そらいろのブックカバー 第二話「きれいはきらい?」
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カテゴリー:,電子書籍 | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2012年5月22日 |

テクストにおける〈青空的な何か〉をテーマに書いてみたパート2。だいたい日曜の朝にやっているようなアニメを想定して、(プリキュア+ドラえもん+ポケモン)÷3みたいな感じでだいぶ前に作った児童文学っぽいものです。気軽な読み物としてどうぞ。(なお、当作品のご利用につきましては、お絵かきでも朗読でも、下の方にあるクリエイティブコモンズの範囲内でご自由にどうぞ。) ▲前話▲ ▼次話▼

   1

みんなの大ッキライなもの、それは冬のぞうきんがけ!

ってことには、たくさんの小学生がうなずいてくれるんじゃないかと思う。

何が? なんてことは聞かないで。ひとつずつあげようとするだけで、イヤなことが頭にうかんじゃうから。

ああ、もう!

わたしがこんなことになってるのは、もう気がついてると思うけど、そいつが来ちゃったから。

そうじ当番。

三人ずつに分けられた班《はん》で、週ごとにいろんな役やそうじ場所がぐるぐる回っていく。だからにげられない……ついに、とうとう、また、ぞうきんがけしなくちゃいけないところが、わたしたちのところにまわってきたわけで。

こうなったらこれから一週間もつづくんだから、月曜から気がめいって、そりゃぶうぶう言っちゃうよ。

メクルと同じ班のサシエちゃんとクチエちゃんだって、

「やだあ。」

「さむっ。」

ってほら、こんなかんじ。

今は冬だから水が冷たいの! さわらなくたってじゅうぶんわかるくらいに! どういうこと? なんでこんなそうじをやらせるの? 信じられる?

「信じられない。」

「ムリムリ。」

だよね。

でも……ふふふ。

わたしには、いい考えがあるんだ。思いついちゃったんだ。今のわたしになら、こんなのなんでもないこと!

だから、昼休みのあと、そうじ場所のとくべつ教室(といってもすみっこにながし台があるだけの何にもない空き部屋)へ行って、ひととおりはきそうじが終わってから、わたしはふたりに言ったんだ。

「わたしにまかせて!」

すると、サシエちゃんもクチエちゃんもおどろいて。

「えっ。」

「ほんとに!」

って聞くもんだから、わたしは自信たっぷりに「うん!」って返して。

「だいじょうぶ? なんかわるいよ。」

「うれしい! メクルちゃん、やってくれるの?」

ふたりはまるでさかさまだったけど、わたしの「いい考え」はゆるがない。だってわたしは、ついこのあいだまでのわたしとはちがうのだ。

「ぞうきんがけなんて、ばーんとすぐに終わらせちゃうから! ここで待ってて!」

って、わたしは教室からふたりをおしだして、入ってこないようにする。ないしょのことだから、見られちゃこまるし。

もうなんのことだかわかるよね。

わたしには、ふしぎなブックカバーがあるんだから!

 

だあれもいない、なあにもない教室。

今こそわたしの新しい力を見せるときだ。

今日からここのそうじになることはわかってたから、ずっと考えてたんだ、どうにかできないかって。そうしたら、ふと思いついたわけで。わたしにはこのブックカバーがあるじゃないかって。これを使えば、そうじなんてあっというまに終わっちゃうんじゃないかって。

このブックカバーは、かけた本から妖精《ようせい》を出すことができる。しかも、その本によってちがうのが出てくる。ということは、やりたいことによって出す妖精をうまく変えれば、なんでもできるんじゃない?

さすがわたし。いい考えだ。

というわけで、

わたしの右手には本。

左手にはブックカバー。

いろいろ考えて、この本に決めた。もう出す前から名前だってつけたんだ。

ムズムズは――あいつは、わたしにムズムズすることを言ってくるだけだから、きっとこういう役には立たない。ながし台にだって「これはなにかね」なんて言いかねないんだから。

わたしは本にカバーをかぶせて、目をつむってえいっと強く頭のなかでイメージする。

出てきて!

