雪国の話
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カテゴリー:未分類 | 投稿者:ten | 投稿日:2013年1月16日 |

 東京の学生となって初めての冬、沖縄出身の同級生たちが、「生まれて初めて雪をみた」と感動していた。そんな彼女たちを見て、雪国出身者の私たちは感動した。


 東京にいると、数センチの積雪で電車が止まる。学校が休校になる。なんと、人に優しいところなのだろう。故郷では、1メートル積もっても電車は動き、学校は始業時間を遅らせても通常に授業をした。そういった頑固さに正確な私の高校は高台あった。朝は、勇気ある人たちが踏みしめた坂道を縦一列になって上がっていく。帰りはというと、大分均され広くなった道を横一列になって降りていくという毎日。だからこの時期ならではということも。
 気温が下がる下校時の坂道はつるつると滑るので注意が必要だ。それをわかっている私と友達は、用心深く下半身に力をいれて坂道を降りていた。もちろん、マフラー、コート、手袋、長靴という冬スタイルである。思春期、話すことは、男子の話。「A君って素敵だよね」と、意見が一致したはずで、私が「ねえ」と念を押そうと思って横を向いたら、堆く盛られた泥のついた雪、その向こうに紡錘系のふっくらとした白い木立。一瞬にして友達の顔が消えた。突然、そのA君が私の視界に入ってきた。そしていともあっさりと「じゃあ」と私に手を振って降りていった。ぽかんと彼の背中をみていると、私の制服のスカートを引っ張る者がいる。引っ張られるまま下をみると、真っ赤な顔の友達が雪の上に両足を投げ出し、大きな尻餅をついていた。私は、驚いていると彼女は懇願する目をして「ねえ」ともう一度スカートを引っ張った。、私は、彼女を引っ張りあげた。腰とお尻が痛いというから腰をさすろとしたら、「もういいよ」と小さな声で答えた。大事にはいたらなかったからよかったものの、用心をしていても一瞬の隙をついて転倒事故は起きる。
 残念ながら青空文庫には、一瞬の隙をついた雪の話はないだろうと思われるが、雪国の様子を的確に伝えていると思うのは、年頭に公開された中谷宇吉郎「雪」。石川県出身者は雪のことをよく知っている。彼の名を広めた結晶はもとより、雪の被害についても金額を調べている。屋根雪を下ろすための費用は、いかに村の財政を圧迫したか。そして雪との戦いの知恵と活用。雪について余すところなくかかれている作品である。

雪の人間に与える損害は色々数えることが出来よう。そのうち計算にのらぬものは今此処には挙げないとして、物質的な損害のみを数えるに止めるがそれも容易な量ではない。

 雪は人間の生活に害を与えるばかりではない。これを利用すればまた頗る有用のものであることも論をまたない。

 子供のころ、決して軒下で遊んではいけないと厳しく親や先生から言いつけられる。屋根雪が落ちてきて生き埋めになったり、死にはいたらないまでも怪我をする。また、木造家屋の日本では、屋根雪の重みで家の戸の建付けが悪くなった。戸の立て付けの悪さなどまだよいほうで、圧巻は、おろされた屋根雪が道路に溜まり、そこに雪が積もる。それを毎日繰り返すから、いつの間にか家は、雪で四方を囲まれてしまう。すっぽり雪の中に入った家の中の日中は常に白い、そして暗い。暗さは我慢するとして、困るのは外出だ。玄関の重い戸を開けると目の前に雪の階段があり、そこを上らないとどこへもいけなかった。もしくは二階の窓から出入りした。子供たちは、それを楽しんでいたが、大人、特に老人は困っていた。
 ・・・という話は、今は昔。今では、朝早くから幹線道路はブルドーザーが入り、細い路地も融雪装置が活躍する。暖かな地方とあまり生活が変わらなくなった。加えて温暖化だからだろうか、雪は少なくなり、屋根雪を下ろすまでには至らない。これは街の話で、山間部は、まだまだ苦労が多いだろう。
 私たち雪国の生活様式は変化したが、おそらく暖かい地方の人の雪への憧れは変わらないに違いない。今年初めて東京で冬を過ごす沖縄の人は、今、感動していることだろう。(今はそんなこともないのかな?)
  沖縄出身の同級生たちはどうしていることだろう。東京の雪をみて黒い大きな瞳を輝かせていたっけ。私は、雪で感動できる彼女たちがうらやましかったのかもしれないとウン十年たった今になって思う。私の思いを確かめるように、止んでいたはずの雪が落ちてきた。こんな時は山村暮鳥の「雪」がぴったりだ。

きれいな
きれいな
雪だこと
畑も
屋根も
まつ白だ
きれいでなくつて
     どうしませう
天からふつてきた雪だもの


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