地底から不思議へ:ルイス・キャロルの加筆をたどる 第4回
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カテゴリー: | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2015年2月3日 |

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【凡例】
修正:草稿→修正▼
削除:削除→▼
加筆:▲→加筆▼


▲→4 ウサギ、ビルくんをさしむける▼

なんと白ウサギがとろとろと引き返してきたわけで、歩きながら▲その→▼あたりをきょろきょろ、なくしものでもしたみたいで▲、→。▼そのひとりごとが聞こえてくる。「御前《ごぜん》さま! 御前さま! おお、ぴょんぴょん! ああ、ぴょんぬるかな! このままではあの方▲に→から▼打ち首にされよう、白イタチが白イタチのようにまさしく! どこで落としたものか[#「ものか」に傍点]、はてさて。」アリスははたと気づいてね、あの▲花束→せんす▼と白ヤギの手ぶくろをさがしてるんだって、だから▲見つけよう→親切のつもりであたりをさがそう▼としたんだけど、もうどこにも見当たらなくって――すっかり様子が変わったみたいで、池で泳いで▲イ草とわすれな草のならんだ川ぞいを歩いて→▼からこっち、ガラスのテーブルも小さなドアも▲→大広間ごとまったく▼消えてしまっていて。

▲→はや▼まもなくウサギに気づかれたアリスは、ちょうど▲ふしぎそうにちらちらしながらつったっ→あたりをさがしてうろうろし▼てたんだけど、▲たちまち早口で→もう頭ごなしに▼怒《おこ》られてね、「おいメリアン! こんなところで何をしておじゃる[#「しておじゃる」に傍点]! とっとと家へ▲もどって→一走りして▼▲化粧台から→▼手ぶくろと▲花束→せんす▼▲見つけて、→▼持っておじゃれ▲→! ▼▲全速力で、わかったな?→早よう、ほれ!▼」するとおびえきったアリスは▲→指さす方へ▼すぐさまかけ足、▲ものも言わずにウサギの指さす方へいちもくさん→人ちがいだと言おうにも言えずじまい▼

▲→「あたくしをメイドとかんちがいするなんて。」と走りながらひとりごと。「あたくしがだれだかわかったら、おどろいてよ! でっも今はせんすと手ぶくろを取ってきた方がよさそう――まあ、あったらの話ですけど。」▼▲気づけばあっというまに→と言ってるうちに▼目の前にこじんまりしたおうち、ドアのところにはつるつるした金ぞくの表札《ひょうさつ》、お名前には〈シロー・ウサギ〉▲→とほられていまして▼▲→とんとんともせずに▼立ち入るなり、階段《かいだん》をかけのぼった、だって本物のメリアンと出くわすと▲いけない→まずいことになる▼からね、▲→せんすと▼手ぶくろ見つける前に家から追い出されちゃうし。▲広間でなくしたのはわかってた、→
(改行)
▲とはいっても」とアリスは思ってね、「家のなかには、代えがたくさんあるもの。→▼なんてけったいなのかしら、▲→」とアリスはひとりごと、「▼ウサギのお使いだなんて! 今度はダイナがあたくしをお使いにやるんじゃなくって?」すると、こうなるのかなって、あれやこれや思いうかんできてね、「▲→『▼アリスおじょうさま、ただちにこちらへ、おさんぽのごしたくを!▲」「→』『▼今行くから、ばあや! でもこのネズミ穴を見はらないと、ダイナがもどってくるまで、あとネズミがにげでてこないか見ておかないと▲――」「→。』▼でもたぶん、」とアリスは続ける、「もうダイナはうちに置いとけなくなってよ、そんなことをあの子が人間に言いつけだしたら!」

このときまでになんとか入れたお部屋はこぎれいなところで、まどぎわにテーブルがひとつあり、▲→その▼上には▲鏡がついていて、→▼▲アリスの→▼思った通り)▲→せんすと▼ちっちゃい白ヤギの手ぶくろが何組か置いてあった。▲→せんすと手ぶくろ▼1組▲→を▼取り上げて出て行こうとしたとき、目に飛びこんできたのが、鏡わきに立てられた小びん。今度は〈ノンデ〉の札《ふだ》もなかったのに、▲→さらさら▼気にせずせんをぬいて口につけてね▲、→。▼「きっとなにか▲→[#「なにか」に傍点]▼面白いことが起きるにきまっててよ。」とひとりごと。「なにか食べたり飲んだりするといつもそう、だからこのびんだって▲たぶん→きっと▼。今度は▲→また▼大きくなってくれるといいな、だってもうあんなにちーっちゃくなるのなんて▲→ほんとに▼うんざり!」