「――カペット!」

そうやって目を開けるとそこには、ちゅうにふわふわとういたキラキラのぬのみたいなのがあって。こいつは、わたしの手にある『アラビアンナイト』から飛びでてきた本の妖精。

そう、だから空とぶじゅうたんで、ぺらんぺらんしてて。

このじゅうたんって、うかぶくらいだから、どんなふうにでもじゆうに動けるわけじゃない。ということは、かってにふいてくれるぞうきんにもなるってこと。

「カペット!」

って、昨日思いついた名前をよぶと、じゅうたんの形をした妖精は、へんじのかわりにぴらんぴらんと波うつ。

「ゆかをぴゃーっとふいちゃって!」

わたし、すっごい頭いい。へっへーん。

とか思ってると、わたしの手のあたりをたたいてくるカペット。それから、ぺろりんとながし台のほうにぬののかどを向ける。

そっか、ぞうきんがけだから、ぬれないとダメだよね。水を出さないと、ってわたしはじゃ口をひねる。

サササーッ。

ん? カペットが、じゃ口をぺちぺち。

もしかしてもっと出せってこと? わかった、出すね。

ザアアアアーッ。

でもまだカペットぺちぺちん。え? まだ足りないの? わかった、じゃあ思いっきり。

ドババババババババーッ。

これでどうだ。じゃあおねがいね。あれ? どうしたの、カペット。ほら、はやくあなたのぬのでゆかをぞうきんがけしちゃってよ。

って

――っえ

 

ばしゃーん。

 

というわけで、大しっぱい。

すばやくカペットがうごいたとおもったら、いきなり水をわたしのほうにはじきとばしてきてさ。

いっぱいのつめたい水がわたしにばっしゃーん、って。

それでわたしも大声出しちゃって、びっくりしたサシエちゃんもクチエちゃんだけじゃなくて、みんなも入ってきちゃって大さわぎ。服はずぶぬれになっちゃうし、先生にまでおこられちゃったし、もうさんざん。

うちに帰って落ちこんでると、『名探偵《めいたんてい》ホームズ』にカバーをかけたままほうってあったから、そのうちムズムズがひょっこりあらわれて。

「おなやみのごようす。」

って言うもんだから。

「なにかこまったことがあるのなら、ぼくにまかせたまえ。アドバイスをしようではないか。」

ムズムズは『ホームズ』の妖精だから、とっても話を聞きたがりで、なんにでも首をつっこみたがる。なにかアドバイスをしたくてたまらないのだ。

昨日だっていろいろしゃべりながら、わたしのまわりをぐるぐる回ってたんだから。ムズムズして、うるさいったらない。

だからわたしはこう返して。

「ちがいます、しょげてるの。」

するとあいつは「ふむ」とかつぶやいて、

「それならばアドバイスのしようがないな。」

ってだけ言って、いつのまにか本にもどってて。

それにしても、今日のそうじはだめだった。あれじゃあ楽になるどころかかえってたいへんになる。

たぶん、わたしは出す妖精をまちがったんだ。つまりえらんだ本がだめだったっていうこと。そりゃそうか。ぬのっていっても、カペットからしたら自分の体。それをぞうきんにしろだなんて、いくらなんでもひどい。

どうして昨日のうちにわかんなかったんだろう! だったら、どの本にカバーをかぶせればよかったんだろうか。

そんなふうに思いながら、わたしは部屋の本だなの前に立つ。

ならんでいるのは、だいたいが子どもむけの文庫ばかりだけど。ここにある本じゃだめなんだろうか。もっと大きなカバーをつくって、大きくて背のかたい本でためす? それとも図書室からなにかかりてくる?

う~ん。

と、そのとき。

わたしはまたもひらめいた。これだったらなんとかなるかもしれない! って思って手にとったのが、『シェイクスピア物語《ものがたり》』。

わたしはにやりとして、

 

――さあて、わたしはこの本からどんな妖精を出すでしょうか?

