イーダちゃんのお花(ホ・セ・アナセン/大久保ゆう訳)
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カテゴリー:,青空文庫 | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2020年8月4日 |

イーダちゃんのお花

Den lille Idas Blomster (1835)


「かわいそう、あたしのお花がかれちゃってる!」っていったのは、イーダちゃんって子。「ゆうべはすっごくきれいだったのに、今は葉っぱもみんなぐんにゃり。どうなってるの?」って、その子は、ソファのところにいた大学生のお兄さんにきいた。だって、その子はお兄さんがだいだい大好きでね、お兄さんはなによりもすてきなお話ができて、おもしろい切り絵も作れたんだ。たとえば、ハートのなかにおどり子が入ってるのとか、花とか大きなおしろとかで、とびらがあけしめできたり。きさくな学生さんだったんだ!「お花さん、どうして今日は具合が悪そうなの?」ってもう一回きいて、それからすっかりしおれたお花のたばを、まとめてお兄さんに見せた。

「あれあれ、知らないの?」っていったのは学生さん。「お花さんは夜のあいだ、ダンスパーティに行ってて、だからくたくたなんだよ!」

「でも、お花さんはおどりなんてできないよ!」って、イーダちゃんはいう。

「できるよ。」って、学生さんはいってね、「暗くなって、ぼくらがみんなねむりにつくとね、あたりで楽しそうにぴょんぴょんするんだ。くる夜もくる夜もパーティをするんだよ!」

「子どもはパーティに行っちゃダメなの?」

「行けるよ。」って学生さんはいってね、「ちっちゃなカモミールも、スズランだって!」

「いちばんすごいお花がおどってるのはどこなの?」

「たまに、門の外へ出て、あの大きなおしろのそばまで行くよね。あそこは王さまが夏のあいだお住まいにするところで、そこにはすてきなお庭があって、お花がさきそろってる。そうそう、白鳥もいたよね。パンくずをやったら、こっちへ泳いでくる。あそこで、ほんとのダンスパーティをやるんだ、ほんとだよ!」

「あたし、きのうママといっしょにお庭へお出かけした!」ってイーダはいってね、「でも、葉っぱはぜんぶ落ちちゃってて、お花なんてこれっぽっちもいなかったよ! どこにいるの? 夏のときは、あたし、たあくさん見たのに!」

「おしろの中にいるんだ。」っていったのは学生さん。「いいかい、王さまとおともが全員そこから町のほうへお引っこししたら、もうすぐさま、お花さんたちはあっというまにお庭からおしろのなかへかけこんで、遊ぶんだ。見せたかったなあ! なかでもいちばんきれいな二本のバラが、おくのイスにすわってね、王さまとおきさきさまってわけ。まっ赤なケイトウはずらっとわきによって、ならんでおじぎして、こちらは宮づかえの人たち。――で、とびきりすてきなお花だけが集まってね、それで大きなダンスパーティをひらいて、スミレは小さな見習いの軍人さんってことになってて、ヒヤシンスやクロッカスとおどっては、おじょうさん、なんて声をかけるんだ! チューリップや大きめの黄色いユリは、そうだね、おばさまがたで、人がうまくおどれるよう、パーティがうまくいくよう、とりはからうんだ!」

「でも。」ってイーダちゃんはきいてね、「だれかに、お花さん、なにかいわれたりしないの? 王さまのおしろでおどるんでしょ。」

「まだだれにも気づかれてないんだ。」って学生さんはいってね、「たまには夜中に、そりゃあ、おしろをあずかってるおじいさんが来るには来て、見回りしなくちゃいけないんだけど、カギをぶらさげるから、お花さんもカチャカチャって音をきくとすぐにね、いっせいにしーんとなって、大きなカーテンのうらにそっと身をかくして、頭だけちょっと出すんだ。『においがするな、なかに花でもあるんだな。』って、おじいさんはそういうんだけど、じっさいにはなにも見えない。」

「おもしろい!」ってイーダちゃんはいって、ぱちぱちと手をたたく。「でも、あたしにもお花さんは見えないの?」

「見えるとも。」って学生さんはいってね、「大事なのは、今度行ったときには、ちゃんとまどからなかをのぞくことでね、はっきり見えるよ。ぼくも今日のぞいてきたら、すらっとした黄色のスイセンがソファにねそべって、くつろいでた。あれはお世話係だね!」

