そうろっと片足でやってのけた。

「立てい!」とクイーンがきぃきぃ大声をあげると、3まいの庭係はたちまちとび起き、おじぎを始めてね、キングにクイーン、王子王女にみなみなさまへ。

「ええいやめい!」とかなきり声のクイーン、「目が回る。」とそこでバラの木の方を向いて続ける、「ここで今まで[#「今まで」に傍点]何をしておった?」

「おそれながらクイーンさま。」とへりくだる▲→ふりして▼2は、しゃべるあいだ片ひざをついて、「なんとか3まいで――」

「もう[#「もう」に傍点]わかった!」と、そのあいだにバラをたしかめていたクイーンは、「こやつらの首をちょん切れ!」そしてねり歩きは動き出し、手を下すための強者が3まい、あとに残されたので、追いつめられた▲3まいの→▼庭係はアリスにかけよって助けを求める。

「打ち首なんかさせなくってよ!」って、アリスは3まいともを▲ぽっけ→手近の大きな植木ばち▼につっこんでね。だから3まいの強者▲に→▼は、▲ぐるりと1周→ものの数分うろうろと▼さが▲され→し▼ただけで、あとはみんなの後を追ってすたすたすた。

「首はのうなったかえ?」とクイーンの大声。

「みな首なしにて▲、」と強者の返事も大声、「→▼ございまする、クイーンさま!」▲→と強者の返事も大声。▼

「よろしい!」とクイーンの大声、「そちはクローケーができるか?」

おしだまった強者ども、目を向ける先はアリス、つまりどうも、聞かれてるよってことみたいで。

「はいっ!」とアリスの▲声は大きくうわずってね→大声▼

「ならばこちへ!」と声をひびかせるクイーン、ねり歩きの仲間になったアリスは、これから何が始まるのか気になる気になる。

「これ――よいお日がらであるな!」と▲→わきから▼おずおず▲ひそひその→ひと▼声。なんととなりを歩いていたのはあの白ウサギ、こわごわ顔をのぞかれていてね。

「本当に。」とアリス、「御前《ごぜん》さまはどちら?」

「しっ▲、→! ▼しーっ!」と▲小声→ひそひそ早口▼で返すウサギ、▲「聞こえるでおじゃる。クイーンさまがその御前さま、知らんでか?」(改行)「ええ初耳。」とアリス、「何をおおさめ?」(改行)「ハートどもの女王にして、」とウサギはひそひそ声で耳打ち、「ウミガメフーミどもをすべておじゃる。」(改行)「えっ、それ[#「それ」に傍点]何?」とアリスが口にしたんだけど、返事のひまもなくってね、だってもうクローケーをやる場所についていて→▼▲→話しているあいだもそわそわ後ろをふりかえりながら、やがてつま先立ちして小さく耳打ち、「御前さまは死けいに言いわたされておじゃる。」

「どうして?」とアリス。

「どうしてなかなかおいたわしやとな?!」と聞き返すウサギ。

「そうじゃなくて。」とアリス。「悲しいとかじゃなくて、わけを聞いててよ。」

「クイーンさまにびんたをはったのじゃよ――」と言い出すウサギ。アリスはぷぷっとふきだして。「これ、しーっ!」とウサギはびくびくひそひそ声。「クイーンさまに聞こえるでおじゃる! ほれ、あの方がちょっとちこくされたもんで、クイーンさまがな――」

「ものども位置《いち》につけい!」と大声をとどろかせるクイーン、一同はてんでばらばらに走り出して、たがいにごっつんこ。けれどもものの数分で位置につきおわって▼、すぐに試合が始まったんだ。

アリスは思った、生まれてこのかたこんなへんてこなクローケー場見たことないって。そこらじゅうが凸凹で。▲クローケーの→▼玉は生きたハリネズミだし、ボールを打つつちは生きた▲ダチョウ→フラミンゴ▼、それに強者どもがわざわざ両▲足→手▼▲手→足▼をついて身体を2つ折り、玉のくぐるところをつくってね。