 

こんなかんじに、自分へもんだいを出してみる。もちろんもう決まってるし、答えも自分のことだからわかりきってるんだけどね。つまりはそれくらい、いい考えだと思ったってこと。

 

「えっ。」

「また?」

わたしが「いい考えがある」っていうと、サシエちゃんとクチエちゃんはそう言って。おどろくっていうよりは、あやしんでるっていうか。

「もうやめたほうがいいって。」

「ほんとにだいじょうぶなの?」

こんどこそもんだいない、って言っても、ふたりはどこかうたがってるみたいで。

それでもなんとかおしきって、わたしだけ部屋にのこって。

昨日みたいなまちがいはぜったいにしない。あれはきっと、そうじにはぞうきんがいる、っていう思い込みがだめだったんだ。

でもこの『シェイクスピア物語』なら!

「出てきて、エアリン!」

その声であらわれたのは、まほう使いのかっこうをした妖精! 色あざやかなぼうしをかぶって、首にはひらひらしたうすいぬのをかけていて、それに顔はにっこにこ。

「なんのご用でしょーか、ご主人さま!」

って元気すぎるくらいに言ってきて。

「このエアリン、なんでもいたします!」

だからわたしはこたえた。

「この部屋を、いっしゅんでじゃじゃじゃーっときれいにしたいの!」

「そんなのおやすいご用でございます!」

エアリンはにんまり。わたしも、これはうまくいくかもしれない、って思ったんだ、そのときは。

「ではでは、ご主人さまお水を出していただけますか?」

言われたので、わたしはじゃ口をかるくひねった。

「いえいえ、ご主人さまもっと出してください!」

そういうことなら、ってもっと開いて。

「まだまだです、もっともっと!」

なので、わたしは言われた通りにして。

すると水がどばどばと流れだして。

「もうひとこえ!」

えいやっと、じゃ口を全開に!

「行きますよ!」

わたしは、わくわくなんかしてないで、じゃ口を開けるのにちょうしづいてないで、このときに気づくべきだったんだ。

自分がどの作品からこの妖精を出したのか、っていうことに。

「大あらし!」

たくさんの水がじゃ口からのびだして、たつまきみたいにうずをつくって、ごうごうと音を立てながら大きくなっていって。しかも、ものすごいいきおいで。

しまった、と思ってももうおそい。あっというまのことだった。その水は、こうずいみたいに部屋じゅうをつつみこんで……

「ちょっ――エアリっ――ごぼぼぼぼ……」

わたしはまたつめたい水をかぶってしまったのだった。

 

「どうしてあんなことしたの!」

って言葉は、あのあとわたしが言われたことでもあったし、言ったことでもあった。ひとつには、先生からおこられたときの言葉。もうひとつには、そのあと帰るとちゅうに本から妖精を出して、エアリンをおこったときの言葉。

「だって……」

ってここでつまったのも、わたしとエアリンは同じで。

「ご主人さまが……」

「つべこべ言わないで! あなたのせいでおこられたんじゃない!」

二日つづけて大しっぱい。

わたしはイライラしていたんだと思う。なにに? それとも、だれに?

わからない。

もしかすると自分にかもしれないんだけど、そのむかう先は目の前にいるエアリンで。それが正しいのだとすると、これはきっとやつあたり。

でも、おさまらなくて。むかついてる。うまく行かないことに。うまくできないことに。

「あの、ですからその、もっ……」

「うるさいうるさいうるさい!」

自分で自分をとめられないから。

「役に立たないんなら、どっか行っちゃえ!」

すると、エアリンの声がしなくなって。

はっとして首を動かすと、エアリンはうるうるとなみだを目にためてて。

「ひどいです、ご主人さま。」

そう言って。

「うわあああああ~ん。」

エアリンはどこかに行ってしまった。

わたしもふんってなって、そのままうちまで歩いていく。

イライラしながら。

それじゃあいったい、なにを出せばいいっていうの? やっぱり本がだめなの? なにかべつの、べつの。

そうなんだ。わたしがわるいんじゃないし、本のせいなんだし。まったく、イヤになる。

って。

そんなことを考えると、わたしはますますむかむかしてきて。昨日も今日も、服はびしょぬれで、きもちわるくて。やなことばっかり頭によぎる。

そしてわたしは、どんどんだめになる。そんなだめな自分にも、きっとむかついてるんだけど。なのに、わたしは知らんぷり。

 