してこれその通りに、しかも思っ▲→て▼たよりも早々《はやばや》、びん半分ものまないうちに、気づけば頭が天井におさえつけられるので、首が折れないようにと身をかがめ▲て、→るはめに。▼あわててびんを下に置きながらひとりごと。「もうけっこうよ――もう大きくならなくていいから――▲→このままじゃドアを出られない――▼あんなに▲→たっぷり▼飲むんじゃなかった!」

なんたること! ▲→そうは思っても▼もはや手おくれ▲、→! ▼ぐんぐん大きくなっていって、たちまち▲→ゆかに▼ひざをつくほかなくなり、またたくまにそうするよゆうもなくなって、なんとか横になろうとしてね、ひじをドアにぶつけたり、反対のうでを頭まわりでまるめたり。まだまだ大きくなるから、最後の手として▲→、▼うでの片方をまどの外へ出して、片足をえんとつのなかにつっこんで、そこでひとりごと。「もうこれでせいいっぱい▲――→、どうやっても。▼これから[#「これから」に傍点]あたくしどうなるの?」

アリスにさいわい、まほうの小びんのききめはここで打ち止め、もう大きくはならない。とはいえやっぱりいごこち悪く、それにどうにも▲→自分は▼このお部屋の外に▲は→▼出られる見こみもなさそうで、気がふさぐのもむりはなく。▲→
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「おうちにいた方がまだいい。」とは、ふびんなアリスの想い。「ずっとのびちぢみしてばっかりとか、ネズミ・ウサギに頭ごなしってこともなくって▲――→。▼あのウサギ穴に入らなきゃよかった、って思う▲→――▼けど▲、→――▼けれど――どこかへんてこ、ほら、こんな世界って。ふしぎなの、どんなことが起こってくれる[#「くれる」に傍点]のって! いつもおとぎ話を読んでると、▲こんなこと→そんなの▼ぜったい起こりっこないってきめつけるのに、いま、ここで、あたくしはそのまっただなか! なら、あたくしについて書かれた本があってもよくてよ、じゃなくて? 大きくなったら書くんだから――まあ、今だって大きいけれど▲。→、▼」と、いじらしい口ぶり▲→で続けてね▼、「といっても、ぎゅうぎゅうでここでは[#「ここでは」に傍点]もう大きくなれなくてよ。」

「だとすると、」とアリスは思う。「今よりもう年は取らない[#「ない」に傍点]ってこと? ほっとしなくはないわ――おばあちゃんにならなくていいし――でもそうなると――いつまでもお勉強の山! えっ、そんなの[#「そんなの」に傍点]ぜったいいや!」

「もう、アリスのバカ!」と▲まだまだ→ひとりふた役▼。「ここでお勉強なんて、できっこないんだから! ね、あなただけで▲→[#「あなただけで」に傍点]▼ぎゅうぎゅうだから、ぜんぜん入らなくってよ、教科書なんか!」

というわけでそのまま、まずひとりめの役、それからもうひとり、というように、かけ合いをぜんぶひとりでやってたんだけど、何分かすると外から声がし▲たので→て▼、やめて耳をそばだてる。

「メリアン! メリアン!」とその声。「とっとと手ぶくろを持っておじゃれ!」そのあと、階段《かいだん》からたたたたとかすかな足音。アリスはウサギがさがしに来たとかんづいて、ふるえだしたらなんと家までぐらぐら、すっかりどわすれ、自分が今ウサギの何千倍も大きいなんてことはね、だったらこわがらなくていいわけで。▲→
(改行)
そくざにウサギはドア▲のところ、で、→まで来て、開けようとしたのに、内側に開《ひら》く▲もの→ドア▼だから、アリスのひじが▲→ぐっと▼つっかえ▲→になっ▼て、▲いくら→▼やって▲→みて▼もできずじまい。アリスの耳にひとりごとが、「ならば回りこんで、まどから入るでおじゃる。」

「そんなの[#「そんなの」に傍点]むーりー!」と思うアリス、待ちかまえて、まどのま下にウサギの気配がしたところで、いきなり手をのばして、そのままつかむそぶり。何もつかまえられなかったけど、聞こえてくる小さなさけび声と、ずっこけてガラスをわ▲る→った▼音。というわけで頭のなかでは、キュウリのなえ箱かそんな感じのものにつっこんだのかも、てなことに。

お次に来るのはぷりぷり声――ウサギのね――「パット▲、→! ▼パット! どこにおじゃる!」それから今度は聞いたことのない声。「ここにおりますだ! 土リンゴほり中で、▲あのその、→▼おやかたさま!」

