豊島の青空文庫
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カテゴリー:青空文庫 | 投稿者:ag | 投稿日:2014年10月21日 |

青空文庫に作品を登録する過程で、青空文庫の運営側にもその作品の底本を入手する必要ができてしまった。もっとわりきった作業の流れにしてしまえば、このリアルな紙の本を青空文庫側で入手する必要を極力避けることが出来たような気もするけど、富田さんはそのようないい加減なことはしなかった。しっかりと青空文庫側で点検する作業を怠らなかったのだ。だから、富田さんや他の受付担当者の家の本棚には青空文庫で使った本がどんどんと溜まってしまった。

昨年の夏、富田さんが亡くなった時、これらの本をどうしようかと言う話しになった。ごく普通に考えれば、トランクルームやレンタルスペースに預ける選択肢を選ぶと思う。実際にそのような考えに傾きつつあったところ、瀬戸内海の豊島(てしま)に住むサウダージ・ブックスの浅野さんが本を引き取ってくれることを申し出てくれたのだ。

サウダージ・ブックスの浅野さんは、私が知りあった時には神奈川県の葉山で出版を行っていた。それから突然、京都の京田辺市を経て、瀬戸内海の豊島(てしま)に移り住んでしまった。そこで(実際の事務所は豊島の隣の小豆島にあるけど)主に「旅」をテーマにする出版を行っている。青空文庫にも収録されている黒島伝治の作品集も出版している。

トランクルームやレンタルスペースのような無機質なところよりも、なんとなく瀬戸内海の島に存在する「青空文庫」と言うイメージに惹きつけられて、東京からはちょっと遠くて、そんなに頻繁には行けない場所だけど、お言葉に甘えて本を引き取ってもうらうことに決めてしまった。

そんな「青空文庫底本図書館」とも呼べるところへ10月8日に行ってきた。本がどのような感じに並べられているかこの目で見たかったのだ。

新幹線、フェリー、高速艇と乗り継いでやっとたどり着いた豊島の唐櫃(からと)港では浅野さんが出迎えてくれた。そして、浅野さんの車で豊島をぐるっと一巡り。豊島のいろいろなところを見させてもらう。天気も良くて、島が奇麗だった。

最後に浅野さんの家にある「青空文庫底本図書館」へ。ついに富田さんの家の書斎でほこりにまみれながら箱詰めした本たちとまた再会することができた。

和室の四方の壁に置かれた手作りの本棚に収まった本たちは美しかった。できることなら、ここでのんびりと読書をしたかった。東京では味わえない島ならではのゆったりと流れる時間が読書にはぴったりだった。ゆくゆくは、この「青空文庫底本図書館」は開放されて、誰でも訪れることができるようになるはず、だと思う。そんなに簡単に行ける場所ではないけれど、でも、だからこそ良いような気がする。ネットの青空文庫にはすぐにアクセスできて、リアルな青空文庫へはなかなかアクセスできない。その落差が楽しい。


4 Comments »

  1. 素晴らしい底本図書館テスね。ところで、この図書のリストは青空文庫で公開できないのでしょうか。こん後校正のおり、底本があるのかないのかチェックできるとよいのですが。それともこの図書の分は、すべて公開ずみのものでしょうか? よろしく。

    Comment by 岡山勝美 — 2014年10月22日 @ 4:20 PM
  2. https://docs.google.com/spreadsheets/d/1EovSn8qZIJh7dvvf1AFjkBM-x70yxQwAFoxTAg0FYuQ/edit?usp=sharing
    ここにリストがあるんですが、青空文庫のどこに明記しておけばいいのやら。

    豊島にある本は、ほとんどが公開済みか、現在、進行中のものではないかと思われます。それ以外のも、もちろん含まれているとは思うのですが、たぶん少ないです。

    Comment by ag — 2014年10月22日 @ 10:43 PM
  3. 豊島まで行っていただいたagさん、ご苦労様。
    豊島は小豆島の隣の小さな島ですが、かつては膨大な産業廃棄物の不正投棄で、いまは豊島美術館や島のあちこちに置かれたアート作品で有名です。義父の生まれ育ったところということで、体の自由が利かなくなった義父の代わりに墓参りに出かけたことがあります。その豊島に青空文庫の底本図書館ができたと知った時、寂しさとうれしさを感じたものです。
    底本図書館だけでは足が向かないでしょうが、豊島美術館はとても不思議な空間です。島自体が訪れる価値があります。私も、また墓参りの機会があるかもしれません。その時はぜひ底本図書館を訪ねたいと思います。

    ところで、その底本の所有者はいまでも青空文庫でしょうか、引き取っていただいたとあるので浅野さんでしょうか。
    私の家にも底本がたまってきています。それも受け入れていただけるのでしょうか。

    Comment by 雪森 — 2014年10月23日 @ 10:59 PM
  4. 雪森さん、いつもありがとうございます。
    いやあ、そうやって工作員の人と繋がって行くのは面白い!
    豊島には、豊島美術館や豊島横尾館があって、観光客もそれなりにいるようですね。そこに「青空文庫底本図書館」が加わると良いと思ったり。

    底本の所有者はいまでも青空文庫なので、こちらで引き受けても構いません。ある程度溜まったら青空文庫にご相談ください。
    よろしくお願いいたします。

    Comment by admin — 2014年10月24日 @ 10:55 AM

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