うちに帰ってひとりぷんすかしていると、やっぱり『名探偵ホームズ』にカバーをかけたままほうってあったから、そのうちムズムズがひょっこりあらわれて。

「おなやみのごようす。」

って言うもんだから。

「なにかこまったことがあるのなら、ぼくに聞かせたまえ。アドバイスをあたえようではないか。」

ムズムズは気になったことがあると、なにかかぎつけると、こうやってすぐわたしの近くにやってくる。かかわりたくてしかたがないのだ。

こんなにむかむかしてるっていうのに、わたしのまわりをぐるぐる回ってるだなんて。ムズムズして、うるさいったらない。

だからわたしはこう返して。

「ちがいます、イライラしてるの!」

するとあいつは「ふむ」とかつぶやいて、

「しかし、ぼくは引き下がらないぞ。」

って、こんどは本にもどらない。

「なぜなら、昨日のきみと今日のきみはちがうからだ、そうではないかね?」

ぎくりとして、わたしは動けなくなる。こういうふうに、ムズムズはわたしの心をぐっさりとつきさしてくるやつなのだ。

「なにが?」

って、わたしが聞きかえしても。

「それはきみがいちばんわかっているはず。」

なんだもん。

「さあ、こまりごとをしゃべってみたまえ。」

わたしは、あんまりにもむかついたから、ムズムズにかみつくつもりで大きな声をかえしたんだ。

「……どうして、どうしてうまくおそうじできないの!?」

なのに、ムズムズは顔色ひとつ変えないで。

「どうして、か。なるほど。しかし、その『どうして』のなかみをちゃんと考えたかね?」

って、いつものちょうし。

「考えた! そんなの、えらんだ本がわるいに決まってるじゃない。」

「ほんとうに?」

ムズムズはくるくる回りながら、へんじを待ってたみたいだけど、わたしがなんにも言わないから、

「きみはなにがしたい。」

って聞きなおす。

「だからおそうじだって!」

「本になにをさせたい?」

「だからとくべつ教室のおそうじ!」

ムズムズする話が、またぐるぐるしてる。

「とくべつ教室のおそうじとは、いったいなんだね?」

「ゆかをきれいにするの。」

「ゆかをきれいに? どうなふうにするんだね?」

「そんな話してるんじゃなくって!」

「いいから、言ってみたまえ!」

わたしはしぶしぶ、ちいさな声でこたえる。

「まずゆかのゴミをあつめて、それからぞうきんをぬらして、しぼって、ゆかをすべらせて、きれいにするの。」

するとムズムズは、うんうんとなんどもうなずいて。

「うむ。よくわかった。」

「そーですか。」

「しかし、そう言われなければ、ぼくにはわからなかった。」

わたしは心のなかで、……そんなの言わなくたってわかるじゃない……って、ぼやいた。

でもそこで、ふと気づいた。かもしれないって、思った。

もしかすると、エアリンもわからなかったんじゃないかって。しごとのなかみが。

そうか。なんだ。……そうだったんだ。

 

