ルイス・キャロル『アリスの地底めぐり』第2章(草稿)
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カテゴリー: | 投稿者:OKUBO Yu | 投稿日:2012年9月4日 |

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 ふたつめ

なんともへんてこな絵づらのご一行がほとりにお集まり――羽を引きずった鳥さんたちに、毛がぴたーとなったむくじゃらたち――みんなずぶぬれで気持ちわるくていやな気分。さてここで考えるべきは、どうやってぱさぱさにするか。かわかし方を話し合ううち、アリスはもうたいしておどろかなくなったというか、気づいたら鳥さんたちとなかよくお話ししていて、生まれたときからの知り合いみたくなっていてね。なるほどインコとはながなが言いあらそったものだから、しまいにはむすっとされたんだけど、ここで「わたしの方がお姉さんなの、だからモノをよくわかってるにきまってる」なんて言われようものなら、アリスだってインコのお年を知らないからそんなのうなづけないし、インコも自分からぜったいお年を口にしたくないので、どっちもあとは何とも言えない。

とうとうハツカネズミが、それなりにもっともなことがあるみたいだってことで、よびかけてね、「すわれや、みなのしゅう、耳かっぽじろ! おれがすぐにでもお前らをぱっさぱさってほどにしてやる!」すぐさまみんなはふるえながらも大きく輪になってこしを下ろして、アリスがどまんなか、気になるとばかりに目をネズミに向けてね、だっていますぐにでもかわかさないと、ひどい風邪《かぜ》を引きそうだと気にやんでいたんだ。

「おほん!」とネズミはもったいつけたかんじで、「みなのしゅう、いいか? こいつは知るかぎりいっとうぱっさぱさのやつよ。どうかごせいちょうを!

ウィリアム征服王《せいふくおう》、その大義《たいぎ》が教皇《きょうこう》さまのお目がねにかなったとあって、イングランドの民《たみ》はすぐさまこれにひれふした。上に立つ者もなく、このごろは国が外から荒らされ平らげられるのが常《つね》であったからだ。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの王さまは――」

「うげ!」とインコはみぶるい。

「ごめんなすって。」とネズミは顔をしかめながらも、それでいてていねい。「あんた声あげたか?」

「いえいえ!」とあわてるインコ。

「そうかあ?」とネズミ。「まあつづきよ。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの王さまも、味方するとした。スティガンド、国うれうカンタベリ大司教までもエドガー親王つれてウィリアムに面会し冠を差し出すのが得策《とくさく》と見た。ウィリアムのふるまいははじめのうちおだやかだったが――今んとこどんなぐあいだ、あ?」と言いながらアリスの方を向く。

「まだびしょびしょ。」とかわいそうなアリス、「ぜんぜんぱさぱさにならなくってよ。」

「ならば、」とドードーが立ち上がり大まじめに、「集まりの休会を提議《ていぎ》する、なぜなれば、より効果的《こうかてき》な改善策《かいぜんさく》の速やかなる採用《さいよう》が――」

「国語をしゃべれ!」とアヒル。「そんな長たらしい言葉、半分も意味がわからんし、それどころか君だってさっぱりわかってないだろ!」ここでアヒル、自分にうけてグヮグヮと大笑い。ほかの鳥さんもちらほら聞こえよがしにしのび笑い。

「言いたかったことはただ、」とドードーは気をそこねたみたいでね、「この近くに小屋があるから、そこでならこのおじょうさんもお集まりのみなさんもぱさぱさにかわかせる上、そのお話も気持ちよく聞けるということなのだ、お前さんだって我々に話をする約束《やくそく》を守りたかろうと思ってな。」とうやうやしくネズミにおじぎ。

ネズミもこれにはむべなるかな、一同は川のほとりぞいに動いてね、(だってこのときには池ももう広間から流れ出して、きわにはイ草やわすれな草がならんでいたからね)ゆっくりと1れつでドードーを先頭にすすむ。そのうちにじれてくるドードー、あとのみんなをアヒルにまかせて、足取りを速めて先へ、つれていくのはアリスにインコそして子ワシで、あっとういまに小屋に到着《とうちゃく》、そこでだんろをかこんでひと息、毛布にくるまっていると、とうとうほかのみんなもやってきて、ぜんいんぱっさぱさにかわいたとさ。