「土リンゴほり、ほおお!」とぷんすかウサギ。「こちへおじゃれ、ここ[#「ここ」に傍点]から出すでおじゃる!」▲――→(▼さらにガラスのわれ▲る→た▼音。▲→)▼

「さあ教えるでおじゃる、あのまど▲からはみ出てる→の▼ものは何ぞえ?」

「きっとうんでだで、おやかたさま!」(正しくは、うで、ね。)

「うで! あほうが! あんな大きさの▲うで→▼がおじゃるか! ほれ、まどわくいっぱいぞえ▲、の、のお→▼?」

「そうでごぜえますが、おやかたさま▲、→。▼やっぱどう見てもうんでだで。」

「なぬ、そんなの知ったことか▲→え▼▲→とにかく▼あれめを片づけておじゃれ!」

そのあと長々と静かで、アリスにもときどきささやき声が聞こえたくらい、それも「ぜってえいやですだ、おやかたさま、めっそうもねえ!」「言うた通りにおじゃれ、へたれめ!」といったもので、とうとうもう1度手をのばしてまたつかむそぶりをするはめに。今度はふたつ[#「ふたつ」に傍点]の小さな悲鳴《ひめい》、それとまたしてもわれ▲る→た▼ガラス▲――→の音。▼「いっぱいたくさんキュウリのなえ箱があるのね!」とアリスは思う、「お次はどう出るかしら! まどの外へ引き出すっていうなら、願ってもないことだけど[#「だけど」に傍点]! ほんっともう[#「もう」に傍点]ここ▲から出て行きたくてしかた→にじっとしてられ▼なくってよ!」

しばらくじっとしているあいだ、何も聞こえなかったのだけど、ついに耳に入るごろごろにぐるまの音、たくさんの話し合うざわめき、わかった言葉は、「もうひとつハシゴがおじゃったな――なんぞ、持ってくんのひとつだけでよかったんか▲、→。▼ビルがもひとつ持ってて――▲→ビル! こっち持ってこい、おい!――▼ここ、この角に立てかけ――ちがう、まずふたつつなげねえと――その高さだと、まだとどかな――おお▲、→! ▼これでちょうどいい、やかまし言うな――ここだ、ビル! このロープをつかめ――やねはだいじょうぶか?――気をつけろ、あのかわら、ずれて――あ、落ちてくる! 下の、気をつ▲――→けい!▼」(ずどーん)▲→――▼「さて、だれがあれやる?――ビルじゃねえか――だれがえんとつおりるでおじゃ――やめろ、おらあ[#「おらあ」に傍点]いやだ! てめえ[#「てめえ」に傍点]行けよ!――んな、おらだってそんなの[#「そんなの」に傍点]▲――→! ▼行くべきはビルでおじゃる――おい、ビル! おやかたさまがおおせだ、お前さんえんとつを下りてけって!」

「まあ▲、→! ▼ならビルがえんとつを下りなくちゃいけないってこと?」とアリスはひとりごと▲、→。▼「ふぅん、ぜんぶビルにおしつけたみたいね! あたくしも、たくさんもらったってビルの代わりはおことわり。▲→そこの▼だんろは▲すごくきちきちだ→たしかにせまい▼けど、たぶん[#「たぶん」に傍点]ちょっとけり上げるくらいは!」

できるだけだんろの底の方まで足を引いて、小動物の気配がするまで待ちぶせ、(相手の正体もよくわからないままに)がりっそろそろと、えんとつのなか間近▲→あたり▼まで、とそのとき、「こいつがビルね」とひとりごとついでにしゅっとけり上げて、▲また→▼じっとして次に起こることをさぐる。

まず初めに▲→聞こえたのが▼「ありゃビルだ」の大がっしょう、それからひとりウサギの声▲、→――▼「受け止めるでおじゃる、生けがきのそばぞ!」しーんとしたあと、また今度はざわざわあわてふためく▲、→――▼▲→あごを上だ――ブランデーを――つまさせるなよ――▼どういうことだ、おめえさん。何があった? 子細《しさい》を教えてくれ。」

▲おしまい→つい▼には、弱々しげなきぃきぃ声、(「こいつがビルね」とはアリスの考え)▲言葉はこう、→▼「んあ、よくわかんねえ――▲→もうええ、あんがと。もうようなった――でも▼頭がこんがらがって▲→何つったら▼――▲→わかんのは、▼何かがこっちに来た、びっくり箱みてえに、んで、▲もう次には→▼ぴょーんとロケット花火みてえ▲で→に空へ▼。」▲→
(改行)
「たしかにそんなんだった、おめえさん!」と一同▲の声→▼