わたしは本にカバーをかぶせて、ゆかに置いて声をかけてみる。

「ねえ、エアリン。」

けれども、なにも返ってこない。

そこで、なんとなく部屋のすみに置きなおして、わたしももういっぽうのすみに行って、遠くからよんでみる。

「おうい、エアリン、出ておいで。」

すると、ぼんやりとすがたがあらわれてきて。これはたぶん、エアリンだ。その場にしゃがみこんで、下をむきながらエアリンはなにやらぶつぶつとつぶやいていた。

耳をすましてみると、

「……ごめんなさいごめんなさい、わたくしは役立たずでだめな妖精です。わたくしなんかがいてもどうしようもないですよね、そうですよね……」

って、落ちこんでいる。

さっきのがそうとうこたえてるみたい。

「エアリン、さっきはきつく言ってごめんね。」

って言ったんだけど、でも、

「いいんですいいんです、ほんとのことですから、わたくしはもうだめだめなのです、元からそうなのですごめんなさいごめんなさい……」

ってかんじで。

わたしは気を取りなおして、

「そんなことないよー。わたしはきみに手つだってほしいんだよっ。」

その声に、エアリンの耳がぴくぴくと動く。

「きみの力がいるの、かりたいんだよっ。」

しばらくエアリンはじっとしたままだったんだけど、そのうちにゆっくりとこっちへやってきて、わたしのまえで一回しんこきゅうをすると、

「ご主人さま、なんでございましょう!」

って、元の笑顔にもどってて。

「えっと。」

わたしは考える。

とりあえず、ちゃんとできることを聞いたほうがいいかな。

「きみは、どういう力がつかえるの?」

「わたくしは、風の力をじゆうにあつかうことができます。そよかぜ、とっぷう、たつまき、うずまき、なんでもござれ。」

そこで、わたしはさっきムズムズに言ったみたく、やりたいことをくわしくつたえてみた。とくべつ教室のそうじがどういうもので、どういうことをかわりにやってもらいたいか、って。

ひと通り聞きおわると、その妖精はムズムズと同じようにうんうんとなんどもうなずいて。

「ふむふむ、なるほど。」

「なにかいいやりかた、ある?」

わたしは、今までのこともあったし、あんまりうまく行ってなかったからとってもふあんだったんだけど。

その問いかけに、エアリンはへへへと笑って、

「では、このようなのではいかがでしょう!」

 

三どめのしょうじき。

サシエちゃんとクチエちゃんは、

「ま、まじめにおそうじしよう? ね?」

「どうせだめだと思うから、やるだけむだなんじゃないかな?」

って、とめようとしたりあきれてたりしたんだけど、わたしは「これがさいご」だっておしきって。

またひとり教室のなか。

もうわたしはしっぱいしない。

「エアリン!」

よぶと、妖精が本から出てくる。

「はい――――っ! ご主人さま!」

「うちあわせた通りに行くから!」

「かしこまりましてでございます!」

わたしもエアリンも気合いはじゅうぶん。

今日こそ、このにっくきそうじをやっつけてやるのだ。

まずはアイコンタクトをかわして、わたしがじゃ口をひねる。出てくる水は、多すぎず少なすぎず。それからながし台のなかにぞうきんを何まいもほうりこむ。じゅうぶんぬれたところで、水をとめて。

「エアリン、まずはおねがい!」

「はいぃ――――っ!」

すると風でぞうきんがうかんで、くるくるとねじれて、しぼられていく。ぎゅーっと、ぎゅぅぅぅーっと。

「おおおおおお。」

「すすぎでございますっ!」

で、しぼられたたくさんのぞうきんは、エアリンの風にのって教室のあっちこっちに。

わたしがわくわくしてると、エアリンはこっちを見て。そうそう、わたしが合図を出すんだった。

「じゃあ、行くよ。」

「はい。」

「いっせーので、……スタート!」

かけ声といっしょに、エアリンの風で教室じゅうのぞうきんが右に左に! つるるるるるる――っ!

それが終わったら、今度はぞうきんが前に後ろに。エアリンもわたしも楽しくなってきちゃって、わたしが「つぎは丸!」っていうと、教室をぞうきんがぐるぐる。それで、「三かく」とか「四かく」って言うたびに、いろんな形にぞうきんが動くの。

そんなことをしてるうちに、気がついたら、ぴっかぴか。

わたしとエアリンは目を目を合わせて。

「やった――――っ!」

「できたでございます!」

もう、おおよろこび!