さてふたたびほとりでみんな大きな輪になって、すわってネズミにご自分のむかっ話をとおねだり。

「おれのは、ながながしっぽりよ!」とネズミはアリスの方を向いて、ため息。

「ながながのしっぽ、ほんっとに。」とアリスはきらきらした目をネズミのしっぽに下ろしてね、そいつは輪をぐるりひとめぐりしそうなほどで。「でも、うしろの〈りよ〉って何のこと?」そうしてこのことになやみだすうち、ネズミも話しはじめて、だからお話も頭のなかではこんなかんじになっちゃって。

 おれらの住まい、しきものの下
   ぶあつくぬくぬく住みよしだ、
         だがなやみもありだ
            ネコときた!
               水さすや
              からが、目
             のゴミクズ
           が、気を重
          くするのが
        犬なりしか!
      ネコが
     されば、
    あとは
   ネズミの
    あそ
     びば、
      なのにある日!
        こは(らば)
          ともに来たる犬
              ネコ、おい
               かけっ
                こ、
               やられて
             ネズミぺ
            しゃんこ、
           みな
          ごろ
          しよ
          ぶあ
          つく
           ぬ
           くぬ
             く
              して
               いた
                と
                こ
 !を             ろ
   との          を
     こ―        、
       ―およろみてえ考

「お前、聞いてねえだろ!」とネズミはアリスにびしっと。「何考えてんだ?」

「ごめんあそばせ。」とおそれいるアリス。「いつつめのまがり角にいらしたところ、よね?」

「わっからんな!」と声をあげるネズミは、とげとげぷんすか。

「あ、からんだ?」というアリス、いつでも人の役に立ちたいざかりなので、目をかがやかせてきょろきょろしてね、「まあ、でしたらほどかせていただけて?」

「そんなこと何も言わねえよ!」とネズミは立ち上がって、みんなからはなれていく。「そんなからっぽの話でバカにされるなんざ!」

「思いちがいよ!」とアリスはくるしまぎれの言いわけ。「でもあなただってずいぶんいらちだこと。」

ネズミのへんじはただうなり声だけ。

「さっさとお話のつづきをしめてくださる?」とアリスがせなかによびかけると、ほかのみんなもあとからそろって、「そうだ、しめるんだ!」ところがネズミは耳をふるだけで、そそくさとはなれていって、たちまち見えなくなって。

「ざんねん、おはなれだなんて!」とインコがため息、そしておばさんガニはついでとばかりにむすめに小言。「ほらね! つまり、あなたもかっかしちゃダメってことなのよ!」「ママはだまってて!」と子ガニはややつっけんどん。「がまん強いカキだってどうにかなりそうよ!」

「ここにうちのダイナちゃんがいたらな、できるのに!」とアリスの大声はとくにだれに向けてというわけでもなく。「あの子ならあいつをたちまちつれもどしてきてよ!」

「そのダイナってどなた? よろしければ教えてくださらない?」とインコ。

アリスは乗り気のおへんじ、だっていつでも自分のペットのお話をしたいざかり、「ダイナはうちのネコ。ネズミとりにかけてはもう一流なの、おわかり? それにああ! 鳥をおいかけるあの子をお見せできれば! もう、小鳥なんかねらいをつけたとたんにがぶりよ!」

こんなおかえしをしては、一同大さわぎになるわけで――たちまちにげまどう鳥もいたほど、おじさんカササギなんかそうろっと身じたくをはじめてこう口に出してね、「そろそろうちに帰らねばな、夜風はのどをいためるので。」それからカナリアは声をふるわせながら子どもたちによびかけてね、「あの子に近づいちゃダメ、あんな子とお友だちになっちゃダメだからね!」いろいろ言いわけを作って、はなれていくみんな、アリスはたちまちひとりぼっち。

しばらくみじめにじっとすわってたんだけど、ほどなく気を取り直してね、れいのごとく、ひとりごとのはじまり。「だれかしら、もうちょっといてくださってもよろしくてよ! あんなに、なかよくなりかけてたっていうのに――ほんとに、あのインコとあたくし、もう姉妹みたいなものだったのに! あのかわいい子ワシちゃんにしてもそうよ! それからアヒルにあのドードー! あのアヒル、すてきに歌ってくれたのに、みんなで泳いでいるさなかに。あとドードーが、あのすてきな小屋への道をごぞんじなければ、ぱさぱさにできていたかわからなくてよ――」と、このままだといつまでもこんなふうにしゃべっていたかわからないところ、ふとぱたぱたという足音が耳に入ってね。