「お花さんは植物園からもやってくるの? 遠いとこからも来るの?」

「ああ、もちろんだよ!」って学生さんはいってね、「だって、やろうと思えばね、みんな飛べるんだよ。きれいなチョウチョが飛んでるのは見たことあるよね。赤いのや黄色いの、白いのとか、あれって、けっこうお花みたいに見えるよね。実は、ほんとにお花で、お花がクキをはなれて、空にぴょんととびあがって、花びらをぱたぱたさせて、小さな羽みたくね、それで飛ぶんだ。うまくこなせるようになったら、日のあるうちは飛び回ってもいいっていうおゆるしがもらえるから、もう元の場所で、クキでじっとしてなくてもよくなるからね、それでとうとう花びらが本物の羽になる。そいつを見てるわけさ! でももしかすると、植物園にいるお花はまだ王さまのおしろに行ったことないのかもしれないし、そこで夜に楽しいことしてるなんて知らないのかもしれない。だからね、じゃあこんなことを教えてあげる! おどろくだろうなあ、あの植物の博士、ほら、おとなりさんだよ、もちろん知ってるよね? あの人の庭へ行ったときに、どれでもいいから、お花に教えてあげるんだ、おしろで大きなダンスパーティがあるよってね、するとそのことをまたほかのみんなにもいうから、みんなクキをはなれて飛んでいくよ。博士が庭に来るころにはね、一本の花もいなくなってて、もう博士にはさっぱり、どこに行ったのかわからないってわけ。」

「でも、お花さん、どうやってほかのお花に知らせるの? だって、お花さんってお話できないよ!」

「うん、たしかにできないよ!」って学生さんはいってね、「でもね、身ぶりでやるんだ! 見たことないかな、ちょっと風がふくとね、お花がいっせいにうなずいて、葉っぱをみんなそよそよさせて、なにかやってるよね、お話ししてるみたいに!」

「博士はその身ぶりのことわかってるの?」っていうイーダのしつもん。

「ああ、もちろん! 朝、庭へ出ていくとね、大きなイラクサが葉っぱを動かしてて、相手はすてきな赤いカーネーション。きみはとってもかわいい、ぼくはきみが大好きだ、とかいって! でもそんな話、博士はもうぜんぜん好きじゃなくて、すぐにイラクサの葉っぱめがけてばちんとたたいたんだ、葉っぱというか指になるんだけどね、すると手がひりひりして、それからはぜったいイラクサにはさわらないようにしてるんだって。」

「おもしろおい!」ってイーダちゃんはいって、笑うんだ。

「そんなことを子どもにふきこみおって!」っていうのは、ネクラな相談役で、立ちよってソファにすわっていたんだ。その人は学生さんを毛ぎらいしていて、いつも口をはさむんだ。学生さんがおかしな、おもしろい切り絵をしているときとか。たとえば、手にハートを持ったまま、首をつるされた男の人の切り絵とか、つまり、ハートどろぼうなのさ。ほかには、ほうきに乗ったまじょで、だんなさんを鼻に引っかけているのとか。そんなの、相談役の人はきらいでね、そこでこんなふうにいうんだ。「そんなことを、子どもにふきこみおって! たわけた作り話だ!」
でもイーダちゃんは、学生さんがお花について教えてくれたことが、心の底からおもしろくて、なんどもなんども思い出すんだ。お花はぐにゃりとしてるんだけど、だってそれはひとばんじゅうダンスをしてへとへとだからで、病気かもしれない。それでね、お花をほかのおもちゃのところに連れてって、その子たちはこぢんまりしたテーブルにならんでいて、引き出しにはたからものでいっぱいでね。お人形のベッドには、ソフィっていうお人形さんがいて、ねむってたんだけど、イーダちゃんはその子にこういうんだ。「起きてちょうだい、ソフィ、ごめんね、今日は引き出しでねてくれるかな、かわいそうに、お花さんが病気なの、だからね、ベッドでねたほうがいいと思うの、たぶん元気になるから!」それでね、お人形を持ち上げたんだけど、すごくすごくふきげんで、口もきいてくれなくて、そりゃあお人形さんおこるよ、だって自分のベッドを使わせてくれないんだもん。