そこへおそるおそるサシエちゃんとクチエちゃんも入ってきて。エアリンはぱっとかくれたんだけど。

「またなにかあったの……?」

「もうおこられるのはイヤなんだけど……」

って、ふたりは言いかけたところで、きれいになった教室を見てびっくり。だって、ほんの一分くらいで、ぞうきんがけが終わってたんだもん。どこもかしこも、すっきりぴかぴかになってて。

「うそ……!」

「すごい!」

あまりのことに、言葉もないみたい。

それからまたさわぎになってやしないかと、先生も見にきたんだけど、きれいになってたから安心して、そのまますごすごともどっちゃった。

 

「ありがと、エアリン!」

「こんなのちょちょいのちょいでございます!」

わたしとエアリンは、その日うちに帰ったあと、うまく行ったのがうれしくてうれしくて、ふたりして部屋のなかでもりあがっていたのだった。

「わあい!」

「いやっほお!」

って、もういちどよろこびの声をあげる。

「もうこれで、おそうじはばっちりだね!」

「そうですね、ご主人さま!」

そのとき、わたしの部屋は毎日つづいたふきげんのせいで、ぐっちゃぐちゃにちらかりほうだいだったわけで。

おこってはなげ、おこってはあばれ。っていうほどひどくもないけど、むかむかしてると手につかないことってあるから。だから、なんというか、片づけるひまもなくて。

「じゃあじゃあ、このいきおいで、この部屋もちょちょいっておそうじしちゃおうか!」

「かりこまりてでございます!」

なにも考えずに、こう言っちゃったわたしが、すっごくバカだったんだと思う。

「とおりゃー!」

エアリンがさけぶと、部屋じゅうに強い風がふきあれて。

たつまきがぐるぐる。つむじかぜがごうごう。たてよこななめ、上下左右。いっしょにあたりにおちてたモノもみんなまいあがって、ぐーるぐる。それからゴミも、ちりも。くずかごもとんでったから、入ってたのもみんなぶちまけちゃって。

もう、部屋のなかに台風が来ちゃったみたい!

「わあああああっ!」

「わはっはー!」

エアリンはとまらない。むしろ、どんどんはげしくなっていって。

「ちょっ……エアリっ……げほげほ。」

声をかけてどうにかしようとしても、ほこりが口とか目とかに入って、なんにもできなくて。

「ふふふふ~ん。」

たのしそうにエアリンは笑ってる。

おねがい、やめてってば! って、そんな心の声もとどかない。あとモノがこつんこつんあたってきて、ちょっといたい。ちゃんと言わなきゃ、って考えたばっかりなのに。これじゃあ前といっしょじゃないの!

ほんっとに、わたしのバカ!

 

おさまるまでに、しばらくの時間がひつようで。

それよりもなによりも。もちろんこのあとわたしは、さわぎを聞きつけたママにおこられたのだった。

 

10

そんなこんなでやっぱり落ちこんでると、ちらかったモノのなかにうもれていた本のなかから、いつのまにかムズムズが出てきてて。

「おなやみのごようす。」

って言うもんだから。

「なにかこまったことがあるのなら、ぼくが聞こうではないか。アドバイスならできるぞ。」

ムズムズはタイミングがいいのかわるいのか、こういうことがあるとすかさずあらわれる。まったく気がきくのかきかないのか、わからない。

今だっていろいろしゃべりながら、わたしのまわりをぐるぐる回ってるんだから。ムズムズして、うるさいったらない。

だからわたしはこう返して。

「ちがいます、へこんでるの。」

するとあいつは「ふむ」とかつぶやいて、

「しかしきみの形はどこも変わってはいないのだが。」

って言って、それから、

「それにしても、この部屋はすさまじいことになっているな。これはどうしたことか。」

って、ムズムズはぐるりと部屋を見まわす。

ぐっちゃぐちゃの、ごっちゃごちゃ。本もペンも服も、なにもかもがちらかってて。これから片づけなきゃいけないって考えるだけで、気がおもくなる。どうしようもないってかんじで、

「おそうじしたの。」

って、わたしが答えると、

「はて、おそうじとはきれいにすることでは。このありさまを見るに、むしろ前よりもきたなくなっている。なぞだ。きれいはきたない、きたないはきれい。」

こんなこと言うんだから。

ときどき、ムズムズはぜんぶわかっててわたしをおちょくってるんじゃないか、って思うことがある。

もう、ムズムズするっ!

 


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