なんと白ウサギがとろとろと引きかえしてきたわけで、歩きながらあたりをきょろきょろ、なくしものでもしたみたいで、そのひとりごとが聞こえてくる。「御前さま! 御前さま! おお、ぴょんぴょん! ああ、ぴょんぬるかな! このままではあの方に死刑《しけい》にされよう、白イタチのようにまさしく! どこで落としたものか、はてさて。」アリスははたと気づいてね、あの花束と白ヤギの手ぶくろをさがしてるんだって、だから見つけようとしたんだけど、もうどこにも見当たらなくって――すっかりようすがかわったみたいで、池で泳いでイ草とわすれな草のならんだ川ぞいを歩いてからこっち、ガラスのテーブルも小さなドアもきえてしまっていて。

まもなくウサギに気づかれたアリスは、ちょうどふしぎそうにちらちらしながらつったってたんだけど、たちまち早口でおこられてね、「おいメリアン! こんなところで何をしておじゃる! とっとと家へもどって、化粧台から手ぶくろと花束を見つけて、持っておじゃれ、全速力で、わかったな?」するとおびえきったアリスはすぐさまかけ足、ものも言わずにウサギの指さす方へいちもくさん。

気づけばあっというまに目の前にこじんまりしたおうち、ドアのところにはつるつるした金ぞくの表札《ひょうさつ》、お名前には〈シロー・ウサギ〉。立ち入るなり、かいだんをかけのぼった、だって本物のメリアンと出くわすといけないからね、手ぶくろ見つける前に家からおいだされちゃうし。広間でなくしたのはわかってた、「とはいっても」とアリスは思ってね、「家のなかには、かえがたくさんあるもの。なんてけったいなのかしら、ウサギのおつかいだなんて! こんどはダイナがあたくしをおつかいにやるんじゃなくって?」すると、こうなるのかなって、あれやこれや思いうかんできてね、「アリスおじょうさま、ただちにこちらへ、おさんぽのごしたくを!」「今行くから、ばあや! でもこのネズミ穴を見はらないと、ダイナがもどってくるまで、あとネズミがにげでてこないか見ておかないと――」「でもたぶん、」とアリスはつづける、「もうダイナはうちにおいとけなくなってよ、そんなことをあの子が人間に言いつけだしたら!」

このときまでになんとか入れたお部屋はこぎれいなところで、まどぎわにテーブルがひとつあり、上にはかがみがついていて、(アリスの思った通り)ちっちゃい白ヤギの手ぶくろが何組かおいてあった。1組取り上げて出て行こうとしたとき、目にとびこんできたのが、かがみわきに立てられた小びん。こんどは〈ノンデ〉のふだもなかったのに、気にせずせんをぬいて口につけてね、「きっとなにか面白いことが起きるにきまっててよ。」とひとりごと。「なにか食べたりのんだりするといつもそう、だからこのびんだってたぶん。こんどは大きくなってくれるといいな、だってもうあんなにちーっちゃくなるのなんてうんざり!」

してこれその通りに、しかも思ったよりも早々《はやばや》、びん半分ものまないうちに、気づけば頭が天井におさえつけられるので、首がおれないようにと身をかがめて、あわててびんを下におきながらひとりごと。「もうけっこうよ――もう大きくならなくていいから――あんなにのむんじゃなかったわ!」

なんたること! もはや手おくれ、ぐんぐん大きくなっていって、たちまちひざをつくほかなくなり、またたくまにそうするよゆうもなくなって、なんとか横になろうとしてね、ひじをドアにぶつけたり、反対のうでを頭まわりでまるめたり。まだまだ大きくなるから、さいごの手としてうでの片方をまどの外へ出して、片足をえんとつのなかにつっこんで、そこでひとりごと。「もうこれでせいいっぱい――これからあたくしどうなるの?」

アリスにさいわい、まほうの小びんのききめはここでうちどめ、もう大きくはならない。とはいえやっぱりいごこちわるく、それにどうにもこのお部屋の外には出られるみこみもなさそうで、気がふさぐのもむりはなく。「おうちにいた方がまだいい。」とは、ふびんなアリスの想い。「ずっとのびちぢみしてばっかりとか、ネズミ・ウサギに頭ごなしってこともなくって――あのウサギ穴に入らなきゃよかった、って思うけど、けれど――どこかへんてこ、ほら、こんな世界って。ふしぎなの、どんなことが起こってくれるのって! いつもおとぎ話を読んでると、こんなことぜったい起こりっこないってきめつけるのに、いま、ここで、あたくしはそのまっただなか! これは、あたくしについて書かれた本があるはずってこと、そのはずなの! 大きくなったら書くんだから――まあ、今だって大きいけれど。」と、いじらしい口ぶり、「といっても、ぎゅうぎゅうでここではもう大きくなれなくてよ。」