イーダはね、お花さんたちを人形のベッドにねかせて、小さな毛布を上までかけて、いうんだ、いいこと、おとなしく横になっててね、お茶を入れてあげるから、そうしたら元気になって、朝も起きられるからって、その子はベッドわきのカーテンをぐっと引いて、日ざしが目にさしこまないようにしたんだ。

夜のあいだずっと、その子の頭にうかんでくるのは、学生さんの教えてくれたことばかりで、じぶんがベッドに入る時間になると、なによりまどにかかっているカーテンのうしろに首をつっこんで、そこにはママのすてきなお花があって、ヒヤシンスとチューリップのふたつなんだけどね、ひそひそとこういうんだよ。知ってるんだから、今日ダンスパーティに行くんでしょ! でもお花さんは知らんぷりして、葉っぱをぴくりともさせないんだけど、イーダちゃんは知ってるんだからって、ぐっとする。

ベッドに入ってしばらく横になってても、考えるのは、向こうの王さまのおしろで、すてきなお花がおどっているところが見られたら、どんなにいいだろうってこと。「あたしのお花も、ほんとに行ってたのかな?」でもね、ねむっちゃうんだ。真夜中に、また目がさめて、ちょうどゆめに見てたんだよ、お花のこととか、学生さんのこととか、相談役の人におこられて、そんなことふきこんでっていわれたこととか。そこはしぃんとしずまりかえっていたんだ、イーダがおやすみしている部屋のことだよ。わきのテーブルにランプをつけたまま、パパもママもねむってた。
「あたしのお花さん、ちゃんとソフィのベッドでねてるかな?」って、ひとりごとをいってね、「たしかめたくってうずうずする!」その子がからだを起こしてドアのほうを見ると、半開きになっていて、その向こうで花もおもちゃもみんなねむってるんだ。その子がきき耳を立てると、なんと、きいてるのがわかってるみたいに、ピアノの音が部屋のなかから流れてきたんだけど、ほんとにかすかなのに、すごくかわいらしくて、今まできいたことのない音楽だったんだ。

「今、なかでお花さんがみんなおどってるのね!」ってその子はいってね、「やった、見たくてうずうずする!」でも行くに行けなくて、だってパパやママが起きちゃうからね。「こっちに来てくれたらいいのに!」っていうんだけど、お花は来ないし、かわいい音楽はずっときこえるし、もうねてられなくなって、だってなにもかもがかわいらしいんだから、その子は小さなベッドをぬけだして、こっそりドアのほうに近づいて、部屋のなかをのぞいたんだ。すると、楽しい楽しい景色が、目のまえに広がったんだ!

なかに明かりはひとつもついてないんだけど、それでもとても明るくて、月の光がまどからゆかの真ん中にさしこんでたんだ! お昼と見まちがえるくらい。ヒヤシンスもチューリップもみんな、ゆかに二れつでならんでて、まどのところにはなにもなくて、からっぽの植木ばちだけで、下のゆかではお花さんがみんなおどってて、すごくかわいらしくおたがいのまわりをぐるぐる、じゅんじゅんにクサリを作って、緑の長い葉っぱをつないで、まわっていたんだ。でもピアノのそばにすわってるのは、大きな黄色のユリで、どうもイーダちゃんが夏のときぜったいに見たことあるやつで、だって、そういえば、学生さんがこんなことをいってたんだ。「ああ、リーヌおじょうさんみたいだ!」でもそのときいっしょにいた人はみんなお兄さんのことを笑ったんだ。でも今となっては、イーダにもほんとのことに思えて、黄色の細いユリはおじょうさんだって、それにひきかたもまったく同じだし、細長い顔をあっちにかたむけては、こっちにかたむけて、かわいい音に合わせてうなずいたりするんだよ! だあれもイーダちゃんには気づいていなかった。でね、その子の目のまえで、大きな青いクロッカスがテーブルの真ん中にとびあがって、まわりにはおもちゃがならんでるんだけど、お人形のベッドに近づいて、カーテンをわきに引くと、病気のお花がねていたんだけど、ひょいと起きあがって、 下にいる仲間に、自分たちもおどりたいとうなずいたんだ。けむりをはくおじいさん、下くちびるがぷっくりしててさ、その人形が立ち上がってお花たちにおじぎをするんだけど、そのお花さんはすっかり元気で、もう具合も悪そうじゃなくてね、仲間のあいだに飛びおりると、もうはしゃいではしゃいで。
そのときなにかテーブルから落ちたのを、イーダは見たんだけど、なんとカーニバルのときの枝のたばで、じぶんだって花の仲間なんだって思いこんで、飛びおりたんだ。それもけっこうかわいくたばにしてあって、頭のほうに小さなろう人形がすわってて、そいつ横に長いぼうしをかぶってて、まるで相談役の人みたいなんだ。たばには、作りものの赤い足が三本あるから、お花さんたちのど真ん中に飛びこむと、強く足ぶみして、それって、マズルカをおどったからなんだけど、ほかのお花さんにはおどれなくて、だって、お花さんって軽いから、足でどんどんなんてできないもんね。