なかでもいちばんむつかしいってアリスがまず気づいたのが、▲ダチョウ→フラミンゴ▼のあつかい。▲→なんとかうまく▼そいつのどう体を、おさまりのいいよう、わきにおしこんで、足をぶらぶらさせてみたんだけど、たいていは、首をうまくまっすぐにして頭で▲→ハリネズミを▼打とうとしたとたん、そいつに身体をひねられ顔をのぞきこまれてね▲→[#「ね」に傍点]▼、相手があまりにこまった顔をするもんだから、ぷっとふきだしちゃうしかなくって。それから頭を下向きにしてしきりなおしても、今度はハリネズミが丸まってくれずにちょろちょろどっか行き出すもんだから、▲なやま→いらだた▼しいったらなくて。ましてやそれどころか、ハリネズミをどこへ転がしたいにしても、たいてい▲その方向→行く先▼には凸か凹、それに2つ折りの強者どもはしじゅう起き上がってべつのところへ歩いていっちゃうから、アリスもたちまち、この試合むつかしすぎると思うにいたる。

やってる人も自分の番を待たずにみんないっせいにやるし、ずーっと大声で言い合い、▲→ハリネズミの取り合い。▼▲なのでものの数分で→あっというまに▼クイーンは怒《いか》りばくはつ、どしんどしん歩いていって、「あの男の首をちょん切れ!」とか「あの女の首をちょん切れ!」ってどなること▲およそ→▼1分に1回。

▲→アリスはどうにも気もそぞろ、たしかにまだクイーンとは1度も口げんかしてなかったけど、いつ起こるともしれないから、「そうなったとき、」とアリスは考える、「あたくしの身はどうなるの? このひとたち、ここにいるひとたちの首をはねたくてはねたくて仕方ないみたい。こんな調子で、だれかひとりでも生き残れたものかしら!」

にげのびる手立てをさがしながら、すがたを見られずに立ち去れるのかしらと思っていたところ、気づけばお空のなかにぱっとへんてこなものが登場。はじめは何がなにやらわけがわからなかったけど、ものの数分もながめていると、そいつが愛想《あいそ》だとわかってきたので、ひとりごと、「これはチェシャネコね。やっと話し相手ができてよ。」

「うまくやってるかにゃ?」とネコは、話せるだけの口が出たとたんに言ってね。

アリスはお目々が出てくるまで待ってから、うなづく。「まだ話しかけてもむだ。」と思ってね、「あの子の耳が、せめて片方でも出てから。」1分もすると頭がまるまるあらわれたので、それからアリスは持ってたフラミンゴを下ろして、ゲームのことをかくかくしかじか、聞いてくれる相手ができて、もううれしくってね。ネコはそれだけ見えればじゅうぶんと思ったらしく、そこから先は出てこない。

「あのひとたち、たぶんまともにゲームできていなくてよ。」と言い出すアリスの口ぶりはちょっぴり不満《ふまん》たらたらでね、「それにみんなひどくさわぎ立てるものだから自分が何言ってるかもわからなくって――それにルールにちっともこだわらないみたいで。どうせあったとしても、だれも耳なんかかさないし――それにもうわけがわからないのが、何から何まで生き物だってこと。たとえば、次に通さなきゃいけないゲートがあっても、そいつはグラウンドのはしっこまでてくてく歩いて行っちゃうし――あたくしがクイーンさまのハリネズミに当て打ちしようとしたら、そいつはあたくしが来たのを目にしてにげていっちゃうだもん!」

「クイーンはどうにゃい?」と小声のネコ。

「もうだめ。」とアリス、「だってめちゃくちゃ――」とちょうどそこでクイーンが背後で聞いているのに気がついて、言葉の先がこんなふうに、「――お強いんだもの、もうゲームなんてやってられないって気持ちね。」

