著作権保護期間延長の動きに対する青空文庫としての対応、2013年まで(クロニクル風)
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カテゴリー:,電子書籍,青空文庫 | 投稿者:AOZORA TPP問題 | 投稿日:2014年6月2日 |
執筆者:Juki

著作権保護期間延長の動きに対して、青空文庫は主に反対の立場から三つの活動を行なってきました。それは「パブリックコメントの提出」と「署名活動」、そして「他団体との連携」です。青空文庫呼びかけ人の富田倫生さんは、主な推進役として昨年まで活動を担ってこられました。
2014年5月27日掲載の「そらもよう」記事「著作権保護期間延長の動きに対する青空文庫としての対応、2013年まで」では、三つの活動毎に動きをまとめました。
ここでは、「そらもよう」や他サイトの記事を道しるべにして、時間の経過に沿って短く記述していきます。

ただし、情報元の一つだった掲示板「みずたまり」「こもれび」は既に終了し、ログを見る事が出来なくなりました。もしかしたら、筆者が見落としている情報が載っていたかもしれません。ご存知の方がいらっしゃいましたら、コメント欄にてご指摘いただけると幸いです。

・2004年

今も読める形で記録が残っている中では、2004年10月10日に(初代) aozora blog で富田さんが執筆した「「著作権法改正要望事項」に対する意見募集」が一番初期の記事と思われます。当時の文化庁が同月8日から21日まで受け付けていた「著作権法改正要望事項に対する意見募集」に対して、皆で意見を送ろうと呼びかける内容でした。

同月20日、同じく aozora blogの「明日が〆切! 「著作権法改正要望事項」に対する意見募集」とコメント欄では、実際に送った意見二通が紹介されています。

12月3日、著作権保護期間延長反対のバナーを「うに」さんが提案。バナーは現在も青空文庫トップ頁などで使われています。

12月7日には「青空の行方/なにゆえの著作権保護期間70年延長か」で、著作権保護期間延長に関する2004年夏からの動きをまとめています。

・2005年

元旦の「そらもよう」で、富田さんは「著作権保護期間の70年延長に反対する」という題名で著作権保護期間延長問題を改めて取り上げました。

11月15日、『インターネット図書館 青空文庫』が、はる書房から出版されました。5日後の11月20日、編著の野口英司さんは「青空文庫の本を出版」で、出版した理由の一つに「著作権の保護期間を70年へ延ばそうとする動きがあること。そして、そんな法改正の動きは、青空文庫のようなものを知らない限り、一般の人びとにとって関心事にはなり得ないと思ったこと」を挙げています。

・2006年

著作権保護期間の延長問題が知られるようになった中で、それでも尚、著作権保護期間が近々満了になる予定の作品を前もって入力しておきたい、という気持ちがある方はどうしたら良いのでしょうか。公開が暫く延長になるかもしれないからと全く諦めるべきなのでしょうか。また、該当しそうな作品の入力の申し込みを受けた際はどうしたらいいのでしょうか。
世話役と点検メンバー双方で方針を協議し、青空文庫メーリングリストを利用して工作員の皆さんに諮りました。そして、2月1日「著作権保護期間延長の対象となるりうる作品への取り組み方針(原文ママ)」で、以下の方針を発表しました。

  • 受け付けはこれまで通り、2年先の元日から公開できるものまでを対象とする。
  • 2008年以降に著作権切れを迎えるものの申請があった際は、公開が20年遅れるかも知れない旨を伝えた上で、そのリスクを受け入れてくれるのであれば、受理する。
  • 影響を受ける可能性のある作家の作品リストにも、その旨を記載する。
  • 延長の動きが、青空文庫の活動に直接影響し始めたことを示し、なにが、なぜ起ころうとしているのかを明らかにしていく。

11月8日、「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議(国民会議)」が発足。発起人の一人から声をかけられた富田さんは快諾、青空文庫呼びかけ人の立場として発起人に加わりました。(後に「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」は「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)」と改名。)
次の日、富田さんは「国民会議」発足と発起人参加の報告、並びに12月11日の「国民会議」第一回公開シンポジウムの案内を「そらもよう」上で行ないました。(11月9日「「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」発足」)

11月末、富田さん宅に文化庁著作権課の方が著作権保護期間の延長の件で訪問。「延長によって活動が制約されないよう、我々としても配慮したいし、行政として支援する道も探りたい」とのアプローチに対して、富田さんは以下のように記しています。

「だが、問題は、私たちの行方ではない。
問われているのは、インターネットを得て可能性を膨らませた、公有作品のアーカイブ育成一般が、延長によって阻害されるそのことだ。
そう答え、年明けからは、「文化共有の青空を育てよう。」を旗印に署名活動を始めると伝えたところで、ミーティングは実質的に終わった。」
(2009年元旦「12回目の元日の「いつも通り」」より)