するといきなりろう人形がたばの上で、でっかくなってのびていって、紙でできた花の上でぐるぐる回りながら、大きな声でがみがみいうんだ。「そんなことを、子どもにふきこみおって! たわけた作り話だ!」ってね、ろう人形ってほんと、横に長いぼうしをかぶった相談役みたいなやつでね、きまじめでね、顔色が悪いし、気むずかしいし、でも、紙のお花がそいつの細い足を引っかけるとね、そいつはまたしぼんでいって、ちっちゃなろう人形になったんだよ。いやあ、ほんとにおもしろいよね! イーダちゃんも思わずふきだしちゃったんだ。たばのほうはずっとおどりを続けてたから、相談役もいっしょにおどらなくちゃいけなくて、でっかくなったりのびてみたり、またおっきな黒いぼうしをかぶって顔色の悪いちっちゃなろう人形になってみたりしても、どうしようもなくて。で、ほかのお花さんがお願いいして、とくに、人形のベッドにねてたお花さんたちがお願いしたんだけど、それでやっと、たばもおとなしくやめたんだ。すると、引き出しのなかからどんどんとたたく音がきこえてきたから、イーダはその場所のことを思い出して、ソフィがいっぱいのおもちゃといっしょにねている場所だって。けむり人形がテーブルのふちまで走って、ぺたんとうつぶせになって、引き出しをほんのちょこっとあけたんだ。とたんにソフィがぴょこんと起きあがってね、周りを見てびっくりぎょうてん。

「これって、もしかしてダンスパーティ!」っていってね、「どうしてだれも、あたしに教えてくれなかったの!」

「わしとおどらんか?」って、けむり人形がいったんだけど。

「ふぅん、けっこうなお相手だこと!」っていって、そっぽを向いちゃった。そのお人形は引き出しにすわってね、考えたんだ、ひょっとしたらお花の一本でもこっちにお願いしにくるかなって、でもどいつも来ないからね、そのお人形はせきばらいをしたんだ、えへん、えへん、えへん! でもそれでもだれも来ない。けむり人形はひとりきりでおどったんだけどね、目もあてられない。

もうだれもソフィを見ようともしないから、そのお人形は自分で、引き出しから床のほうへまっすぐ飛びおりてね、それでみんなが顔を向けたんだ。お花さんがわらわらとお人形のまわりに集まってきて、たずねるんだ、ケガはありませんかって、みんなすっごくやさしくて、なかでもお人形のベッドでねていたお花がさ。そのお人形にケガはちっともなかったんだけど、そのお花さんたちはいうんだ、ありがとう、ここちいいベッドでしたって、すごくよくしてくれて、そのままその人形を連れて、ゆかの真ん中、月明かりのかがやくところへ行って、いっしょにおどって、ほかのお花さんたちは輪になってぐるりとかこむ。もう、ソフィはうれしくって! こういうんだ、ずっと自分のベッドでねてくれてもいいって、ねどこが引き出しでもぜんぜん気にしないから。

でもお花はこういうんだ。「あなたにいっぱいおれいしなくちゃ、でもぼくらそう長くは生きられないんだ! 朝にはぼくらはみんなかれちゃう。でも、イーダにつたえて、ぼくらのおはかを庭に作ってほしいって、カナリヤのそばだよ、ぼくらは生えて、また夏までには、ずっと、もっときれいになるから!」