「この家を焼きはらわんとな!」とはウサギの声、そこでアリスはあらんばかりの大声でさけぶ、「やってみなさい、あなたたちにダイナをけしかけてよ!」▲これがきいて、またしーん、そこでアリスが「でもどうやってダイナをここへ連れてくるわけ?」と考えているうち、→▼▲→
(改行)
しーんとなって、ひとり考えこむアリス、「次はどう出るつもり[#「つもり」に傍点]なのかしら! まともに考えれば、屋根を外すとかだけど。」ものの数分もするとまたわたわたしだして、アリスの耳にもウサギの声が、「手おし車1台分でおじゃるな、まずは。」

「1台分の、何[#「何」に傍点]?」と思うアリス。でもそのなやみもすぐに晴れて、とたんに小石がたくさんぱらぱらと窓から入ってきて、いくつか顔に当たったり。「せき止めてやってよ、」とひとりごとのあと、大声でさけぶ、「またやったらしょうちしないんだから!」そうするとまたまたしーんとしずか。

アリスがはっとしてちょっとびっくり、なんとその小石、みんなゆかに落ちると小ぶりのケーキに変わってね、そこでぴんとひらめいた。「このケーキをひとつ食べたら、」と考えるアリス、「きっとあたくしの大きさも何かしら[#「何かしら」に傍点]変わるはず。まあたぶん大きくはならないから、小さくなるってだんどり、かしらね。」

そこでケーキをひとつ丸飲みすると、気づけば▲たいへん→▼うれしいことに▲どんどん→いきなり▼ちぢんでいく。▲あっというまに、息苦しい横向きの身のほどからもぬけ出せて、このいどころからも出てゆけるようになると→ドアを通りぬけられるくらいに小さくなるほどで▼▲ものの数分もするとまたまた7センチの背たけに。(改行)全速力で→とたんに▼そのおうちからかけ出▲→てね、す▼ると▲、→▼見つかるのは外で立ちつくす小動物▲→や小鳥たち▼のむれ▲――→。▼▲モルモット、ラッテといったネズミたちにリスどもと、ミドリカナヘビっていう→かわいそうに▼トカゲの▲〈→▼ビル▲〉→▼くん▲→はまんなかにいて▼▲→2ひきの▼モルモット▲の1ぴき→▼にかかえられてて▲ね→▼▲ほかにも→▼びんから何か飲ませて▲や→もら▼って▲るのも→▼いたり。みんなして、▲→アリスが▼出てきたのを見るなりおそいかかってきたんだけど、▲アリスは→こっちも▼ひっしで走ってね、たちまち気づくと▲→ぶじ▼深い森のなかにいて。

▲(改行)みっつめ(改行)(改行)→▼「第1にやるべきことは、」とアリスは森をうろうろしながらひとりごと。「▲→また▼元の背たけになること、それから第2は、あのすてきなお庭へ出る道を見つけること。どうもそうしてみるのがいちばんよさそう。」

たしかに、してみるにうってつけで、すっきりわかりやすい思いつきに聞こえる▲ん→。▼だけど、ただひとつこまったことに、とっかかりがさっぱりわからなくってね▲、→。▼そうして、▲まわり→あたり▼の木々のあいだをそわそわとのぞきこんでいると、ワンとほえる声が頭の上からして、それはもうびくっと顔を起こしたんだ。

1ぴきの図体のでかいワンコが、くりくり大きなお目々でこっちを見ていてね、ぷるぷると前足をのばして▲当てよう→さわろう▼としてくる。「よしよし!」とアリスはあやす言葉のあと、口ぶえを強くふこうとしたんだけど、相手がはらぺこなのかなと気づいたら▲ふるえ→ぶるぶる▼がとまらなくなっちゃってね、そうなってくると、いくらなだめても▲きっととむしゃむしゃ→やっぱりぺろり▼食べられちゃうわけで。▲→
(改行)
もう思わずとっさに木切れをひろい上げてワンコにつきだしてみた。するとワンコはたちまちおどりあがって、きゃんきゃんはしゃ▲ぎながら→ぐ、そして▼木切れにとびかか▲る→って▼、どうもじゃれたいみたいでね、そこでアリスもふみつぶされないよう、でっかいアザミのかげにひらりとよける、そして反対側から出ると、すぐさまワンコが木切れめがけてまた▲かけ→つっ▼こんできたんだけど、でもつかまえようとあせるあまりすってんころりん、これはもう、考えてみれば馬車馬とふざけ合ってるみたいなものだから、アリスも足でふみつけられそうなときには、そのたびごと、はっとしてかけ足でアザミに回りこむ、だからワンコにしても小きざみに木切れへしかけるようになってね、じわ▲り→▼じわ▲り→▼前につめるかと思いきや大きく後ろ、しじゅうぐるるるとほえっぱなしだったんだけど、はてにはとうとうはなれたところでへたりこんで、はあはあと口から舌を出して大きなお目々も半びらき。