「だとすると、」とアリスは思う。「今よりもう年はとらないってこと? ほっとしなくはないわ――おばあちゃんにならなくていいし――でもそうなると――いつまでもおべんきょうの山! えっ、そんなのぜったいいや!」

「もう、アリスのバカ!」とまだまだ。「ここでおべんきょうなんて、できっこないんだから! ね、あなただけでぎゅうぎゅうだから、ぜんぜん入らなくってよ、教科書なんか!」

というわけでそのまま、まずひとりめの役、それからもうひとり、というように、かけ合いをぜんぶひとりでやってたんだけど、何分かすると外から声がしたので、やめて耳をそばだてる。

「メリアン! メリアン!」とその声。「とっとと手ぶくろを持っておじゃれ!」そのあと、かいだんからたたたたとかすかな足音。アリスはウサギがさがしに来たとかんづいて、ふるえだしたらなんと家までぐらぐら、すっかりどわすれ、自分が今ウサギの何千ばいも大きいなんてことはね、だったらこわがらなくていいわけで。そくざにウサギはドアのところ、で、あけようとしたのに、内がわにひらくドアだから、アリスのひじがつっかえて、いくらやってもできずじまい。アリスの耳にひとりごとが、「ならば回りこんで、まどから入るでおじゃる。」

そんなのむーりー!」と思うアリス、待ちかまえて、まどのま下にウサギのけはいがしたところで、いきなり手をのばして、そのままつかむそぶり。何もつかまえられなかったけど、聞こえてくる小さなさけび声と、落っこちてガラスをわる音。というわけで頭のなかでは、キュウリのなえ箱かそんなかんじのものに落っこちたのかも、てなことに。

おつぎに来るのはぷりぷり声――ウサギのね――「パット、パット! どこにおじゃる!」それからこんどは聞いたことのない声。「ここにおりますだ! リンゴほり中で、あのその、おやかたさま!」

「リンゴほり、ほおお!」とぷんすかウサギ。「こちへおじゃれ、ここから出すでおじゃる!」――さらにガラスのわれる音。

「さあ教えるでおじゃる、あのまどからはみ出てるものは何ぞえ?」

「きっとうんでだで、おやかたさま!」(正しくは、うで、ね。)

「うで! あほうが! あんな大きさのうでがおじゃるか! ほれ、まどわくいっぱいぞえ、の、のお?」

「そうでごぜえますが、おやかたさま、やっぱどう見てもうんでだで。」

「なぬ、そんなの知ったことか、あれめを片づけておじゃれ!」

そのあとながながとしずかで、ときどきささやき声が聞こえたくらい、それも「ぜってえいやですだ、おやかたさま、めっそうもねえ!」「言うた通りにおじゃれ、へたれめ!」といったもので、とうとうもう1ど手をのばしてまたつかむそぶりをするはめに。こんどはふたつの小さなひめい、それとまたしてもわれるガラス――「いっぱいたくさんキュウリのなえ箱があるのね!」とアリスは思う、「おつぎはどう出るかしら! まどの外へ引き出すっていうなら、ねがってもないことだけど! ほんっともうここから出て行きたくてしかたなくってよ!」

しばらくじっとしているあいだ、何も聞こえなかったのだけど、ついに耳に入るごろごろにぐるまの音、たくさんの話し合うざわめき、わかった言葉は、「もうひとつハシゴがおじゃったな――はあ、おらはひとつしか持ってこれんで、ビルがもひとつ持ってて――ここ、この角に立てかけ――ちがう、まずふたつつなげねえと――その高さだと、まだとどかな――おお、これでちょうどいい、やかまし言うな――ここだ、ビル! このロープをつかめ――やねはだいじょうぶか?――気をつけろ、あのかわら、ずれて――あ、落ちてくる! まっさかさ――」(ずどーん)「さて、だれがあれやる?――ビルじゃねえか――だれがえんとつおりるでおじゃ――やめろ、おらあいやだ! てめえ行けよ!――んな、おらだってそんなの――行くべきはビルでおじゃる――おい、ビル! おやかたさまがおおせだ、お前さんえんとつを下りてけって!」