「そんな、かれちゃダメ!」ってソフィはいってね、お花さんにキスしたんだ。ちょうどそのとき、大きなお部屋のドアがあいて、おおぜいのかわいいお花がおどりながら入ってきたもんだから、イーダは頭がごちゃごちゃになって、いったいどこから来たんだろうって、でもぜったい、みんな王さまのおしろをぬけてきたお花なんだよ。先頭には、すてきなバラが二本歩いていて、小さいかんむりをかぶってるから、王さまとおきさきさまでね、そのあと、なによりすてきなストックとクローバが続いて、りょうわきにごきげんようっていったんだ。楽器を持ってたのは、大きなケシとボタンシャクヤクで、エンドウのさやをふいてたから、顔じゅうがまっ赤になってた。青いイトシャジンとちっちゃな白のマツユキソウはリンリンと音がして、すずを持ってるみたいだった。それはもう楽しい音楽でね、ぞろぞろとほかのお花もくわわって、みんないっしょになっておどったんだ、青いスミレも、赤いヒナギクも、カモミールもスズランも。それでお花さんはみんなおたがいにキスをしたんだ、かわいらしいったらありゃしない!

最後になって、お花さんはそれぞれおやすみをいって、イーダもしのび足で自分のベッドに行ったんだけど、ゆめを見たんだ、こうして見てきたことぜんぶを、そのまま。

あくる朝その子は起きると、かけ足で小さなテーブルのところへ行って、だってお花さんがまだいるかどうか見たかったから、小さなベッドについてるカーテンをわきのほうへ引っぱると、うん、みんななかよくねてたんだけど、でも前の日より、もっとずっとひどくなってるみたいなんだ。ソフィも引き出しでねてて、たしかにそこにしまっておいたんだけど、そのお人形、すごくねむそうにしてるんだ。

「ほらほら、あたしにいうことがあるんじゃないの。」ってイーダちゃんはいったんだけど、ソフィはどうもぼうっとしてるみたいで、ひとこともしゃべらないんだ。

「まったくダメな子ね。」ってイーダはいってね、「せっかくみんながいっしょにおどってくれたのに。」その子は小さな紙の箱を持ちだしてね、そこにはかわいい鳥さんがえがいてあって、箱をあけて、しぼんだお花を底にしまったんだ。「これで、かわいいおかんになるかな。」ってその子はいってね、「あとで、ノルウェーのいとこがここに来たらね、あなたたちのおはかをお庭に作ってあげるから、ぜったい夏までに大きくなるんだよ、それでいっぱいいっぱいきれいになるんだよ!」

ノルウェーのいとこっていうのは、ふたりの元気な男の子で、名まえはヨーナスとアドルフ。ふたりのパパが新品の弓を買ってくれたから、イーダに見せようと思って持ってきた。その子はふたりにいいつけて、かわいそうに、お花、かれちゃったね、だからおはかを作ってもらったんだ。ふたりの男の子が前で、弓をかたにかついで歩いて、イーダちゃんはうしろから、かれたお花をかわいい箱に入れて、持ってった。お庭のすみに、小さなあなをほったんだ。イーダはお花にキスをしてから、箱といっしょにあなのなかに入れて、それからアドルフとヨーナスがおはかの上の空をねらって、弓をうったんだ、だって、その子たち、てっぽうとかたいほうとかは、持ってなかったからね。

(※挿絵は、Vilhelm Pedersen (1820-1859) によるもの)


訳者コメント

■2008年6月訳出(けっこう昔)。いわゆるアンデルセン童話で、デンマーク語原文から。商業のお仕事として訳したものですが、この文が出版されたわけではありません。(参考用)

■デンマーク語原文は、文章語というよりも、むしろしゃべり言葉に近いです。アンデルセンが近所の子どもに語ったお話をそのまま再現したそうな。(つまり学生≒アンデルセン)

■文章としてはちょっと破格というか、文法や文のつなぎとしても、おかしいところはたくさんあるのですが、だいたいそのまま。また原文にはsaa(サー)という言葉が頻繁に出てくるのですが、これはテンポやリズムのために間に挟むものなので、日本語では原文にある箇所とできるだけ一致するよう「~ね」に対応させて、アンデルセンの語りの持ち味を伝えようとしてました。(この試みはのちのアリス翻訳へと続く)

■アンデルセンも、もっと色々とデンマーク語原典から訳せるといいのですが、青空文庫にも訳文がたくさん増えてきたのもあって、お休み中。


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