これにアリスも、にげるのは今しかないとふんで、▲→そこで▼すぐさま動いてかけ足、▲→そのうちこっちもへとへとで息切れ、▼やがてワンコのほえる声も遠くかすかになっていってね▲、そのうちこっちもへとへとで息切れ→▼

「まあでも、あんなワンコ、かわいらしいものね!」とアリスはひと息つこうとキンポウゲにもたれかかり、▲花→そ▼の葉っぱであおぎながら、「芸をしこんでみるのも▲→けっこう▼面白そう、その――元の背たけになったらの話だけど! ▲→ん▼もう! もう少しで元通りになるのをわすれるところよ! う~んと▲、→――▼どうやれば▲→[#「やれば」に傍点]▼うまくいくのかしら。たぶん何かしら食べるか飲むかすればいいんだろうけど、いったいぜんたい、何を?」

その通り、いったいぜんたい、何を? アリスがあたりをながめまわしても、草花あれど、都合よく▲食べられ→飲み食いでき▼そうなものはその場に何も見当たらない。ところがそばに▲→ひょっこり▼大きなキノコ、背たけと同じくらい▲→。▼で、見上げたり、両わき、後ろに回ってみたりするうち、▲→ふと思いつく。▼かさの上に何があるのか、目を向けてたしかめ▲たいという気持ちになってくる→てみようかなって▼

つまさき立ちで背のびして、キノコのへりからのぞきこむと、目にとびこんできたのが、こっちを向いた大きな青虫、▲→てっぺんに▼すわりこんでうでを組み、ひそやかに水ぎせるをふかして、こちらにも何にも気にとめるそぶり▲さえ→がちっとも▼ない。


第4回訳者コメント

■第4章は微修正がメイン。推敲らしい推敲だと思います。大きな加筆は、出来事に対するアリスの反応・対応といったもの。心情やアクションも含めて、起こったことにどうレスポンスするのか、というところを書き足したかったみたいです。そのことで主人公だという意識が強まるわけですね。

■もともと『地底』でもアリスは行動的だったわけですが、その加筆の方向性を見る限りは、もっと行動的にしたかったのかな、とも感じられます。

■そういえば「川沿いを歩く」という情景を消したのも、元ネタの現実の痕跡を消す方向の訂正ですね。「作品」意識の高さが伺えます。


教材について

■フリー公開用に翻訳するといっても無尽蔵に時間やお金があるわけでもないので、大学の授業のテキストとして選ぶことで、翻訳に必要な時間やお金をまかなっております。そこで教材の検討として、市販されている授業用テキストを読み比べてみるわけなのですが、そのときに確認したのが以下のもの。

  • 尾上政次[訳注]『不思議の国のアリス』南雲堂、1955
  • 井上秀子[註]『不思議国のアリス』開文社出版、1956
  • 大里忠[註解]『不思議な国のアリス』学生社、1958
  • 瀧口直太郎・清水良雄『ふしぎな国のアリス』評論社、1972
  • 渡辺茂[編注]『ALICE’S ADVENTURES IN WONDERLAND 「不思議の国のアリス」』北星堂書店、1975
  • 『ふしぎの国のアリス [講談社英語文庫]』講談社、1988
  • 『ふしぎの国のアリス Alice’s Adventures in Wonderland [RUBY BOOKS]』講談社インターナショナル、1999
  • 『不思議の国のアリス Alice’s Adventures in Wonderland [ナビ付き洋書]』IBCパブリッシング、2007
  • 丸橋良雄・伊藤佳世子[注釈]『不思議の国のアリス《ALICE’S ADVENTURES IN WONDERLAND》』英光社、2010

■最終的に採用したのは、RUBY BOOKSのもの。1回で1章進む授業だったので読むスピードを確保するためにも、行間にルビで訳語があった方が学生にも扱いやすいかと思ったためです。上のテキストのなかには、全編収録されていないものもあるのですが、一般的な授業速度だと、なかなか12章分読み切れないってことなんでしょうね。

■訳すときに参照して実際役立つのは、井上秀子さんの語注と渡辺茂さんの語注。どちらも全編収録で、しっかりとした語注になっています。


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