地底から不思議へ:ルイス・キャロルの加筆をたどる 第0回
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カテゴリー: | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2015年1月6日 |

【凡例】
修正:草稿→修正▼
削除:削除→▼
加筆:▲→加筆▼


アリスの地底めぐり→はふしぎの国で▼

 

▲ありふれた
クリスマスのおくりもの
かわいい子へ
ある夏の日の思い出に→▼

▲→ぜんぶ きんきら ごごのこと
ゆるーり すいすい ぼくらは すすむ
2ほんの オールで ぎこちなく
ほそい かいなで こいでゆく
しろい おててが かっこうだけは
うねうね つづく さきを しめす

おお きびしい 3にんの ひめ!
よりによって こんなとき すてきなてんきに
いきも きれぎれ はね1ぽん びくとも
させられないのに おはなしを せがむなんて!
でも しゃべるくちは ひとつしかないんだよ
3にん いっしょに いわれても……!

ふんぞりかえる 1のひめ こっちを
にらんで さしず 「おはじめなさい」
おしとやかにも 2のひめの おのぞみは
「すっからかんな おはなしが あるといいな!」
それでいて 3のひめは かたるそばから
1ぷんに 1どは ちゃちゃいれるし

やがて たちまち しずまりかえり
おもいえがいて たどっていくのは
びっくりどきどき ふしぎの せかいを
ゆめの 子どもが どんどん ゆくさま
とりや けものと おしゃべりしながら――
じぶんでも なんだか ゆめうつつ

するうち ものがたり いきづまり
おもいつきも そこついて
そこで へとへと ふらふらのため
なんとか ひとまず うちきろうと
「つづきは またこんど――」「いまが こんど!」
と おおごえで はしゃがれる

かくして ふしぎのくにの おはなしが うまれ
こうして ゆっくり ひとつずつ
へんてこな できごとが ひねりだされて――
そして ここまで はなしは おしまい
ふねを おうちへ むける にぎやかな いちどう
うしろで おひさま しずんでいくよ

アリス! おとぎばなしを どうぞ
それから やさしい おててで そなえてほしい
おもいでという ひみつの いとで
ぬいこまれた こどものときの ゆめに
いまはもう しおれてしまった
はるかとおくで つんだ はなわに▼


本年2015年は、Alice’s Adventures in Wonderland が出版されて150周年。今回お届けするアリスは、その作者ルイス・キャロルがアリスにプレゼントした草稿(手稿)である Alice’s Adventures Under Ground からどのように加筆修正したかを、翻訳で追いかけていくという企画です。

個人的なお話ですが、前々から『不思議の国のアリス』をそれ単体で訳出することに、そこはかとない違和感・抵抗感がありました。草稿があって、本稿があるものを、その過程を追わずに、それだけ訳してしまっていいものだろうかと。そこで以前『アリスの地底めぐり』と題して手稿版を訳す前から、これはどうあっても、キャロルと同じように(そして同じ年齢で)、その書き換えを辿っていきたいというふうに考えておりました。

そうして実際にやってみると、こんなことを付け加えたのか、こんな記述を削ったのか、と当人としてもいろいろと驚きがありました。当初は、書き換えたあとのものだけをいつものようにフリー翻訳として公開しようと思っていたのですが、続けるうちこの〈書き換え〉そのものも楽しんでほしいと思うようになり、そこで(もちろん完成版は別に公開しますが)まずはそちらを、みなさまにお届けしようと思ったのです。

見せ方については、試行錯誤しながらやっていくつもりですが、ひとまず第0回としてタイトルと巻頭詩を。そして毎回訳者からのコメントも添えて、(今のところ週刊で)お送りする予定です。よろしくお願い申し上げます。


第0回訳者コメント

■タイトルは「アリスはふしぎの国で」としました。もはや趣味の問題ですが、前から妙に思っていたのが、Alice in Wonderland はアルファベット順だと〈A〉、つまりいちばんはじめの文字のところにあるのに、『ふしぎの国のアリス』だと五十音で半分よりも後ろにあるじゃないか、ということ。Aから始まるものなので、やっぱり〈あ〉から始まってほしいな、と思ったのです。

■それと、このタイトル略形の Alice in Wonderland ってフレーズ、なんだかそのあとに動詞が置けそうな、アリスを主語にしてそのまま文章が続けられそうな気がするな、と前々から感じておりまして。なので「アリスはふしぎの国で」としておくと、そのまま文をつなげていけそうな雰囲気にもなるので、そうしてみました。

■またこれも感覚的なお話なのですが、詩の訳になると、見た目として横幅が気になってくるんです。原詩では横幅があまりないのに、1行で長くのばしてしまうと、訳している自分としてもあんまりしっくりこなくて。だからできるだけ短め。

【第1回へ】


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