クイーンはにっこりと笑って通りすぎる。

「だれと話しておる[#「おる」に傍点]?」とキングがアリスにお近づき、ものめずらしそうにネコの頭を見つめてね。

「お友だちの――チェシャネコです。」とアリス。「どうぞよしなに。」

「面《つら》がまったく気に食わん。」とキング。「だがのぞみとあらば、わが手に口づけしてもよいぞ。」

「ネコでも王さまが見られる。」とアリス。「そう読んだ本にも書いてあってよ、でも何だったかしらん。」

「むう、やつを追いはらわねば。」と言い切ったキングは、そのとき通りがかったクイーンに声をかけて、「おまえ、あのネコを追っぱらってはくれまいか。」

クイーンは大小問わず、やっかいごとおさめるときにはこれしかない、「こやつの首をちょん切れ!」と、あたりに目をやることもなく言う。

「首切り役をじきじきに連れてこようぞ。」とやる気まんまんのキングはいそいそその場を外す。

アリスは自分ももどってゲームのゆくえを見守った方がいいかなと思ったんだけど、そのあいだもクイーンの声が遠くから聞こえてね、心のままにさけんでいて。やってる人でも、もう3人が打つ順をまちがえたってことで死けいを言いわたされたのを耳にしていたし、自分としてもこんなありさま見てられないと思ってね、だってゲームは自分の番かどうかもわからないくらいしっちゃかめっちゃかなんだから。なのでとりあえず自分のハリネズミをさがしに。

ハリネズミはほかのハリネズミと取っ組み合いのけんかをしていて、今ならそのふたつをうまい具合に当て打ちできるとアリスは思ったんだけど、ただこまったことに、自分のフラミンゴが遠く庭のはしっこまで行ってしまっていてね、アリスの目には、そいつが木のひとつにとびうつろうと、むだなあがきをしているのが見えて。

つかまえたフラミンゴをかかえてもどってくるころには、けんかもお開き、ハリネズミは2ひきともすがたがなくってね。「もうどうでもよくてよ。」と思うアリス、「ゲートもみんなグラウンドのこっちがわにはいなくなってることだし。」そこでにがさないよう、そいつをわきにぎゅっとかかえて、お友だちともうちょっとお話でもと引き返していく。

チェシャネコのところへもどると、びっくりしたのが気づけばまわりに人だかりができてたってこと。それになんと首切り役とキングとクイーンとのあいだでいざこざが起きていてね、いちどきにみんなしゃべるものだから、そのあいだその場にいるものはまったくおしだまるだけで、なんとも気まずそうで。

アリスがあらわれたとたん、その3人には助けの船みたいにうつったのか、その子に向かってそれぞれの言い分をくりかえすんだけど、やっぱりいちどきに言うものだから、だれが何を言ってるのかはっきり聞き取ろうにも本当にややこしくって。

首切り役の言い分は、切りはなす身体もないのに首は切れないということ、それからそんなことこれまでしたこともないし、今さら[#「今さら」に傍点]この年でやってみる気もないとのこと。

キングの言い分は、頭のあるものは切れるはず、たわけた話を言うなというもの。

クイーンの言い分は、今すぐさまただちに手が下されないのであれば、だれかれかまわずみな死けいにするというもの。(この言葉が決め手となって、その場の一同どうにもみなざわざわ。)

アリスにはもうこう言うしかないと思えてね、「ネコのかい主は御前さまです。その方[#「その方」に傍点]にうかがうのがよろしいかと。」

「あやつはオリのなかじゃ。」とクイーンは首切り役に言ってね。「ここへ連れてこい。」すると首切り役はひょうふっと走り去る。

ネコの頭はそのとたんに消えだして、御前さまを連れてもどってきたときにはもう、まったくいなくなっていてね。そこでキングと首切り役はむやみやたらにそこらをさがしまわるんだけど、そのうちその場のみんなもゲームにもどっていっちゃった。▼


第8回訳者コメント

■まるまる加筆部分から原形のある追記部分にもどってきましたね。書き換えの方針としては、キャラを追加したことによるつじつま合わせ、そしてそれにかこつけて内容を膨らませた、という感じでしょうか。ただ、それぞれのキャラの関係性や態度などを、微調整したり、正反対にしているところとかがあったり。アリスの受け答えの部分、▲強気の→うやうやしく▼とかはかなりの違いですよね。

■そういえば幼少の頃、ゲートボールをかなりやっていたことを思い出しました。スパークショットとかやってましたねえ。今はもう下手になってるでしょうけれど。


おまけ

■今回もおまけ文をつけておきます。イースターのこの文は、『えほんのアリス』『鏡の向こう』などに付されたとか。確か『スナーク狩り』にもついていたんでしたっけ。やっぱりまじめな牧師さんだなあ、キャロル。

