8/16日に青空文庫の中心的な呼びかけ人だった富田倫生さんが亡くなられた。ご冥福をお祈りします。

何年かのあいだ掲載されていなかったaozorablogの再開が始まったのが2012年3月。この青空文庫の月間アクセス増率の分析を初めてアップしたのが2012年4月のことでした。読みこなしてもいないランキング上位の定番作品に目を向けないで、赤丸急上昇的な作品はなんだろうと思って、twitter上で最初はテキストのtweet、ついでTwitpicの画像でつぶやいていたのを、富田さんが読んでくれていて、この場を与えられたのでした。

aozorablogの再開のきっかけの一つとなったのは、アクセス増（アクセスの変動）のこれらのツィートとその前にtwitter上で報告していた各種青空文庫ビューアの注記処理状況の報告であったと思います。アクセス増分析はなんとか続けていますが、注記処理状況の報告については、ブログ上である程度きちんと報告するには、いろいろ調査が必要となるので、富田さんの期待に添うことができないできました。2012年の夏に、『もうひとつの「リフローは難しい」、あるいは期待するリフロー』 http://www.aozora.gr.jp/aozorablog/?p=1052 と題した一連の調査があるきりです。

富田さんとの出会いは、青空文庫注記形式を利用して漢文の訓点テキストを作成し、青空文庫ビューアで読もうとしていて、再読文字の注記方法が分からなかったことをtwitterで呟いたいていたことからでした。再読文字の注記自体は、その時既に存在していて、“青空文庫［＃「青空文庫」の左に「あおぞらぶんこ」のルビ］”のように注記すれば良かったのでした。再読文字に即して言えば、“未［＃「未」の左に「ザル」のルビ］”のように注記すれば良いわけです。左につくルビは、調べると実にやっかいな注記（処理）で、Webkitでも、まだ実装されていません。青空文庫ビューアでちゃんと処理できているのは、えあ草紙/AIR草紙ぐらいなものです。

■青空文庫 ’13/06 – ’13/08 XHTML版新規公開作品一日当たりアクセス数ランキング(500位アクセス数オーバー分）
ランキングの指数としている超過分アクセス数/日は、またまた計算方法を変えて、該当作品のアクセス数からアクセス数200を引いたアクセス数を公開日からの日数で割った値とすることにした。毎月、ベースの数値を変えるのは遷移を考える際に難しいと思ったからである。

’13/08月XHTML版の新規公開作品のうち、500位まで入った作品は22作品であった。新規公開作品数は41作品であったから、ほぼ2分の1である。今月は多数の作家の作品が公開されたが、1位になったのは亡くなられた翌日に公開された富田倫生「本の未来」である。亡くなる数日前に最後の準備が整い、後を託して公開された作品である。

2位は、月末の8/30に公開された夏目漱石「それから」（新字新仮名版）である。さすが夏目漱石、さすが「それから」といったところである。

他に、なにか特徴があるかどうか、ちょっとつかめないが、ぱっと目につくのは、アーヴィング「クリスマス・イーヴ」である。どういう作家なのか分からなかったので、えあ草紙・青空図書館の著者・翻訳者別から調べたら、「スケッチ・ブック」の中の一作品であった。「スケッチ・ブック」からは他に「スリービー・ホローの伝説」が公開されていたが、訳者も底本の文庫も違っていた。

■青空文庫 ’13/07 – ’13/08 XHTML版 アクセス増率ランキング
富田倫生さんの3作品が2位、8位、10位。優れたパソコン・ジャーナリストであった富田さんを示す作品である。「青空のリスタート」は、それまで読んだことがなかったが、twitterのタイムライン上で知り、そのままXHTMLの横書きで読んだ。からまでのパソコン史を“栄枯盛衰”を、そして青空文庫へとつながる道を感慨をもって読んだ。

第1位は、NHKテレビで連続放映された織田作之助「夫婦善哉」。若くして亡くなったことは知っていたが、NHKテレビでの番組宣伝番組で享年33歳であったことを知った。

08月には毎年アクセス数が増える定番の作品がある。3位原民喜「原爆小景」、7位永井隆「長崎の鐘」、15位坂口安吾「特攻隊に捧ぐ」である。

6位桐生悠々「関東防空大演習を嗤う」は新聞で紹介されていたような気がする。他にアクセス数1万を超えた4位森鴎外「舞姫」を筆頭に、なにかしら特別な要因があったと思われる作品が並んでいる。

■青空文庫 ’13/07 – ’13/08 テキスト版新規公開作品一日当たりアクセス数ランキング（新指標）
7月新規公開作品のうち、500位内のランキングに入ったのは24作品。XHTML版より2作品多い。その2作品は、5位北大路魯山人「料理は道理を料るもの」、12位室生犀星「蒼白き巣窟」。テキスト版とXHTML版のランクは微妙に異なるが、特にテキスト版での北大路魯山人作品が上位に来ているのが目につく。

■青空文庫 ’13/07 – ’13/08　テキスト版 アクセス増率ランキング
テキスト版 アクセス増率ランキングでは、1位、2位がXHTML版と同じく1位織田作之助「夫婦善哉」、2位富田倫生「パソコン創世記」であるほかは、7位の宮沢賢治「星めぐりの歌」だけが共通で、後は顔ぶれがまるで異なっている。映画上映中の「風立ちぬ」にちなんだ堀辰雄作品が3位「菜穂子」、4位「風立ちぬ」。NHKテレビ大河ドラマ「八重の桜」で出番が出始めた新島襄「将来の日本 01 三版序」。青空文庫で公開されている新島襄の作品は中央公論社「日本の名著　40」中のこの作品だけだが、それでもこうしてすぐ読めるのは嬉しいことだ。読みたいと青空を見上げると、そこにその作品がある、という青空文庫の発起の精神にのっとった作品だといえる。また、こうしてランキングの中にあがってくるのも嬉しい。

7月末の公開であった北大路魯山人「料理の妙味」は引き続きアクセスを伸ばして9位。ここではアクセス増率に注目しているのだが、7月の公開5日間のアクセス数244というのも、たいしたものだと言える。この点では7/26公開の6位吉川英治「親鸞聖人について」がもっとすごいと言える。

■アクセス数合計の推移
’13/08月のアクセス数はXHTML版494,582、テキスト版344,280、合計838,862。対前月比でXHTML版0.2%、テキスト版7.3%、合計3%の微増である。

対前年同月比では、XHTML版111%、テキスト版40%、合計64%である。テキスト版の対前年同月比が40%と2012年08月と比べて半分以下なのは、この月にそれまでの6ヶ月間の平均アクセス数225,356の3.8倍のアクセス数854,952があったからである。このときのアクセス数の急激な上昇は、iPhoneの無料青空文庫ビューアのi読書の公開が原因だろうなどと推測されたが、事実かどうかは定かでは無い。