・2007年

元旦の「そらもよう」にて、一つの宣言が出されました。

「青空文庫は、今日から、延長に反対する署名活動を進める。」

青空文庫は、この宣言の通り、著作権保護期間延長に反対するための署名活動を二期に分けて行ないました。
まず、署名の意義とやり方を解説するためのページを新たに作り、署名用紙や封筒のpdfファイルを引き出せるようにしました。有志によるプロモーションビデオも同頁で公開しました。(1月21日)海外の読者にも状況を知ってもらう為に、英語によるページも公開しました。

第一期の署名受付は2007年1月1日から同年4月30日まで。集計後に民主党の川内博史衆議院議員に署名簿を添えた請願書を預け、衆議院議長への「紹介」を依頼しました。

第一期の署名簿と共に届けられた誓願「著作権保護期間の延長反対に関する請願」の結果は、
第166回国会(常会)、文部科学委員会において審査未了

4月27日、文化庁・文化審議会著作権分科会「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)」に富田さんが青空文庫呼びかけ人の立場として呼ばれ、証言をしました。(参考:「資料9「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」への意見表明にあたって」)後に、5月10日「著作権保護期間延長反対署名の集計結果」で報告しました。

7月7日、この日は青空文庫十歳の誕生日です。そして第二期の署名活動の開始日でした。同日開催された10周年記念パーティの会場では専用ブースが置かれ、署名を受け付けました。

記念パーティの席上では、青空文庫の収録作品を収めたDVDを全国の公共図書館に寄贈する計画が発表されました。(詳しい趣旨は10月26日「寄贈計画に寄せて」)
後に『青空文庫 全』と題されたDVDは、全国の公共図書館、大学、短大、高専付属図書館、高等学校と全ての盲学校、高等部以上をもつ聾学校、全国視覚障害者情報提供施設協会加盟の点字図書館を中心とした施設92箇所、(残念ながら全てではないですが)養護学校、そして海外の図書館にも贈られました。(「青空文庫を図書館の書架に! 『青空文庫 全』寄贈計画のお知らせ」)

この年の「そらもよう」は他にも、署名関連のニュース(1月25日2月1日4月4日8月7日)や「国民会議(後の thinkC)」が開催するイベント(2月24日8月19日)を紹介しました。

2008年

引き続き第二期の署名を受付中の元旦、「選択の年の元旦に、公有作品のアーカイブよ育てと祈る」では、著作権保護期間延長問題は青空文庫だけの問題ではない、「収録作品を、20年分古いものに限定されるのは、公有作品のアーカイブの全てだ」と改めて念を押しました。つまり、「「青空」に黒雲をかけられるのは、私たちの社会の総体に他ならない」と。

1月31日、 thinkC 発足一周年記念パーティーに、発起人の一人である富田さんが出席。『青空文庫 全』の寄贈計画について話したと思われます。(参考:1月16日「think C 活動報告兼一周年パーティー」)

2月29日、第二期の署名が終了。第一期の時と同様、集計後に民主党の川内博史衆議院議員に署名簿を添えた請願書を預け、衆議院議長への「紹介」を依頼しました。

3月20日、「知的財産推進計画2007」見直しに際しての意見募集を紹介。(3月20日「著作権保護期間延長反対署名第二期の集計結果」)

第二期の署名簿と共に届けられた「著作権保護期間の延長反対に関する請願」の結果は、第169回国会(常会)、文部科学委員会において審査未了

10月13日、文化審議会著作権分科会「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理」に関する意見募集を紹介。
(10月13日「延長問題審議委員会のまとめにあなたの声を」)
意見募集に対して、大久保ゆうさんは11月02日付け「私が送った「中間整理」へのメッセージ」でご自分が送ったという意見へのリンクを紹介し、読者の参加を促しました。

2009年

元旦は「12回目の元日の「いつも通り」」で延長問題に関する活動を一旦休止する宣言をしました。それに伴い、2006年2月に設けた「著作権保護期間延長の対象となるりうる作品への取り組み方針」を、通常通りの対処に戻しました。つまり、二年先に公開予定の作家まで入力・校正を受け付けることにしました。しかしながら、以下の宣言もしています。

「ただ、請願署名のページ自体は残し、延長反対バナーも置いたままにする。
延長の動きが再び顕在化したら、青空文庫は、もう一度、即座に反対の先頭に立つ。」

11月、鳩山首相と川端達夫文部科学相が、相次いで著作権保護期間70年への延長に向けて努力する旨の発言をしたのを受けて、当時の掲示板「こもれび」で民主党へ意見を送ることを提案しました。
(参考:11月19日「著作権保護期間50年を生かす!」、11月24日「青空文庫半減を憂うる民主党へのメール」)

2010年

元旦、トップ頁には”Happy Public Domain Day!”のバナーが表示されました。「ハッピー・パブリック・ドメイン・デイ!」で由来を説明。

以降、毎年の元旦のトップ頁には”Happy Public Domain Day!”のバナーが表示され、コピーライト表示が青空文庫のロゴへ変化するアクションを見ることができます。