「アリス」好きの子みんなへイースターのごあいさつ

思い描いてごらん、できるかな、今きみはほんとの手紙を読んでいる、それは顔見知りのほんとの友だちからのもので、その声も頭のなかに聞こえてくる、ぼくが今、心のなかで思っているように、どうか幸せなイースターをって。

わかるかな、すてきな夢みたいな気持ち、たとえばまず夏の朝に目が覚めて、空から鳥さんのさえずり、さわやかな風が開いた窓から入ってくる――たとえば、まだごろんだらんと寝ぼけまなこで、夢うつつの目の前に緑の枝がそよそよ、黄金色の日差しに水面がゆらゆら、って感じが。それは悲しみにも似た喜びで、美しい絵や詩みたく、ひとみになみだがたまる。そのあとお母さんのやさしい手がカーテンを開けるじゃないのかな、お母さんの明るい声が起きなさいと呼びかけるんじゃあないのかな。そうして体を起こして、明るい日の光のなか、真っ暗で怖かったいやな夢のことを忘れようと――身を起こして、また新しい幸せな一日をすごそうと、美しいお日さまを送ってくれたまだ見ぬ友にまずありがとうを言おうとひざまづく。

「アリス」みたいなお話の作者がこんな言葉を書くのは変だって? これって、すっからかんの本によくあるとっぴな手紙なんじゃないかって? そうかもしれない。ひょっとすると、人によっては、まじめなこととうわついたことをごっちゃにしてるって、ぼくに文句言うかも。また、みんながみんな、あらたまったことを言う決まりだなんておかしい(日曜や教会をのぞく)、と思う人なら、にやりとするかも。でもたぶん――いや、ぼくとしてはぜったい――子どもっていうのは、これをやさしくあたたかく、ぼくが書いたときの気持ちそのままで、読んでくれるんだと思う。

だってね、ぼくは思うんだ、天の主さまが、ぼくらにその日々を半分こずつにせよ、だなんていうわけがないって――つまり日曜にはしかめっ面をして、平日には主さまのことを引き合いに出すなんて場違いだ、みたいに考えること、だなんてね。主さまが、ひざまづいている人のことだけ見て、祈る人の声だけ聞いて、その人だけ気にかけてくださるって――そしてお日さまの下ではねるヤギを見ても、ほし草のなかでごろごろきゃっきゃと楽しそうに声を上げる子どもたちを耳にしても、愛してくださらないって、ほんとにそう思う? きっと、むじゃきな笑い声は、主さまの耳にも心地いいはずじゃないかな、あらたまった教会の「おごそかな薄明かり」からひびくどこまでも大きな聖歌とおんなじで。

だから、ぼくの大好きな子どもたちのために本のなかで作り上げた、あのむじゃきですこやかなたくさんのお話に、何か付け足して書くとしたら、ぼくがいずれ影の谷を歩むことになってしまっても、恥ずかしく悲しくなってしまわずに(だいたい人生は思い返すとそうなるものだから)喜んで振り返られる、そんなものになるはず。

このイースターのお日さまは、きみにも登るはずだから、「自分が生きてるってことを全身で感じて」、朝のさわやかな空気に思い切り飛び込んだらいい――これから何度もイースターの日がやってくるけど、そのあといつかはきみもよぼよぼの白髪になりながら、今ひとたびお日さまをあびようと、のろのろ出ていく――でもね、今からでもいい、ときどきは、そういうすばらしい朝には、かならず「正しい太陽」が「いやしの翼を広げて舞い上がる」んだってことを、考えてくれるといいな。

きっとそれでも、きみが幸せになるには、もっとまぶしい夜明けをいつかは見たいって思わないといけない――たとえば、枝のそよそよとか、水面もゆらゆらよりももっとあたたかい景色が目の前に現れる――たとえば、かならずや天使の手がカーテンを開いて、大好きなお母さんよりも明るい声で、新しいきらきらした一日の目覚ましをしてくれる――さらにたとえば、この小さな地球で生きてるところへ闇をもたらす、どんな悲しみも、どんな過ちも、夜中の夢が過ぎてしまうみたいに、忘れられるときが来るってね!

きみの親友
ルイス・キャロル

イースター 1876年


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