「まあ、ならビルがえんとつを下りなくちゃいけないってこと?」とアリスはひとりごと。「ふぅん、ぜんぶビルにおしつけたみたいね! あたくしも、たくさんもらったってビルのかわりはおことわり。だんろはすごくきちきちだけど、たぶんちょっとけり上げるくらいは!」

できるだけだんろの底の方まで足を引いて、小動物のけはいがするまで待ちぶせ、(あいての正体もよくわからないままに)がりっそろそろと、えんとつのなか間近まで、とそのとき、「こいつがビルね」とひとりごとついでにしゅっとけり上げて、またじっとしてつぎに起こることをさぐる。

まずはじめに「ありゃビルだ」の大がっしょう、それからひとりウサギの声、「うけとめるでおじゃる、生けがきのそばぞ!」しーんとしたあと、またこんどはざわざわあわてふためく、「どういうことだ、おめえさん。何があった? しさいを教えてくれ。」

おしまいには、弱々しげなきぃきぃ声、(「こいつがビルね」とはアリスの考え)言葉はこう、「んあ、よくわかんねえ――頭がこんがらがって――何かがこっちにきた、びっくり箱みてえに、んで、もうつぎにはぴょーんとロケット花火みてえで。」「たしかにそんなんだった、おめえさん!」と一同の声。

「この家を焼き払わんとな!」とはウサギの声、そこでアリスはあらんばかりの大声でさけぶ、「やってみなさい、あなたたちにダイナをけしかけてよ!」これがきいて、またしーん、そこでアリスが「でもどうやってダイナをここへつれてくるわけ?」と考えているうち、気づけばたいへんうれしいことにどんどんちぢんでいく。あっというまに、息ぐるしい横向きの身のほどからもぬけ出せて、このいどころからも出てゆけるようになるほどで、ものの数分もするとまたまた7センチのせたけに。

全速力でそのおうちからかけ出ると、見つかるのは外で立ちつくす小動物のむれ――モルモット、ラッテといったネズミたちにリスどもと、ミドリカナヘビっていうトカゲの〈ビル〉くん、モルモットの1ぴきにかかえられててね、ほかにもびんから何かのませてやってるのもいたり。みんなして、出てきた子を見るなりおそいかかってきたんだけど、アリスはひっしで走ってね、たちまち気づくと深い森のなかにいて。

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【文体メモ】

このAlice’s Adventures Under Groundの文体は、当時の一般的な文章とはまったく、また最終的に本になったAlice in Wonderlandとも少し異なるものです。特徴を箇条書きするとこうなります。

  • 一文の息が長い
  • 括弧書きの内語が多い
  • キャラの個性よりも、筋の奇天烈ぶりの方に重きがある
  • 言葉遊びはまだ少ない

ひとつめについては、単に文章が長いというわけではなく、文章が凝っているために長くなったということでもありません。ごくシンプル文が伸びただけのものや、あるいは普通ならピリオドで止めてしまうような文と文が、コンマやコロン・セミコロンといった句読点で一気につながれてゆく、というものです。まるで、しゃべりたいことをわーっと一息に言ってしまうような、そういう長い息が感じられるのです。

そして内語については、自分のしゃべる物語へ、常に自己言及的に文章が挿入されていく、というものです。再説明、言い訳、照れ隠し、理由としては様々ですが、そこここで普通以上に括弧が現れ、要不要を問わず、奇天烈な世界をアリスを補足していきます。のち「ふしぎの国」として本になったもの以上にその括弧は多く、その刊本では外されているところでも、執拗に括弧でくくられていたりします。

さらに「ふしぎの国」との大きな違いは、ストーリーテリングが重視されており、奇怪なキャラなどはまだあまり現れていないということです。帽子屋も豚になる赤子もおらず、人ならぬ従卒たちも、そして何よりもチェシャ猫が姿を現しません(青虫とウミガメフーミくらいです)。変化する主人公と転じる場が主たる筋となって進んでいくわけです。

さいごに「ふしぎの国」の持ち味でもある、様々なナンセンス・言葉遊びもまたここには多くありません。いくつか即興的なものは散見しますが、あれこれ考えた上での論理的なナンセンスはまだまだ少なく、替え歌やだじゃれといったものが大半です。しゃべられたもの、と、書かれたもの、とのあいだの違いがおそらくはあるのでしょう。

以上のことを念頭に置いた上で、4年間分の文体練習の成果を訳文に出せるよう努力する所存です。

 


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