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「かぜのこ」ジビュレ・フォン・オルファース/大久保ゆう訳
Windchen (1910) by Sibylle von Olfers


かぜのこ にこにこ きのうえから
ましたの おとこのこ みてみると
こはんで あそびの まさいちゅう
おもちゃの こぶねを ぷかぷかり

かぜのこ あとさき かんがえずに
おとこのこの そばに とびおりて
ぴゅうと ふねに おいかぜふくと
おとこのこも むしろ ごまんえつ

かぜのこ おとこのこの おててを
つかみ さあいくよと まっしぐら
おかや のはらを のぼり くだり
おとこのこも さすがに いきぎれ

きれいに みのる りんごの まえ
かぜのこ ぴょいと きのぼりして
ゆめみたいな きらきら りんごを
ゆさゆさ じめんに おとしてゆく

すると ころころ いばらのみのこ
しょいかご いっぱいの おかえし
さて くいしんぼうの おとこのこ
これには もちろん だいまんぞく

かぜのこ わくわくが とめどなく
ふいに ふざけて いろとりどりの
はっぱを かぜで ふきちらすので
そのこも たのしくて たまらない

さあ ぴょんと くもに またがり
ふたりして そらを ひとっとびだ
かぜのこ じめんに やっほといい
おひさまに おいでと よびかける

やがて ふたりは おうちのまえに
かぜのこと おわかれの おじかん
ねえ あしたも ふたりで あそぼ
うん じゃあまたねと おとこのこ
訳者コメント
■Sibylle von Olfers (1881-1916)ふたたび。これまでにも「ねっこうまれのこびとたち」、「もりのおひめさま」を訳していました。実力のわりに知名度の低い不遇の作家ですが、思い入れもあるので10年ぶりくらいに。あと雪の子と蝶の子の絵本もあるのでどうしようかしら。
■訳は「もりのおひめさま」と同様、1行16文字しばり。この数自体に何か意味があるわけではなく、前回に合わせただけ。男の子のお名前はあいにく省略。
■「風の子」は、ドイツ語原文では一貫して中性名詞。なので男の子でも女の子でもない存在として捉えました。そういうあわいが大事だと思います。
■近年はデジタルアーカイヴでも絵本が豊富になってきており、今作はドイツ国際教育研究所附属教育史研究図書館の電子化で、「ドイツ電子図書館」から閲覧・利用可能です。(Project Gutenbergにもあるんですが、いかんせん絵の画質がよくなくて。)
■ちなみに年明けに新刊訳書が出ます。トッピング『基礎から学ぶ修辞学:心を動かす〈説得〉の技法』(フィルムアート社)、どうかよしなに。
■今年はたぶん明日も新訳があります。翻訳が間に合えば……