2011年

2月、TPPにおける米国政府の知財要求項目がリークされました。(例えばThe complete Feb 10, 2011 text of the US proposal for the TPP IPR chapter

3月15日、青空文庫の収録作品数が1万点に到達しました。

6月8日、青空文庫収録のうち、著作権保護期間が満了し公有となった作品が1万点に到達しました。

11月11日、野田佳彦首相は記者会見で「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と表明しました。(「平成23年11月11日野田内閣総理大臣記者会見」)

2012年

元旦、「本を運ぶ者」で、富田さんは昨年2月のTPP知財要求項目のリークと11月の首相記者会見について触れ、「国民の監視の目の届かないところで、保護期間が決められる可能性が出てきた」と懸念を表明しました。

12月初旬、「一般財団法人インターネットユーザー協会」(MIAU)と thinkC、「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」合同で「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム(thinkTPPIP)」が結成されました。
同フォーラムが出した「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム 提言」の賛同者として富田さんの名が入っています。

2013年

元旦の「春を待つ冬芽」で富田さんは青空文庫が創設以来辿ってきた道を振り返るとともに、著作権保護期間延長の動きについても改めてまとめています。そして、青空文庫や青空文庫を含めたデジタル・アーカイブを春の開花を待つ冬芽に例え、芽の中心にある著作権制度の精神を紹介しています。

3月15日、安倍晋三首相は記者会見で「TPP交渉に参加する」と表明しました。(「平成25年3月15日安倍内閣総理大臣記者会見」)

3月20日、米国連邦議会の裁判所・インターネット・知的財産小委員会(“Subcommittee on Courts, Intellectual Property and the Internet Committee on the Judiciary”)で、米国著作権局長マリア・パランテ(Maria A. Pallante)氏の意見陳述が行なわれ、原稿(予定稿)”The Register’s Call for Updates to U.S. Copyright Law”が公開されました。提言の中には著作権保護期間の短縮案も含まれています。
4月には、有志による原稿の日本語訳(全訳)が紹介されました。(「マリア・パランテはかく語りき―米国著作権局長による著作権法改正提言を全訳する(中川隆太郎|コラム|骨董通り法律事務所 For the Arts)」

6月29日、富田さんは thinkTPPIP 主催のシンポジウム「日本はTPPをどう交渉すべきか ~「死後70年」「非親告罪化」は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?」に登壇者の一人として参加しました。終了後、当日の映像と登壇者による当日のスライド資料がシンポジウムの頁で公開されました。
富田さんが公開の場に姿を現して意見を述べたのは、このイベントが最後でした。

「今、TPPの枠内で扱われようとしている表現の自由、拡散、保存と参照の機会の確保の問題は、本来、経済の枠におさまらない。経済を越えた要素を含む問題を、経済の枠内で扱う羽目に陥っていいるのだと、交渉担当者には胸に刻んでほしい。」
(原文ママ)(富田さんによる当日のスライド資料(pdf)より )

7月9日、内閣官房TPP政府対策本部が募集していた「政府の交渉方針等に関する業界団体側の意見」に対して、富田さんは個人の立場でも意見を提出できると電話で確認し、Twitterと掲示板「こもれび」にて、同月17日(水)17時までに意見を寄せようと呼びかけました。
(参考:「各団体からの意見提出に関する情報(第1回)(関係団体への情報提供)」(内閣官房TPP政府対策本部))

9月25日、『富田倫生追悼イベント』が開催されました。青空文庫も共催に加わりました。第一部は記念シンポジウム「青空文庫の夢:著作権と文化の未来」で、改めて著作権保護期間延長についての問題が話し合われました。


2 Comments »

  1. 以下、中村伊知哉さんがブログサイトBLOGOSに書かれた文章です。

    http://blogos.com/article/88058/

    私も同じような感覚を持っていて、真正面から「延長反対」と対立しても解決の糸口は見えないように思います。
    文化行政側も、著作権延長による弊害はここ数年の動きでよく理解してきているはずなので、延長により、問題が起きないように、延長までに対策をとって欲しいという要求も必要だろうと考えています。
    そうすれば、現在の50年と言わず、10年でも20年でも、埋もれる著作がデジタルで陽の目を浴びる可能性が増えるように感じるからです。

    Comment by おおの — 2014年6月16日 @ 11:48 AM
  2. 下のリンクで言うような話をきちんと詰めていくと70年が100年になっても困らないと思うんですよね。
    例えば、権利関係を調べるのは大変だから、生前でも死後でも権利を主張したい人は公的な期間に登録せい!とすると、保護したくない、というか、もっとオープンに利用して欲しいという人の思いは生きるわけです。

    http://copyright.nobody.jp/interview-sh-5.html

    硬直的に「エンチョウスルノ、ハンタイ」と言っても、打開策はないと思いますよ。

    多くの人にとっては、過去の人の著作権なんて、ほとんど関係ないんだもの。

    Comment by おおの — 2014年7月15日 @ 1:40 PM

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